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北アメリカの神話[Ⅰ]

目次

  1. 人間の起源
  2. 月の斑点の由来
  3. このはずくと尾長狼
  4. 昼夜の起源
  5. 動物の起源
  6. 死の起源
  7. 種子の由来
  8. 洪水の話
  9. 争いの起源
  10. 医巫の起源
  11. 亀の嫁
  12. 星になった若者と犬
  13. 宵の明星と孤児星
  14. 星のお嫁になった乙女
  15. 雷光と人間
  16. 雷光と雷とになった兄弟
  17. 足から生まれた怪童
  18. 四つの難題
  19. このはずく
  20. 力士となった孤児
  21. 水の怪魔
  22. 悪獣退治
  23. 水牛の災い
  24. 水牛捕りのぶらんこ
  25. ペカン樹の由来
  26. 月に迎えられた男の子
  27. 最初の軍団
  28. 旋風の神
  29. 人食いの最期
  30. 若者と人食い
  31. 尾長狼と六人兄弟
  32. 狼を呼び出すタバコ
  33. 弓の矢と死人
  34. 七曜星の由来
  35. 蛇になった男
  36. 蛇と女
  37. 梟の悪戯
  38. 魔力を授かった猟師
  39. 赤豹を娶った少年
  40. 犬の舌はなぜ長いか
  41. 鷹の脚
  42. 水牛と熊の力比べ
  43. 兎の知恵
  44. 兎と山猫
  45. 雨の起源
  46. 尾長狼と熊
  47. 尾長狼の失策
  48. ありもせぬ敵
  49. 氷に閉ざされた狼
  50. 尾長狼の火傷
  51. 物真似の失敗(その一)
  52. 物真似の失敗(その二)
  53. 盗みの罰
  54. 水中の影
  55. 尾長狼と鷲鳥
  56. ウサギと尾長狼
  57. 山猫の仇討ち
  58. 水牛になった尾長狼
  59. 袋遊び
  60. 盲目狼
  61. 尾長狼と亀との競走
  62. 山猫と尾長狼
  63. かみ比べ
  64. 臼になった尾長狼
  65. 水牛乙女
  66. 山猫のお嫁
  67. 罪の報い
  68. 嫉み深い夫
  69. 大亀の背

第二編 ヒアワサ物語

  1. ヒアワサの生立ち
  2. 父子の猛闘
  3. 玉蜀黍の起源
  4. 怪魚退治
  5. ヒアワサと魔法使い
  6. 美しい乙女との結婚
  7. 絵文字の発明
  8. 医術の稽古
  9. 悪戯者の最期
  10. クワシンドの秘密
  11. ミネハハの死
  12. ヒアワサの行方

神名・人名・獣・悪魔等

名称概要
尾長狼
このはずく
雪寒
蛇女
山猫
兎
ヒアワサ物語
ムジェキーウィスヒアワサの父。勇敢で、大きな熊を棍棒で叩き殺す
ヒアワサ
ワブンムジェキーウィスの息子。父に東風を与えられる。若くて美しい曙のような頬をしている。
シャウォンダシームジェキーウィスの息子。父に南風を与えられる。始終夢見るようにのらりくらりしている。
カビボノッカムジェキーウィスの息子。父に北風を与えられる。気が荒くて猛々しい、氷山の間に住んでいる。
ウェノナームジェキーウィスの妻。ヒアワサの母。
ノコミス月の娘、ウェノナーの母
イアグーノコミスの友達の旅人
ミネハハ
マニトー生命の主
モンダミン人間の友達と名乗る。マニトーの使者。その体を置いた床から玉蜀黍が生える。
ミシェナーマあらゆる魚族の王、大きな鮫
マスケノザミシェナーマの手下の魳(かます)
ウグドワッシュミシェナーマの手下の翻車魚(まんぼう)
クワシンドヒアワサの友達、一緒に舟に乗る
カヨシュク「気高い㧓手(かきて)」という意味。ヒアワサが自分を助けてくれるために働いた海鷗(かもめ)に付けた名前。
パウ・パク・キーウィス陽気な若者で、遊戯やふざけ事が大好き。怠け者。
チビアボス歌が上手
オッセオ宵の明星の息子、イアグーの話に登場する。
メギソグオンノコミスの父を殺した魔法使い

自然民族等

名称概要
キャド―族
キオワ族
コマンキー族
オジブウェー族ヒアワサの父ムジェキーウィスの部族
ダコタ族ミネハハの部族

植物・道具等

名称
ウォービーク黒い岩、ムジェキーウィスはヒアワサにこの岩が怖いという
アプクワ蒲草(がま)、ヒアワサはムジェキーウィスにこれが怖いという
ペカン胡桃科ナッツ類、俗にバターの木と呼ばれる。

地名等

名称概要
シューペリオル湖ウェノナーの家のある場所
ロッキー山脈ヒアワサがムジェキーウィス
ミネハハ滝「笑う水」という意味。矢作りの家がある。

キャド―族の神話伝説

人間の起源

世界の初めには、太陽も星も月も大地もなく、どこもかしこも真っ暗だった。だんだんと時がたつにつれて、一人の男が現れた。それが世の中にあるただ一つの生き物だった。この男が現れると、やがて数千の人々の住む村が出来た。そして人々は、その男が至るところにいるような気がしていた。それから暫くたつと、男が見えなくなった。と思うと、やがてあらゆるものの種子をもって帰って来た。そしてあらゆる人々を呼び集めて、「これは食べ物になるものだ」と言って、みんなに分けてやった。それからまた、「今世界が暗いが、間もなく闇が消え失せる、太陽と呼ばれるものが現れるからである。そこで、お前たちは皆の内で一番賢い者をお頭に選んで、その者を酋長と呼んで、なんでもそのいう通りにしなくてはならない。さあ、みんなで相談会を開いて、早く酋長を選ぶがいい。」と言った。
人々はすぐに相談会を開いた。すると尾長狼が真っ先に立ち上がって、「あの見慣れない男は、この世の中で一番先に作られた生き物で、なんでも心得ているらしいから、あの男を酋長にするのがいいと思う。」と言った。人々はみんなそれに賛成した。暫くすると、見慣れぬ男(月)は人々を呼び集めて、酋長を選んだかと尋ねた。尾長狼は「あなたを酋長にすることに決めた、そして今後はあなたを月と呼ぶつもりだ」と答えた。月は、酋長になることを承知した。そして自分の仕事を助けてもらうために、一人の男を選んで、それに『使男(つかいおとこ)』と言う名をつけた。『使男』は、酋長が人々に用事があるときに、あちらこちらに駆け回って、みんなを呼び集める役を務めるのであった。あるとき、『使男』が人々の家を訪れて、「お頭が大事な話があるから、早くお頭の所に集まってくれ」とふれ回った。人々はすぐに主張の所に集まって行った。酋長は人々に向かって、「自分たちはここを立ち退いて、他の国に行かなくてはならない。だが人数が多いから、いくつかの群れに分かれて、一つ一つの群に指導者をこしらえるがいい」といった。人々はすぐにいくつかの群れに分かれて、すると酋長は、各々一人の指導者を選んだ。指導者たちを呼び集めて、一人にひとつずつ太鼓を与えて、「あなた方は太鼓をたたいて、歌を歌いながら進んでいかなくてはならない。そしてどんなことがあっても、途中で後ろを振り向かないように気を付けてもらいたい。もし振り向くようなことがあると、人々はぴたりとそこに立ち止まって、闇の国から抜け出せなくなるから」と言って聞かせた。人々の群れは指導者たちに連れられて、西へと動き出した。しばらくすると先頭に立った人々が、大地の中から抜け出して、他の世界に現れ始めた。すると、尾長狼が出し抜けに後ろを振り向いて、「新しい世界は、どうも小さすぎるようですよ」と酋長に声をかけた。途端にまだ大地の中を歩いていた人々は、ぴたりと足を止めて、闇の中に居残ることになってしまった。ただ新しい世界に出ていた人々だけが、西へと歩き続けた。しばらくすると、酋長が砂埃を摑んで、前の方に投げ出した。と思うと、行く手に高い山が幾つとなく現れた。人々は山の麓にたどり着き、そこに彼らの最初の住居をこしらえた。酋長は、人々を呼び集めて、「右手の方を北、左手の方を南と呼ばなくてはならない、北は寒いほうで、南は暖かいほうだと言うことも、心得ておくがいい」と話した。話しているうちに、太陽が東から現れて、人々の上を通って、すぐに西に行ってしまった。それを見ると尾長狼が、「太陽があんなに早く通り過ぎるようでは、私たちは何をする暇もない。私が太陽に掛け合って、もう少しゆっくり歩いてもらうことにする」と言い出した。そして朝早く東の方に進んで行って、太陽の現れるのを待っていた。やがて太陽が現れでた。尾長狼は太陽に向かって、「私は、あなたに少し用があってきたんです」といった。太陽は「自分はせわしいので、ゆっくり話しているわけにはいかない」と答えた。尾長狼は「それでは、私もあなたと一緒に歩きながら、用向きをお話することにしよう」と言った。二人は一緒になって歩き出した。尾長狼は、わざとゆっくり足を運んだ。そしていろんな話をしているうちに、西の果てに近づいた。すると尾長狼は、太陽に向かって、「小便をしてくるから暫く待ってください」と言って、藪の後ろに駆け込んだが、太陽の眼の届かないところに来ると、そのままどこともなく立ち去ってしまった。太陽は、いつまで待っても、尾長狼が現れてこないので、ゆっくり歩きだした。そして、もう尾長狼がやってくるかと思って、時々後ろを振り返った。こうして太陽は、のろのろ歩くようになった。人々が新しい住居に落ち着くと、酋長は人々に向かって、「間もなく一人の男の子が、ここにやって来る。その男の子は誰よりも優れた力を具えている。天界の『偉大な父』が人間にいろんなことを教えさせるために、その子供をお送りになるのだ。男の子は弓矢を携えて現れるが、お前たちはこれをこのはずくと呼ばなくてはならない」と言って聞かせた。それから暫くたつと、果たして一人の男の子が弓矢を携えて現れた。そして人々の間を歩き廻って、弓矢の使い方や、正しいことと邪なことの差別等を教えてくれた。

解説:世界の初めは混沌。一人の男が現れそれがただ一つの生き物だった。男から多くの人が住む村になる。この男があらゆるものの種子を持って来た。その後太陽が出る。その時酋長が選ばれるが、それが月であることは注目するべき。酋長は尾長狼によってえらばれている。尾長狼はこの神話全体で重要。その後、他の国に行くために太鼓をたたき歌いながら西へ進むが、途中で後ろを振り向かないようにして、振り向いたなら闇の国から抜け出せないという。これはロトの話に似ている。人々は大地の中から抜け出し、他の世界に現れるが、そのとき尾長狼が新しい世界は小さすぎるという。これは、矮人たちの世界に繋がっていたということかもしれない。最初の住居を作った後、右手を北、左手を南と呼ぶようにしている。西へ進んだが、事実はどうだろうか、大地の中とあるが、パープルホールとの関連がうかがえる。その後、尾長狼は太陽と話し合いながら歩き太陽の速度を遅くすることに成功する。尾長狼が去った後、太陽が時々後ろを振り向くということにも注意したい。これは太陽が振り向く時には、月が時を支配するということかもしれない。そして、月は、間もなく偉大な父の子供のこのはずくが来る。梟はポリネシア、オーストラリアで神聖な鳥とされることがある。

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月の斑点の由来

人々が大地の中から出て、新しい世界に住むようになった当座は、酋長の月が時々人々を呼び集めて、いろんなためになることを教えていた。しかし、しばらく経つと、月はさっぱり人々を構わなくなってしまった。人々は心配して、「どうも変だ、お頭はどうかしているんじゃないだろうか」などと、ひそかに話し合うようになった。人々の心配は当たっていた。月は、村の真ん中に家を構えて、両親や妹と一緒に住んでいたが、夜毎親に隠して、妹の部屋に入り込んでは、彼女をひどく叱りつけていた。妹は自分を叱りとばす男が、まさか兄だとは気が付かなかったが、あまりうるさく小言を言われるので、「本当に嫌な人だ、一体誰だろう、正体を見届けなくてはならぬ」と考えた。そこである晩、指の先に黒いものを塗り付けて待っていると、やがて男がやってきた。乙女は男の側にすり寄って、そっと指でその額を撫でた。夜が明けてから見ると、月の額に黒い印が付いていた。乙女はそれを知って、大変に腹を立てた。月は恥ずかしくて堪らないので、他の世界に逃げ出そうと決心した。月が逃げて行ったところは天上界だった。天上界にいる『偉大な父』は、月に向かって、「お前は、今まで人間と一緒に住んでいたんだから、天上界でも、人々の目に着くように、毎晩空に現れなくてはならない」と言いつけた。それで月は恥ずかしいのを我慢して、毎夜空に現れる。そしてその顔についている斑点は、妹に擦り付けられた黒いものの名残です。

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このはずくと尾長狼

人間世界では酋長がいなくなったので、みんなが相談会を開いて、新しく酋長を選ぶことになった。みんなは、このはずくが偉いと言うことを知っているので、この若者に頼んで、自分たちの酋長になってもらうことにした。このはずくは、人々を呼び集めて、「わしたちは、もっと西の方に引っ越すのがいいと思う」と言った。人々はその言葉に従って、高い山山を越えて、西へ動き出したが、高いところから見下ろすと、遥か彼方に大きな湖が横たわっていた。人々は、その湖の側にやって来た。すると、このはずくが、人々に向かって、「みんなの前に横たわっている湖は、以前の酋長の涙がたまったのだ。月は人間世界から逃げ出す前に、山の頂に登って、自分のした悪い行いを心から泣き悲しんだのだ。だから私たちは、この湖を『山上の月の涙』と呼ぶことにしよう」といった。人々は酋長の話を聞くと、懐かしそうに湖を眺めていたが、やがてまた西へと進んで行った。彼らはとうとうあるところに住居を定めることにした。ところが、近くの湖の中に一匹の妖しい獣が住んでいて、絶えず災いを起こすのであった。人々は大変困って、首長のこのはずくにそのことを訴えた。このはずくは、湖の側の茂みに潜んで、怪しい獣の様子を解くと見届けた。「よし、いよいよあいつを退治する見込みが付いた」とこのはずくは言って、玉蜀黍の実をぱっと空中に投げ上げると、たちまち数羽の黒鳥となって、まっしぐらに妖しい獣の頭にとびかかって行った。獣は、身を躍らせて、黒鳥を水の中に引き込もうとした。その隙を狙って、このはずくが、蘆の矢を射放すと、一本の矢は、獣の心臓を左から右に貫き、一本の矢は、それを右から左に貫いた。獣は湖の端にのたうち回って、もがき苦しんでいたが、とうとう死んでしまった。このはずくは頷いて、湖の端に下って行くと、そこには、いろんな動物の骨がうずたかく積み重なっていた。このはずくは、思わず大きな息をついて、「ひどい奴だ、永い間手あたり次第食い殺していたと見える。だが、もう安心だ、みんなもこれで気が休まるだろう」と独り言を言った。それから暫くすると、湖の水がすっかり干上がってしまった。人々は、からからになった湖の中に、怪獣の屍を見つけて、「あの恐ろしい獣が死んでいるよ」「誰が殺したんだろう、きっと偉い男が現れたに違いない」と大騒ぎを始めた。そしてそのことを酋長に話すと、このはずくは笑って「あれは私が殺したんだ」といった。人々は目を見張って、今更酋長の偉いのにつくづく感心した。そして口々に、このはずくを褒めたたえていると、尾長狼が横合いから口を出して、「みんなお頭を誉め立てるが、私は感心しない。このはずくなんか偉くもなんともないよ。その証拠に、私がどんなことをしても、あの男は黙ってみているだけじゃないか」といった。そしてその後は、あちらこちらを歩き廻っては、人々の迷惑になるようなことをして、「私がこんなことをしても、このはずくの奴、黙って見ぬふりをしているじゃないか」と威張り腐っていた。人々はそれが癪に触って堪らないので、酋長にそのことを話した。このはずくは、笑って、「私も、尾長狼のことについては聞き込んだことがある。とにかく何とかしなくてはなるまい」と言って、使いを立てて、尾長狼を呼び出した。尾長狼は、大きな口をきいてはいたが、酋長から呼び出しを受けると、びくびくものでやってきた。このはずくは、尾長狼の顔を字と見つめながら、厳かな声で、「お前はだいぶみんなの迷惑になるようなことをしているようだ、そんな者は、この地に置いておくわけにいかない。早く立ち退いてもらいたい」と言った。尾長狼はそれを聞くと、心の中で困ったことになったと思った。で、俄に哀れな様子をして、「今すぐに立ち退けとおっしゃっても、大変困る。今後は決してみんなの迷惑になるようなことはしないから、どうかお許しください」と言った。「よろしい。悪い事さえしなければ、強いて立ち退けとは言わない。だが、約束に背くようなことがあると、お前の命が危なくなるから、そのつもりでいるように」とこのはずくが言った。こうして尾長狼は、人々の間に留まることになったが、持って生まれた悪戯気はどうしても抜けないと見えて、ときどき悪ふざけをやっては、ひどい失策をするのだった。

解説:月の涙が湖となっている。「山上の月の涙」そこに妖しい獣が住んでいるが、これの正体は何だろうか。また、このはずくが玉蜀黍の実を投げると黒鳥が現れるという。そして、このはずくは蘆の矢で左右から心臓を貫いている。湖の端にはいろんな動物の骨が積み重なっている。これは別の世界から来たものかもしれない。尾長狼はこのはずくに対して非難をしているが、これは集団全体が一つになることを避けるためかもしれない。それはこのはずくは尾長狼の行いを見ることができていないということか、しかし、人々を介してその行いを告げられるとこのはずくも尾長狼を見ることができるということだろうと思う。この神話は人が初めに現れるところから始まっているが、それゆえに何か行ってもそれが自然と調和する時にはその逆説が生まれえるという暗示かもしれない。

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昼夜の起源

世界の初めには、光というものがなくて、人々は暗闇の中に住んでいた。暫くすると、人々はそれが嫌になって、相談を始めた。尾長狼が真っ先に立ち上がって、「もう暗闇には飽き飽きした。どうにかして光を手に入れなくてはならない。が光ばかりでも困るから光と闇を一緒に持つことにするのがいいと思う」と言った。「それがいい、でもどうして光を手に入れるのかね」と人々が言った。尾長狼がまた、「私たちの内に、一人の予言者がいるだろう。あの人に頼んでみたらどうだろう」と言った。人々はすぐそれに賛成して、予言者に光を手に入れることを頼んだ。予言者はいろいろ考えた末に、「大地の上には、黄色い鹿や、黒い鹿や、白い鹿や、斑のついた鹿が住んでいる。で、もし黄色い鹿を殺したら、何もかも始終黄色になるだろう。白い鹿を殺したら何もかも始終白くなるだろう。斑のついた鹿を殺したら、何もかも斑がついて困るだろう。黒い鹿を殺したら、何もかも今のように黒くなるだろう。だが、もし黒い鹿と白い鹿を一緒に殺したら、夜と昼とが現れる。そして昼の間は、なにもかも白くしているから、出て歩いたり、狩りをしたり、友達を訪ねることができるし、夜の間h、何もかも暗くなっているから、家に帰って休めばいい」と言った。人々は予言者の言った通りに、白い鹿と黒い鹿とを一緒に殺した。だからその後は、世の中に昼と夜とがあるようになった。

解説:バックムーンとの関係があるかもしれない。ここでは白い鹿と黒い鹿である。メキシコでは豹蛇という牡鹿の神と虎蛇という女鹿の神がいるが、その実はどうであろうか。白い鹿と黒い鹿は男神だろうか、そして黄色と斑のある鹿は女鹿だろうか。逆かもしれない。ひょっとすると、バックムーンの時男は女を見ることができないかもしれない。その月は昼と夜を分けるもので、それが混ざるわけにはいかなかったのかもしれない。(シベリア6 月の話)も参照。

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動物の起源

世界の初めには、人間だけが住んでいた。しかし、だんだんとその数が増えるにつれて、食べ物が足りなくなって来た。そこで人間たちは相談会を開いて、「こんなにお互い同士がひとところに集まっていても仕方がない。いくらかの人間は動物になって、めいめいに好きなところに住むことにして、人間のために食べ物となってもらわなくては困る。」ということに話を決めた。そこでいくらかの人間は草を焼いた野原に行って転げまわっていると、だんだんと体が黒くなって、とうとう熊になった。熊どもは細長い白石を拾って、足の先と口とに付けた。こうして爪と牙とが出来上がった。いくらかの人間は、長い草の生えている野原に行って、しきりに転げまわっていると、草が体にくっついて、長い毛となった。こうして水牛が出来上がった。人々は面白がって、いろんなところに行っては転がりまわった。そして鹿やその他のあらゆる動物になった。

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死の起源

世界の初めには、死というものがなく、みんながいつまでも生き続けていた。それでしまいには人間の数があまりたくさんになって居場所に苦しむようになった。そこで酋長たちが集まって相談を始めた。一人の男が、「人間は、みんな交替で死ぬようにして、それからまた生き返ることにしたらどうだろう」と言った。と尾長狼がそれに反対して、「みんな死んだら、二度と生き返らないようにする方がいい、出なくては、食べ物が足りなくなるから」と言った。人々は「死んでしまって、生き返らないようになったら、身内の者や友達に二度と再び会うことができないじゃないか」と言った。それから、みんなが暫くの間死んでいて、それからまた生き返ることにしようと言うことに決まった。そこで、医巫が、一軒の草家を建てて、屋根の上に、白い色をした鷲の羽根と、黒い色をした鷲の羽根とを突き刺して、羽根を指さしながら、みんなに向かって、「あの羽根が血のように真っ赤になったら、誰かが死んだと思うがいい。そしたら、私が折を見計らって、死人の魂をこの家に呼び込んで、生き返らせることにする」と言った。しばらくすると、白い羽根と黒い羽根とが、血のように真っ赤になった。一人の男が死んだ徴だった。医巫は折を見計らって、草家の中に座り込んで、魔法の詩を謳い始めた。幾日も歌い続けていると、十日目に激しい旋風がさっと西の方から吹き起こってきた。そして、草家の周りをぐるぐると回っていたが、やがて東の入口から、家の中に入ったかと思うと、風の中から一人の凛々しい若者が現れ出た。人々は「死人が生き返った」と叫んで、大変喜び合った。しかし尾長狼だけは顔をしかめて、「これは行けない。どうにかして、邪魔をしてやらなくてはならない」と独り言を言った。それから暫くすると、白い羽根と黒い羽根が、また血のように真っ赤になった。それを見ると、尾長狼は、草家のそばに行って、じっと座り込んだ。やがて、医巫が魔法の歌を歌い始めた。幾日か経つと旋風が西から吹きおこって、草家の周りを回り始めた。尾長狼は、そっと草家の戸口に歩み寄って、戸を閉めてしまった。旋風の中に潜んでいた死人の魂は、入口がわからないので、とうとうどこかへ行ってしまった。こうして人間はいったん死んだら、二度と生き返ることができないようになった。

解説:キーポイントは「魔法の詩」「白い鷲の羽根」「黒い鷲の羽根」。西から吹く風が死者の霊魂を呼び覚ましているようである。尾長狼は死者の生き返りを防いでいた尾長狼はやはり、全体統一を防ぐために建てられているようである。ひょっとしたらバベルの塔崩壊にも一役買っているのではないだろうか?

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種子の由来

『偉大な父』(土人の信仰する神)が、蛇女にあらゆるものの種を与えて、「これを地に播くとやがて緑の芽が出る。緑の眼が出たら、水をやって大切に育て上げなくてはならない。そうすると、やがていろんな実がなるから、それを採って食物にこしらえるのだ」と教えた。蛇女は、『偉大な父』に教わったようにして、食べ物をこしらえていた。そのうちに種子がだんだんと殖えてきたため、人間たちに分け与えてやろうと決心した。彼女は二人の息子を呼んで、「食物の種子を人間に分けてやることにするから、お前たちも手伝っておくれ」と言った。二人の息子は、めいめい大きな袋に種子を詰めて、背の上に載せた。そして世界中を歩き廻って、あらゆる人間に、あらゆるものの種子を六粒ずつ分けてやった。蛇女は人間たちに向かって、「種子を地に播くのです。そうしたら緑の芽が出るから、それを大切に育て上げるのです。子供たちに触らせないように気をつけなさい。指をささせてもいけません」と言った。こうして人間は、食べ物を手に入れることができるようになった。そして蛇女の教えを守って、芽が出たら、一生懸命に大切にして、かたく子供を戒めて、指を指したり触ったりしないようにしている。

解説:これは、あらゆるものの種が人の愛によって食物を産み、それを子供が触れることによってその実りを枯れさせてしまうことを防ごうとしているのかもしれない。

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洪水の話

昔、暑い日が長く続いた。いつまでも雨が降らないため、大地の上の水がすっかり干上がってしまった。人々は水を探し求めて、あちこち彷徨い歩いていた。それでも一滴も水が手に入らなかったため、とうとう気が狂って、いろんな愚かなことをするようになった。人々は、乾ききった河床に降りて行って、そこに死んでいる魚や亀などを拾い上げた。ふと空を見上げると、一人の男が雲に乗って、西の方からやって来ているのに気が付いた。やがて風がさっと吹きおこった。と思うと、怪しい男が空から降りてきて、人々の前に突っ立っていた。怪しい男の手には、一枚の小さな緑の葉が握られていた。彼は人々に向かって、「お前たちは、何という愚かなことをするのだ。罪もない魚や亀を無惨に切り刻むとは何事だ。私は、お前たちに罰を与えなくてはならない。」と言った。そして手にしていた緑の葉を、東へ西へ南へ北へ差し出すと、水の玉がたらたらとしたたり落ちた。水の玉はみるみる大きくなって、やがて大地の上一面に拡がった。水量はどんどん増してきて、やがて梢を隠した。岡を沈め山を沈め、終いには一番高い山の頂だけが水の上に残ることになった。人々は水に追いまくられて、あちこちと逃げ回っているうちに、たいてい溺れ死んだ。怪しい男は、生き残った人間どもを、一番高い山の頂に連れて行った。水はだんだんと頂に迫って来た。と、男はそれにつれてだんだんと山を高くした。四日たつと、洪水が次第に弾き始めて、やがて大地の上に緑の木が現れた。怪しい男は、人々を連れて山を降りた。溺れ死をした人間どもは、鰐やその他の動物に変わっていた。怪しい男は寒さと暑さとの精霊よりも、もっと偉い神様だった。

解説:怪しい男はシベリアのタンゲンかもしれない。また、小さな緑の葉はタンゲンの使者が書いた地球の地図の可能性がある。西の方からやってくるというのは偏西風や、ギリシアの西の園のことかもしれない。聖書においては上の水門のことかもしれない。ここでは下の水門については触れられていない。

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争いの起源

昔ある部落に一人の男が住んでいた。この男は、いつも女の着物を着て、女のする仕事をして、女と一緒に歩き廻っていた。彼は一度だって男の仲間に加わることがなかった。男たちは彼を蔑んで、その顔を見さえするといろんなことを言っては、からかったり嘲ったりしていた。しかし、彼は平気な様子をして、やはり女の仕事をしたり、女と遊んだりばかりしていた。ある時、この男の部落と他の部落との間に戦が起こった。男たちは皆戦争に出かけたが、この男だけは女たちと一緒にあとに残っていた。みんながい戦いに出かけたあとで、一人の老人が彼の所にやって来て、「お前も早く戦争に出かけるがいい。さもなければ、殺してしまうぞ」と脅しつけた。彼はすました顔をして、「嫌です。『偉大な父』は、戦争をさせようと思って、私をこの世界に送り出したのではありませんからね」と答えた。老人はいよいよ腹を立てて、「よし、私のいうことを聞かなければ、みんなが戦争から帰って来た時に、そういって、お前をころさせてやるよ」と言った。彼はそれでもやはり平気な顔をして、「私が殺せるものか。私はいくら殺されてもすぐに生き返りますよ。そして、みんなの心を狂わせて、お互いに殺し合うようにしてやります」と答えた。老人は、彼の言葉を信じなかった。そしてみんなが戦争から帰ってくると、「あんな臆病者を生かしておくのは、私たちの部落の恥だ。早く殺してしまうがいい」と言った。人々は老人のいったことをもっともだと思って、よってたかって彼を殴りつけた。やがて彼は地面に倒れてしまった。人々は死んだものと思い込んで、その体を焼こうとした。すると、彼は息を吹き返して、勢いよく飛び立った。人々はしぶとい奴だと言って、また彼を殴り倒した。そして二度と生き返らないように、頭を刎ねてしまったが、やはり彼は勢いよく飛び立って、頭無しで、あちこちと駆け回り始めた。人々は気味が悪くなって、「もうあの男を殺すことは、止そう。」「いつまでも、あんな怪しい者を相手にしていると、どんなことになるかも知れない」などと話し合っていた。と、一人の男が、彼の左の手の小指に、紫色をした小さい斑点のついているのに気が付いた。「あの男が生き返るのは、きっと指のせいだ」と人々は叫んで、いきなり彼の左の小指を切り落としてしまった。途端に彼は大地に倒れて、そのまま息が絶えてしまった。人々はため息をついて、「これでやっと気がせいせいした」と言った。しかし暫くすると、人々の気が変に荒くなって、お互いに喧嘩をしたり、斬り合いをしたりするようになり、はては親兄弟などまで殺す者が現れて来た。それを見ると、老人は殺された男が言った言葉を思い出して、「実はあの男がこう言ったことがある、私を殺したら、みんなの心を狂わせて、お互いに殺し合うようにしてやる、と。」と話した。これを聞くと、人々は皆お互いに顔を見合わせて、男を殺したことをたいそう悲しがった。

解説:メソポタミア、パルソンデスを思わせる。それからケルトのミャハ。しかし、このような不死身の者はおそらく複数人存在するように思う。また、男性の女性習慣は愛の不完全を謳っていると考えられる。この男の左の小指の紫の斑点はおそらく愛する者によって不死身の加護を受けていたのであろうか、又は愛する者との間の子が生まれず、その子供のゆえに不死身を得たのであろう。この者の不死身は魂よりもスピリチュアルな気がする。

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医巫の起源

昔、年の若い二人の兄弟がいた。ある時狩りに出かけ、道に迷って帰れなくなった。歩き廻っているうちに、日が暮れ、仕方なく寂しい森の中に寝転んでいるうちに眠りかけた。そして夢の中で、二人が一緒に東の方に歩いていると、向うから、一人の男が急ぎ足にやって来て、兄弟の姿を見ると、持っていた一つの袋を差し出しながら、「この袋には、いろんな薬が入っている。もしお前たちが、長生きをしようと思うなら、この薬を選ぶがいい」と言って、ある薬を渡した。それからその薬の使い方を詳しく教え込むと、そのまま西の方に行ってしまった。兄弟は、朝早く森の中で目を覚ました。二人は同じ夢を見たので、お互いにそれを黙って隠しあっていた。二人は家に帰りついてからも、夢の中で教わったことを、一生懸命に考え続けていた。数月たつと、二人は夢の中で教わった通りの薬をこしらえて、病気になった者に飲ませたり、傷を負った者につけてやったりしてみた。すると病気も傷もすぐに治ってしまうので、みんな驚き喜んで、二人を医巫として大変尊敬するようになった。ある日、兄が弟に向かって、「お前はどこでそんな薬を手に入れたのか」と尋ねると、弟は「いつぞや狩に出て道に迷ったことがあるでしょう。あの時夢の中で不思議な人に会って、その人から教わったのだ。そして兄さんはどうして薬のことを知ったんです」と言った。それを聞くと、兄もにっこり笑って、「私もその不思議な人から教わったのだ」と言った。「二人が同じ夢を見て、いままで隠しあっていたのか」と兄弟は言って、その後は二人で力を合わせて、薬法をいろいろと考えるようになった。これが医巫の起源である。

解説:二人は夢で東の方に歩いていると男は急ぎ足で東の方からやってきたという解釈でいいのか。それから、薬の使い方を教えた後は、西の方に向かって行った。二人は同じ夢を隠していたため、予知夢と同じような仕方で薬の作り方を試したことになる。

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亀の嫁

あるところに一人の乙女が住んでいた。乙女には二人の兄がいた。兄たちは名高い狩人で、毎日のように朝から晩まで鳥や獣を狩っていた。乙女は、兄さんたちが留守になると、いつも湖の端に出て、そこで一人で遊んでいた。そのうちに湖の中に住んでいる一匹の亀と大変親しくなり、おしまいには、亀の言うままに、そのお嫁になることを約束してしまった。あるとき、兄たちが数日の間続いて家を空けることになった。と、乙女は湖の中から亀を呼び出して、「兄さんたちは、暫く帰って来ないのよ。dかあら安心して、私の家に来てちょうだい」と言った。亀は大変喜んで乙女の家にやってきた。乙女は高い寝床をこしらえて、その上に亀を寝かして、「好きな食べ物は何?」と尋ねた。亀は「私は、何より薩摩芋が好きだ」と答えた。で、乙女は毎日薩摩芋(甘藷:さつまいも)を掘って来て、それをふかして大きな鉢に入れて、寝床のそばに置くことにしていた。四、五日すると、乙女は亀に向かって「もう兄たちが帰ってくる頃だから、早く湖に帰ってください」と言った。しかし亀は、どうしても帰ろうとしなかったので、乙女は困って、「寝床の中に隠れていてください。声を立てたり、身動きをしてはなりません。兄たちに見つかると殺されてしまうから」と言った。やがて兄たちが帰って来た。そして高い寝床を見ると変に思い「どうしてあんな物を作ったのか」と尋ねた。乙女は「自分ひとりでは怖かったから高い寝床を作った、高いところに寝ていると少しは安心だから」と答えた。兄たちは、乙女の答えを聞いて安心したが、おかしなことに乙女は毎日甘藷をふかして寝床の側に置いていた。するといつの間にか、鉢の中の甘藷がみんなみえなくなるのであった。兄たちは心の中で、「これはどうも変だ。何か隠しているに違いない」と思ったが、わざと知らない顔をしていた。ある日、兄たちは乙女に向かって「今から狩に出かけるから、気を付けて留守をしていてくれ」と言った。乙女は、兄さんたちの姿が見えなくなるのを待って、掘り棒を手にして甘藷を掘りに出かけた。物陰に隠れてそれを見届けた兄たちは、家に入って、寝床の中を探すと、一匹の亀が寝転んでいた。二人は亀を殺して、子犬を連れて逃げ出した。甘藷堀りから帰って来た乙女は、亀が殺されているのを見ると、「きっと兄たちの仕業だ、ひどい人たちだ」と言って、二人の後を追っかけた。兄たちはとある河の端に来た。河の中にはたくさんの鴨が浮かんでいた。その頃は、鳥という鳥がみんな白い羽根をしていた。二人は、鴨に向かって、「私たちと子犬とを向う岸に渡しておくれ。そしたらお前たちの羽根を、いろんなきれいな色に塗ってやる」と言った。鴨どもはすぐに承知して二人はその羽根をいろんな綺麗な色に塗ってやると、鴨どもは大変喜んで、二人を背に乗せて、向う岸に飛び渡ってくれた。二人は鴨どもに「私たちが、ここを通ったと言うことは、誰にも言わないでくれ」と頼んで、また駆け出して行った。暫くすると、乙女が河の端にやって来て鴨どもに「若い男が二人、子犬を連れてここを通ったでしょう」と尋ねた。鴨どもは「いいえ、そんな人は見かけていない」と答えた。乙女が後へ引き返そうとしていると、二人の兄弟が羽根を塗ってやることを忘れた一羽の小鴨が、出し抜けに飛び立って、「みんなの言うことは嘘で、二人の若い男と子犬は、確かにここを通って行った。私の背に乗ってください。河を渡してあげよう」と言った。小鴨の背に乗って河を渡った乙女は、まっしぐらに兄たちの後を追いかけた。二人は、乙女が近づいてくるのを見ると、側にいた三羽の白鳩に向かって、「どうか、私たちを背に乗せて、天に連れて行ってくれ」と頼んだ。鳩どもは承知して、二人を背に乗せて、天に連れて行った。それからまた大地に舞い降りて来ると、一散に駆けて来る乙女に出会った。乙女が「子犬を連れた二人の若者は、どこにいますか」と尋ねると、鳩どもは、南の空に輝いている三つの星を指さして、「あそこにいますよ」と答えた。乙女は、二人の兄と子犬とが星になったことを悟ると、がっかりして、大地に倒れたまま死んでしまった。

解説:乙女と亀は獣姦による罪に定められたのだろうか。兄たちは子犬を連れて逃げ、星となったことから、子犬も兄も神聖視されていたのではないだろうか?また、小鴨は兄たちの言いつけを見返りによって裏切ったが、鳩はそうならなかったところは鴨より鳩の方が一段浄いと思われる。鳥がみな白色だったというのは多くの神話で共通している。(アメリカ大陸で多い)

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星になった若者と犬

あるところに、一人の若者が住んでいた。若者は、一匹の犬を飼っていたが、この犬は、未来を見通す力を持っていた。ある日、若者は、犬を連れて狩に出かけた。犬は先に立って歩いていたが、やがて主人の側に引き返してきて、「この先に危ないところがある」と言った。若者は驚いて、「危ないところって、どこだ」と尋ねた。犬は「どこかははっきりわからないが、あまり遠くないところにある」と答えた。途端に鹿の匂いを嗅ぎつけて、一散に駆けだしたので、若者もその後からついて行って、一矢放った。しかし、かすり傷を受けただけで、鹿は足を早めて、とある湖の中に飛び込んだ。犬もすかさず踊り込んで、鹿の体に喰いすがった。その暇に、若者は着物を脱ぎ棄てて、鹿の側に泳ぎ寄って、とうとうそれを殺してしまった。そして獲物を肩にかけて、泳ぎ帰ろうとしていると、出し抜けに犬が「気をつけなさい」と叫んだ。若者はその声に驚いて、あたりを見回すと、水の中に住んでいるあらゆる危険な動物が、自分のまわりを取り囲んでいた。「これはいけない。きっと殺されてしまうだろう」と若者は思ったので、いろんな精霊どもに向かって自分を助けてくれるように熱心に祈った。すると、たちまち湖の水がさっと踊り立って、若者と犬とを岸辺に打ち上げた。若者は大変に喜んで、鹿の肉を切り取って、精霊どもに捧げたが、「こんな危ない世界に住んでいるのは、まっぴらごめんだ」と言って、犬と一緒に空に昇って星になってしまった。今日でも、南の方の空を見ると、若者が東に、犬が西に、向き合って座り込んでいる。

解説:若者の正体が不明。キーポイントは「鹿を追う」「水の中のあらゆる危険な動物」「湖の水が若者と犬を岸辺に送った」。(前章の話も参考に)

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宵の明星と孤児星

一人の孤児が、大きな家族の家に養われていた。その家の人たちは、孤児に不親切で、朝から晩までひどい仕事をさせていた。あるとき、大勢の人たちが船に乗り込んで、とある島の鳥の卵を取りに行った。孤児も一緒に行くことになった。たくさんの卵が執れたが、日が暮れてしまったので、みんな草の上に寝転んで「今日はここに休んでいくことにしよう」と言った。孤児も一緒に寝転んでいると、いつの間にか眠ってしまった。それを見ると、人々は、「この子は、厄介でしょうがない。ここに置き去りにしよう」と言って、みんなそっと起き上がり、船に乗り込むなり、大急ぎで帰って行ってしまった。取り残された孤児は弓矢を持っていないので、狩をすることが出来なかった。仕方がないので、水の端に座り込んで、目の前を泳いで行く魚を捕らえては、それを食べて命をつないでいた。と、ある日、角の生えた変な動物が、水の中から現れて来た。孤児は恐ろしくて堪らないので、身動きもしないでいた。変な動物は、孤児の側にやって来て、「私は、お前を助けに来た。お前がみんなから置き去りにされたのを見ると、可哀想になって、助けにやって来たのだ。私の背中に乗って、角を摑んでいるがよい。陸地に連れて行ってやるから」と言った。孤児は、動物の背に乗って、しかと角を摑んだ。変な動物は「青空を見つめていてくれ。そして星が目に着いたら、すぐに私に知らせるのだ」と言って水の中を泳ぎ出した。しばらくすると孤児は「西の方に、大きな星が見える」と叫び出した。変な動物が空を眺めると、果たして大きな星が出ていた。「駄目だ、駄目だ」と動物は言って、大急ぎで島に引き返した。翌日になると、動物がまたやって来て、孤児を背に乗せて陸地の方に泳ぎ出した。しばらくすると、孤児が「西の方に、星が見える」と叫び出した。それを聞くと、動物は、「今日も駄目だ」と言って、また島の方に引き返した。こうして動物は、五度ほど陸地をめがけて泳ぎ出しては、また引き返した。六度目には、陸地に十一、二間というところまで泳ぎよったときに、星が現れた。孤児はそれに気が付いたが、陸地に着きたくてたまらないため、黙っていた。で、動物はなおも泳ぎ続けて、とうとう水の浅いところまで来た。すると、星の周りに大きな黒雲が現れて、凄まじい勢いで転がり始めたので、孤児は驚き恐れて、動物の背から飛び降りるなり、岸をめがけて泳ぎ出した。その一刹那、変な動物は何者かのためにひどく殴りつけられて、のけぞったまま死んでしまった。孤児が岸に泳ぎ着くと、凛々しい姿をした一人の青年が現れて、「お前はほんとうにいい事をしてくれた。私は、永い間あの怪物を殺そうと思っていたが、どうしてもその機会がなかったのだ。お前のお蔭で、やっと思いを果たしたから、お礼にお前を天に連れて行ってやろう。どうだ、天に行きたいか」と言った。孤児は「どうか連れて行ってください。人間世界には、一人も友達がなくてつまらないのですから」と孤児が答えた。凛々しい若者は宵の明星であった。彼は孤児を天に連れて行って、一つの星になった。私たちはその星を「孤児星」と呼んでいる。孤児星がいつも宵の明星のそばにくっついているのがあなた方の眼にも見えるだろう。

解説:宵の明星の側の孤児星。それから孤児を助けた「角の生えた水に住む動物」は何者だろう。彼は宵の明星から恨まれていたという。

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星のお嫁になった乙女

一人の乙女が阿亭に寝ていた。乙女は仰向けになって、空に煌めく星を眺めていた。数々の星の中に、優れて美しく輝く一つがあった。乙女がじっとそれを見つめながら、「あの星が人間であって、自分をお嫁にしてくれるならいいな」と考えていたが、そのうちにいつとはなく眠ってしまった。ふと目を覚ますと、もはや星は一つも見えなくなって、自分の体は、燃え盛る火の側に横になっていた。乙女は驚いて、近くに座っている年取った男に、「私はどこにいるのでしょう」と尋ねた。老人はにこにこして、「お前の願いがかなったのだ。ここは天上世界で、私はお前さんの夫となった星だ」と言った。これを聞くと、乙女は驚き悲しんでしくしく泣きだした。乙女はこんな老人のお嫁になろうとは思わなかったのだった。乙女が、頻りに泣きじゃくっていると、老人の妹がやって来て、いろいろと慰めてくれた。乙女はやっと気を取り直して、その女と一緒に薩摩芋(甘藷:さつまいも)を掘りに出かけた。二人は大きな甘藷を一つ見つけ出した。「こんな大きな甘藷をどうするんだろう」と乙女が尋ねた。星の妹は「これは、天上世界の戸口で、甘藷を取り除けると、下界へ降る穴が開いているのだ」と星の妹が答えた。すると乙女はまたしくしくと泣き出して、「どうか私を下界に帰らしてちょうだい。星のお嫁になりたいなどと考えたのは、本当に私の考え違いだった」と言った。甘藷堀りから帰ると、星の妹は、すぐに兄さんの所に行って、乙女の言ったことをすっかり話した。老人はしきりに頷きながら、「そうか、それでは六日経ったら、あの子を下界に返してやることにしよう」と答えた。星の妹は、兄さんの言葉を乙女に伝えて、二人で木の皮を集めに出かけた。気の皮を編んで、綱をこしらえて、それを伝って下界に降るつもりだった。木の皮が集まると、それwお編み始めた。六日ほど編み続けたが、下界に降るにはまだ長さが足りなかった。それを見ると、老人が、「焦らないで、もう六日だけ待つことにするがいい」と言った。で、乙女はまた木の皮を集めて、日ごと一生懸命に編み続けていると、十一日目にやっと下界に届くだけの綱が出来上がった。星の妹は、玉蜀黍を煮て、南瓜(かぼちゃ)でこしらえた壺に水を満たして、乙女にそれを渡しながら、星の妹は、玉蜀黍を煮て、南瓜でこしらえた壺に水を満たして、乙女にそれを渡しながら、「さあ、途中の食べ物や飲み物の支度が出来ましたよ」と言った。老人も口を出して、「あすの朝早く立ったらいいだろう。下界に着くまでには、十冬十夏かかるよ」と言いながら、乙女の体を綱の端に結び付けて、下界への降り口をふさいでいる大きな甘藷を取り除けて、その穴から乙女をおろして、だんだんと綱を延ばしていった。初めのうちは、あたりが真っ暗で何も見ることが出来なかったが、降り続けているうちに大地がかすかに見えて来た。乙女は、あたりが暖かくなったり、寒くなったりするのを感じて、夏のや冬が幾度となくやってきたのを知った。そのうちに携えてきた食物や水が残り少なくなった。乙女は大変心細く感じ始めた。出し抜けに綱の延びるのが停まった。乙女は驚いて、「綱の長さが足りなくなったらしいわ」と独り言を言った。そして、暫く様子を伺っていたが、やはり綱は延びそうにもなかったので、綱の端まで降りて来て、下の方お見下ろすと、大地はまだ遠く離れていた。乙女は悲しそうな溜息をついて、綱の端にしかと縋りついていた。そのうちにお腹が空いて、手がだるくなって、今にも気が遠くなりそうな感じがしてきた。乙女はもう堪りかねて、折から足元に輪を描いて舞っていた黒鳶に向かって、自分が落ちそうなことを叫び伝えた。黒鳶はすぐに乙女のそばに飛んで来た。そして彼女を背に乗せて、下界へ降り始めたが、暫く飛んでいるうちに、重くて堪らなくなったので、折から足元に舞っていた鷹に向かって、「頼むから、この女の子を大地に連れて行ってくれ」と言った。それを聞くと、鷹はすぐに乙女を自分の背に乗せて、下へ降って行ったが、山や川がはっきり見えるところまで来ると、すっかり疲れ切った。それで、今度はまた黒鳶が乙女を受けて、下へ降りて行ったが、木の頂近づくと、乙女に声をかけて、「大地に着いたら、すぐに自分の家に入るのだ。父母の他には誰にも会ってはいけない」と言った。乙女はそうすると答えた。黒鳶は乙女をそっと大地の上におろして、「あなたの家は、あそこにあります」と教えたかと思うと、どこともなく飛び去ってしまった。乙女は、骨と皮ばかりにやせ衰えていたので、のろのろと家のほうに歩いてしまった。向うから、一人の女がやってくるのが目に付いたので、藪の後ろに身を隠した。しかし、女は目ざとく乙女の姿を見つけて、けたたましい叫び声を立てた。乙女があまりやせ衰えているので、幽霊ではないかと思ったのであった。乙女は女の側に歩み寄って「怖がらなくてもいいですよ。私です。」と言った。女はびっくりした目つきで、じろじろと乙女の顔を眺めていたが、やっと気が付いて、「お前さんは、永いこと見えなくなっていた子ですね、いったいどうしたんです」と言いながら、乙女をいたわって、彼女の家まで送って行った。お母さんも、初めの内は乙女を見知らなかった。しかし、彼女が娘だと気が付くと、いきなり彼女を抱きしめて、うれし涙に暮れた。乙女が天上界から帰ってきたという噂が伝わると、村中の人達が、我も我もと訪ねてきた。しかし両親は、黒鳶の教えを守って、誰にも乙女を会わせなかった。十日ほど経つと、乙女は村の人たちに会って、いままでのことを詳しく話して聞かせた。人々は黒鳶の親切な心遣いに感心して、その後は、獲物が沢山取れると、いつも一匹の水牛を黒鳶の食べ物に残しておくようになった。

解説:キーポイントは「下界へ降るための大穴の甘藷」「乙女を運んだ黒鳶」「乙女を運んだ鷲」それから木の皮を編んで作った綱をはじめ六日と言っていたが、十一日かかったこと、さらにはその綱の長さが足りなくなったことがあげられる。さらには黒鳶が父母以外には誰にも会わないように注意したことがある。

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電光と人間

世界の初めには、電光は、人間たちと一緒に大地の上に住んでいた。電光は、力が強くて気が荒くて、腹を立てると、すぐに人間を殴り殺すのでした。そこである日、酋長たちが集まって、電光の処分を相談することになった。「どうも、あの男は気が荒くて困る。何とかしなくては、人死が出来て仕方がない」と一人の酋長が言った。「あんな男は、人間世界に住ませておくわけに行かぬ。どこか遠いところに立ち退かせなくてはならない」と他の酋長が言った。「そうだ、ぜひこの世界から追い退けることにしよう」と、みんなの酋長がすぐに賛成した。電光は酋長たちの相談を聞き込むと、すぐに彼らの所に行って、「私は、人間世界から離れたくない。是非みんなと一緒に住ませてください」と頼んだ。しかし酋長たちは、その言葉に耳を貸さないで、とうとう電光を人間世界から追い出してしまった。電光の姿が見えなくなると、間もなく大きな体をした怪物が、大地の下の岩の間から現れては、人間を連れ去るようになった。人々は驚き騒いで、いろんな手段で怪物を殺そうとしましたが、怪物は、わが身が危ないと思うと、素早く地の下に逃げ込んでしまうので、みんな弱り切っていた。すると、どこからとなく電光が現れてきて、人々に向かって、「もし人間世界んい帰ってもいいと言うなら、私が怪物を退治してやろう」と言った。これを聞くと、お互いに顔を見合わせたま黙り込んでいた。怪物にも困るが、電工にも困るからだ。どうしたらいいだろうと、暫くの間考え込んでいたが、やがて、「怪物を殺してもらおう」と言った。「では、人間世界に帰って来てもいいのだな」と電光が念を押した。「帰って来てもいいが、普段人間世界に住んでもらっては困る。時々訪ねて来るようにしておくれ」と人々が答えた。電光はそれで承知した。そして怪物が、地の底から現れるのを待ち受けて、素早く躍りかかるなり、見る間に殴り殺してしまった。こうして電光は、時々人間世界にやってくることになった。

解説:電光が人間世界を去った後現れた大きな体の怪物は誰だろう。

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電光と雷とになった兄弟

世界がまだ真新しかった頃、ある所に、夫婦者が住んでいた。彼らの間には、十二歳になる男の子があった。その男は、狩りに出かけるのが好きだった。そしてそのたびに、間違いなく大きな鹿を殺して帰って来るのであった。人々は、男の優れた腕前に驚いて、彼のことを医巫と呼んでいた。ある日、男はいつものように狩に出掛けた。そして、いつものように大きな鹿を殺して、それを肩に担いで帰ってくると、家の中には、子供だけが座っていた。子供は疲れ切って、ものに脅えたような顔をしていた。男は変に思って「どうしたんだ。お母さんはどこにいるのかね」と尋ねた。すると、子供は泣きだして、「お母さんは、さっき壺を持って、入江に水を汲みに行ったきり、帰って来ない。二、三度尋ねて行って大きな声で叫んでも、返事をしてくれない」と答えた。男はいよいよ不審に思い、子供を連れて、入り江に来てみると、水の端に点々と足跡がついていた。男は、自分の妻が何者かに殺されたのだろうと思って、家の中に引きこもったまま、幾日も幾日も嘆き悲しんでいた。そのうちに食べ物がなくなったので、余儀なく狩に出掛けた。後に残った子供が弓矢を持ちだして、一人で遊んでいると、自分くらいの大きさで、自分と同じくらいの大きさで、自分と同じように弓矢を持った男の子が、どこからとなく現れて来た。子供は怖くなって逃げ出そうとした。すると、男の子は彼を呼び止めて、「怖がらなくてもいいよ。お前は私を見知らないようだが、私はお前の兄である。」と言った。それを聞くと、子供は立ち止まって、じっと男の子を眺めた。男の子は、鼻が高くて、長い長い髪の毛を生やしていた。「お前が寂しがっているだろうと思って、訪ねて来たんだ。これからはお父さんが狩に出かけるたびに、やってくることにするよ。でも私のことはお父さんに話さないようにしておくれ。さあ、今から弓の射比べをしよう」男の子がこういうと、子供はやっと元気が出て、一緒に遊び始めた。しばらくすると、男の子が、「私は、もう帰らなくてはならない。お父さんの姿が無効に見えたから」と言って、どこともなく行ってしまった。子供は、お父さんが帰って来ても、黙っていた。そんなことが四度続くと、子供はとうとうお父さんに向かって、怪しい男の子のことを話してしまった。男は、暫くの間じっと考え込んでいたが、やがて、「どうにかして、その男の子を捕らえなくてはならない。お前は、いつものように弓矢を持ち出して、遊んでいてくれ。お父さんは虫に変わって、戸口の後ろに隠れているから」と言った。明くる朝になると、子供は弓矢を持ち出して、家の外で遊び始めた。すると、やがて変な男の子が現れて、「お父さんはどうした」と尋ねた。「いつものように狩に出かけた」と子供が答えた。それを聞くと、男の子は、あたりを見回していたが、急に、「戸の後ろにいるのは誰だ」と言って、そのまま森の中に駆け込んでしまった。明くる日になると、子供はまた弓矢を持ち出して遊び始めた。虫に変わった男は、今度は屋根の端に身を隠した。しばらくすると、男の子が現れて来て、「お父さんはどうした」と尋ねた。「いつものように狩に行った」と子供が答えた。それを聞くと、男の子は、あたりを見回していたが、急に「屋根の端にいるのは誰だ」と言って、そのまま森の中に駆け込んでしまった。男はひどく口惜しがって、「どうあっても、あいつを捕らえなければならない。今度やってきたら、お前の頭髪の中に何か這い回っているよと言っておくれ。そしたらきっと頭を差し出して、見ておくれというに違いないから、いきなり頭髪を摑んで、私を呼ぶように」と言った。そして今度は火の中に姿を隠していると、やがて男の子がやって来て、「お父さんはどうした」と尋ねた。「いつものように狩に行った」と子供が答えた。それを聞くと、男の子は、あたりを見回していたが、急に「火の中にいるのは誰だ」と言って、そのまま森の中に駆け込んでしまった。こんなことを幾度も繰り返していると、六度目には、さすがの男の子も相手の隠れているのに気が付かないで、子供の側に来て一緒に遊び始めた。子供は男の子の頭を眺めながら、「何か変なものが頭髪の中に這いまわっているよ」と言った。男の子は、「虱だろう。取っておくれ」といって、頭を差し出した。子供はいきなり頭髪を摑んで、「父さん、捕らえたよ」と叫んだ。男は草家から飛び出して来て、男の子を捕らえた。そして長い鼻の先を切り落として、普通の鼻にして、身体を綺麗に洗ってやった後で、「お前は、私のいないときにやって来て、私の子供に兄弟だと言ったそうだな。それなら兄弟にしてやるから、家に留まって仲良くするがいい」と言った。ある日、男は狩に出かける時、二人の子供に向かって、「家の後ろの森に入ってはいけないよ。悪い栗鼠がいて、子供を殺してしまうから」と言った。男が行ってしまうと、変な男の子は子供に向かって、「お父さんが話した栗鼠を身に行こうよ」と言った。二人は家の後ろの森の中に入り込んだ。そして幹に大きな穴の開いている樹を見つけて、その傍に立っていると、一匹の栗鼠が現れて、蛇のような舌を出した。するとたちまち子供が樹の中に吸い込まれてしまった。それを見た男の子は、急いで家に駆け戻ると、男がもう狩から帰っていた。男は変な子供に向かって、「私の子供はどこにいるのか」と尋ねた。「一緒になって、弓の矢をこしらえているんですよ。矢を乾かそうと思って、火を取りに帰ったところです」と男の子が答えた。そして火を持って、栗鼠の住んでいる樹の側に行くと、木の枝や草を集めて、盛んに火を起こして、その中に大きな石をたくさん並べた。意志がみんな真っ赤に焼けると、一つ一つ穴の中に投げ込んだ。たちまちけたたましい鳴き声がして、一匹の栗鼠が、穴の中から出てきたかと思うと、大地に倒れて死んでしまった。男の子は、栗鼠の胃袋を切り裂いた。胃袋の中には、子供が生きて入っていた。男の子は、子供を川に連れて行って、綺麗に体を洗ってやって、一緒に癒えに帰った。ある日、変な男の子は木を削って、一つの輪をこしらえた。そして、「これを高いところから転がして、転んでいる所を弓で射止めることにしよう」と言うと、子供は大変喜んで、男の子と一緒に輪を転がしては矢を放って、それを射止めていた。すると、一度狙いが外れて輪はどこまでも転がって行った。二人はそれを追っかけたが、いくら追っかけても、追いつくことが出来なかった。そのうちに輪は見えなくなってしまった。子供は、いまにも泣き出しそうな顔をしていた。男の子はそれを慰めて、「精霊たちに祈って、助けてもらうから、そんなに心配しなくてもいいよ」と言いながら、どんぐりの実を取り出して、土の中に埋めた。そして、しきりに精霊に祈っていると、やがて芽が出て、幹になり、大きくなって、とうとう天まで届くようになった。男の子は、驚きあきれている子供に向かって、「私は、この木に登って行くから、お前は、木の側に座っていてほしい。決して空を見上げてはいけない。いつも地面を見つめているんだよ。暫くすると、私の体中にある骨をすっかり投げ下ろすから、お前はそれを拾い集めて、みんな一緒に積み上げて、水牛の皮をかぶせるのだ。それから黒く塗った矢を、空に向けて力一杯に射放してくれ。そして矢が落ちてきたら、気をつけろ、矢が落ちて来るよと叫ぶのだ」と言い聞かせて、そのままするすると木に登って行った。子供は、教わった通りに、木の側に座り込んで、地面を見つめていた。しばらくすると、骨がバラバラと落ちてきた。子供はそれを拾い集めて、一緒に積み上げて、水牛の皮をかぶせた後、黒く塗った矢を空に向けて力一杯に射放った。やがて矢が空から落ちてくるのが目に映った。子供は言いつけられた通りに、「気をつけろ、矢が落ちてくる」と叫ぶと、たちまち水牛の皮の下から、男の子が飛び出した。そして子供に向かって、「天に昇ったら、神様が恐ろしい力を授けて下さった。お前も木に登ってみるがいい」と言ったので、今度は子供が登り始めた。だんだんと登って行くうちに、なんだか夢を見ているような気持ちになった。やがて体中の骨がばらばらになって、下に落ち始めた。そして何者かが自分に話しかけているような気がしたが、その姿は更に目につかなかった。暫くすると、「気をつけろ、矢が落ちてくる」という男の子の声がしたので、はっと思って体を動かしたと思うと、いつの間にか、水牛の皮の下から飛び出していた。「どうだね、神様から恐ろしい力を授かったろう」と男の子が訪ねた。「なんだかよくわからないが、どうもそうらしい」と子供が答えた。「どんな力だか、私に見せてくれ」と男の子が言った。子供は体をゆすぶった。と凄まじい響きが起こった。「雷の力を授かったんだな。私はこんな力を授かった」男の子はこう言って、舌を出すと、たちまち電光が閃き渡った。雷小僧と電光小僧とは、無くなった輪を探して歩き廻っていると、大きな湖の端に出た。見ると、水際に輪の跡がはっきりついていた。二人は湖の岸に座り込んで、また精霊に祈った。そしてどんぐりの実を地面に埋めると、やがて芽がでて、幹になって、大きくなった。しかし、今度は空の方には延びず、横へと延び、とうとう湖の岸から岸に渡る橋になった。二人は、その橋を渡って、向こう岸に着くと、また輪の跡がはっきりと地面についていた。それをたどって、だんだんと進んで行くと、一人の老人に出会った。そこで、電光小僧は雷小僧に向かって、「あの男を殺さなくちゃならない。あれは悪い奴だ。人間を食うやつだ。そして私たちの輪を盗んだのも、この男だ」と言った。二人は、やにわに老人に襲い掛かって、これを殺した。老人の体を探ると、果たして無くなった輪をもっていた。二人はそれを取り上げて、なおも進んで行くと、遥か向こうに煙が見えた。二人は煙を目当てに道を急いだ。すると、大勢の男たちが焚火を囲んで座り込んでいた。見ると、その傍には、人間の骨が山のように積み上げられてあった。二人はそれを見ると、「人食いの手下どもだ。やっつけろ」と叫んで、大勢の男の中に飛び込んで、見る間に叩き殺してしまった。「この骨の中に、お母さんの骨が混じっているかもしれない」二人は行為って、堆く積み上げられた骨の中を、根気よく探し回っていると、お母さんの骨が見つかった。その骨を集めて、水牛の皮をかぶせると、電光小僧が黒く塗った矢を空に向けて、力一杯に射放った。暫くすると、空を切って落ちて来る羽根が聞こえ始めた。「気をつけなさい、お母さん。矢が落ちてきていますよ」と二人が叫んだと思うと、水牛の皮の下から、お母さんが飛び出して来た。二人が、お母さんを連れて家に帰ると、男は躍り上がって喜んだ。そしてみんな一緒になって楽しく日を送っているうちに、男もその妻も死んでしまった。電光小僧と雷小僧とは、寂しくて堪らなかったので、「こんなところに住んでいてもつまらない。天に昇ることにしよう」といって、二人で天に昇ってしまった。今日でも、黒雲が空に沸き立つと、二人の姿がその中に見られる。

解説:キーポイントは「悪い栗鼠」「どんぐりの実」「雷の力」「電光の力」、ここで重要なのは、母が死んだあと現れた男の子がシベリアの神話にある「エリク」である可能性である。子供の母は人食いによって殺されたとあるが、これはエリクがそれを憐れんで出てきたように思う。儀式はかなり死後の世界のような、肉体を離れる現象を模写しているかの如くだ。エジプトでは死者に語らせる術があると書かれているが、やはり言葉を用いると言うことが何らかの不信心であると思われる。また人食いと言うのはメキシコの土人であろうか。人身御供に対して人食いと言っている可能性もある。この骨の山はこのはずくと尾長狼の話でも同様のものかもしれない。ひょっとしたらメキシコが死の世界であるのかもしれない。

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足から生まれた怪童

あるところに一人の男が住んでいた。ある日、お祖母さんと一緒に道を歩いていると、木片が足に突き刺さって、肉の中に折れ込んだ。しばらくすると、傷口が膿爛れて、歩くことができないほど晴れ上がった。で、友達に担がれて、やっと家に帰ってきたが、足はますます脹れ続け、、自分の体お同じ大きさになった。そのうちに、皮が裂け始めたが、中から出てきたのは、木片ではなく、一人の赤ん坊であった。男はひどく腹を立てて、まるで赤ん坊をかまってやらなかった。お祖母さんがそれを見て、可哀想に思い自分で赤ん坊の世話をしていた。
ある日、男はお祖母さんがいない時を見すまして、赤ん坊を湖の端に捨てた。しかし、お祖母さんが怒ると思ったので、自分も遠いところに逃げて行って、そこでただ一人寂しく暮らしていた。赤ん坊は、湖の端でだんだんと大きくなって、立派な少年になった。ある日、たくさんの鳥が湖の上を飛んでいると、俄に水が湧きたって、飛んでいる鳥を一羽も残らず巻き落としてしまった。それを見た少年は、「どうしたんだろう。どうして水がひとりでに立ち上がったんだろう。」と考えた。その後は、鳥が湖の上を渡りかけさえすると、決まったように湖の水が湧きたって、それを巻き落とすのであった。少年は、いよいよ不思議に思って、よく気を付けていると、立ち上がる水の中に、大きな怪物が潜んでいるのを見つけた。「水が湧きたつのは、あの怪物のせいだな。しかし、毎日のように、あんなにたくさんの鳥が殺されては、いまにこの世界に鳥の種が尽きてしまうだろう。嘉、俺があの怪物を退治してやる」少年がこう考えていると、出し抜けに自分の背を叩いた者があった。驚いて後ろを振り向くと、自分と同じ年ごろの男の子が立っていた。「君は誰だ」と少年が尋ねると、「僕は『このはずく』というものだ。君は、今何を考えていたのだ」とこのはずくが言った。「湖の中の怪物を殺そうと思っていたところだ。鳥という鳥をたべてしまいそうだから」と少年が答えた。「じゃあ、僕も加勢をしよう。だが、困った。近くに知った家があるといいのだが」とこのはずくが言った。「僕のお祖母さんの家が近くにある」と少年が言った。「そうか、それでは、早くお祖母さんの家に行って、一張りの弓と六本の矢と、六粒の玉蜀黍を貰ってきてくれ」とこのはずくが言った。少年は、お祖母さんの家に帰って行ったが、間もなく一張りの弓と、六本の矢と六粒の玉蜀黍とを持って、湖の端に引き返して来た。このはずくは三粒の玉蜀黍を空中に投げ上げた。三粒の玉蜀黍はたちまち鳥に変わって、湖の上に飛んで行った。それを見ると、怪物がいつものように沸き立つ水に包まれて現れ出た。「それ、早く射止めてくれ」とこのはずくが叫んだ。少年は手早く一本の矢を射放ったが、怪物に届かなかった。二本目の矢も、三本目の矢も、空しく水の上に落ちた。四本目五本目の矢も駄目だった。しかし、六本目の矢は、見事に怪物の体を貫いた。怪物は暫くの間のたうち回り苦しんでいたが、やがて水の上に大きな屍を浮かべることになった。すると、このはずくは、弓の先で怪物を岸の上に引き上げたが、そのままなんとも言わないで姿を消してしまった。明くる日、少年は再び湖に行った。そして水の中に潜り込んで、魚を追い回していると、一尾の剣魚(かじきとおし)が、彼のそばに泳ぎ寄って来て、その体に穴を穿けた。少年は激しい痛みをこらえて、二つの貝を拾って、一つを前の方の穴に、一つを後の方の穴にはめ込んだ。ところが、この二つの貝には、不思議な力がこもっていて、それを耳に当てさえすると、世界中のことがなんでもはっきりと聞こえるのであった。こうして少年は優れた医巫となった。人々は、少年を妬んだり恐れたりして、とうとう殺してしまおうと相談を決めた。しかし少年は、魔の貝の力で、早くもそれを聞き知って、お祖母さんに向かって、「みんなが私を殺そうとしている。早くここを立ち退きましょう。でも私は、折を見て、不親切な人々をひどい目に遭わせてやりますよ。」と言った。二人は、住み慣れた村を逃げ出して、とある山の頂に草家を建て、その中に住むことにした。少年は、二匹の犬をいつも戸口の所につないで、番をさせて置いた。それから暫くたつと、村の人たちが、ぽつりぽつりと死に始めた。死ぬ人は、みんな少年を殺そうと相談をしたものばかりだった。で、村の人たちは、「これは、きっとあの少年の仕業に違いない。小癪な奴だ。早く殺してしまえ」と言って、少年の住んでいる草家に幾度も忍び寄ったが、そのたびに、少年は魔の貝の力で、彼らが近寄ってくるのを悟って猛犬をけしかけた。犬どもは勢い激しく村の人たちにとびかかり、村の人たちはどうしても草家に近づくことができなかった。少年は、その後も続けて、村の人たちを、一人一人と呪い殺して行った。と、このはずくがそれを見て、「これはいけない。自分が中に入って、何とかしなくてはならない」と思った。それで少年の住んでいる家の方に歩き出したが、途中で大きな息をついて、二つの貝から魔力を取り去ってしまったので、少年は、このはずくが近づいてくるのを少しも知らなかった。山の頂に登りつくと、このはずくはまた大きな息をついた。途端に猛犬どもは、地に倒れてぐっすり眠ってしまった。このはずくは犬のそばを通り抜けて、三度大きな息をついた。すると、お祖母さんが、床の上に突っ伏して、いびきをかき始めた。このはずくは、四度大きな息をついた。すると、少年までも床の上に転げて、すやすやと眠り出した。
このはずくは少年の側に歩み寄って、身体から貝を取り上げて、そのまま出て行ったしまった。そして山を降りきったところで、大きな息をつくと、少年がむくりと起き上がった。少年は、大切な二つの貝がいつの間にか消え失せているのに気が付くと、驚き慌てて、頻りにお祖母さんを呼んだ。しかし、いくら読んでも目を覚まさないので、身体に手をかけて激しく揺り動かすと、吹きかけられていた息が取れてしまい目を開いた。少年は、急いで家から飛び出した。そして猛犬が二匹ながらぐっすり眠っているのを見ると、「誰が家の中に忍び込んで、大事な貝を盗んだに違いない」とつぶやいた。そして棒を取り上げるなり、力いっぱいに猛犬を殴ると、吹きかけられていた息が消し飛んで、やっと起き上がった。犬どもは、鼻を鳴らしながら、しきりに地面を嗅いでいたが、やがて勢いよく歩き出した。少年もその後をつけて歩いていると、火が円形に燃え立っている所に出た。火の輪の真ん中に、このはずくが二つの貝をつけて突っ立っていた。少年は、火をくぐり抜ける術を知らなかったので、そのまま引き返した。このはずくは暫くの間、魔の貝を自分の手許にとどめて置いて、それから少年に返してやった。しかし同時に、今後は決して村の人たちを呪い殺さないようにと少年に誓わせたのだった。

解説:鳥を助けるために海の怪物を倒そうとした少年。少し、ポリネシアのマウイを思わせる。そしてそれを助けたこのはずく。弓と六本の矢と六粒の玉蜀黍を使って少年は海の怪物を倒す、その翌日にはかじきとおしに体に穴を開けられる。そこで拾った「魔の貝」は世界のあらゆることが聞こえたという。そしてそれをねたんだ村人が少年を殺そうとするが、猛犬二匹によって村人は次々と死んで行った。これに対してこのはずくは少年から魔の貝を取り返したが、村人を呪い殺さないことを約束させて貝を返した。木片から生まれた少年は男から生まれたが、これは森のニムフェと関係があるだろうか。

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四つの難題

年老いた夫婦に一人の赤ん坊があった。初めて誕生日が来ると、夫婦は子供に弓矢を与えて、「この子にはなんと名前を付けたらいいだろう」と話し合っていると、子供が出し抜けに声を出して、「私の名前はこのはずくというんです」と言った。夫婦は驚いて「いけません。このはずくとは以前の酋長の名だから、きっとあの方に怒られます。」と叱った。しかし、子供は平気な顔をして、「そんなことはどうでもいいんですよ。私の名は、どうしてもこのはずくです。」と言い張った。ある夜、村の者が、老人夫婦の家の側を通っていると、このはずく、このはずくと呼ぶ声が聞こえてきた。村の者は、すぐに以前の酋長の所に行って、「老人夫婦が、自分たちの子供にこのはずくという名をつけている」と告げた。以前の酋長はそれを聞くと、大変腹を立てて、すぐに子供を呼びにやった。子供は、以前の酋長の家に行った。以前の酋長は、子供に西瓜の種子を渡して、「これをもって帰って、夕方地に播くのだ。そして明日の朝大きな西瓜を持って来てもらいた」と言った。子供は「いいですとも」と言って、帰って来た。そして夕方になるのを待って、家から少し離れた所に種子を播くと、すぐに芽が出て蔓が延びた。子供は、あくる朝早く見に行くと、もう大きな西瓜がたくさん熟していた。その一つを携えて、以前の酋長の所に行くと、彼はひどく驚き恐れて、「この子は、ゆくゆく偉い者になるに違いない。今の内に殺さなくては一大事だ。俺の勢いは、こいつのために押さえつけられてしまって、村の人が俺を敬わなくなるからな」と考えた。子供は家に帰って、両親にいままでのことを話して聞かせた。両親は、しきりに心配して、「気を付けて遅れ。でないと、お前の命が危ないから」と言ったが、子供は笑って、「ない、大丈夫ですよ」と言っただけだった。暫くすると、以前の酋長は、また子供を呼び出した。そして一匹の牡牛を渡して、「明日の朝までに乳を搾って来てもらいたい」と言った。「いいですとも」と子供は言って、牡牛を引っ張って帰って来た。しかし、明くる朝になると乳を搾ろうとはしないで、斧を手にして、以前の酋長の側の森に入り込んで、しきりに木を刈り始めた。以前の酋長は、その姿を見ると、子供の側にやって来て、「どうだね、もう乳を搾ったかね」と尋ねた。「乳なんか搾りませんよ。何しろ急いで薪を伐らなくてはならないからね」と子供が答えた。「どうして、そんなに急いで薪を伐るのかね」と以前の酋長が尋ねた。子供は「お父さんが子供を産みかけているのだ。湯を沸かさなくてはなりませんよ」と子供が答えた。それを聞くと、以前の酋長が笑い出して、「お前は、これまでに、男が子供を産むのを見たことがあるかね」と言った。子供が「一度もありません。それでは、あなたは、これまでに、牡牛が乳を出すのを見たことがありますか」と言ってやり返した。以前の酋長は腹を立てて、ぶつぶつ言いながら、家の中に引っ込んだ。子供は家に帰って、両親にいままでの子とを話して聞かせた。両親はしきりに心配して、「気を付けておくれ。出ないと、お前の命が危ないから」と言ったが、子供は笑って、「なに、大丈夫ですよ」と言っただけだった。暫くすると、以前の酋長から三度使いが来た。「ご主人が、友達と一緒に盛んな酒盛りを開くから、お前も出席するようにと言うことですよ」と使いの者が言うと、子供はすぐに家を出掛けた。その間に、以前の酋長は、大勢の者を使って、差し渡し四尺、深さ五十尺の穴を掘って、その上に水牛の皮をかぶせて置いた。子供を騙して、その中に陥れようという悪だくみだった。子供がやってくると、以前の酋長は、「よく来てくれた。お前の席はちゃんと決めて置いた。さあここに座っておくれ」と言って、水牛の皮の所に案内した。子供は手にしていた弓矢を下に置いて、水牛の皮の上に座り込んだ。と思うと、たちまち深い穴に落ち込んでしまった。以前の酋長は、「今度こそ、あいつの息の根を止めることができるぞ」と大きな石や塵などを、どんどん穴の中に投げ込んだ。こうして以前の酋長は、不思議な子供を殺してしまったと思い込んでいた。その晩、村の人が老人夫婦の家の側を通ると、お母さんが、このはずくの名を呼んでいる声や、子供のこのはずくが、それに返事を返している声を聞いた。村の人はびっくりして、以前の酋長の家に飛んで行って、「お頭、青の子供は、自分の家に帰っていますよ。家の中で、彼の声がしているんです。」と言った。これを聞くと、以前の酋長は、真っ赤に怒りだして、「どうも手に負えぬ餓鬼だ。も一度やって見よう。今度しくじったら、そのまま生かしておくことにするが・・・」と言って、四度使いを立てた。子供が、以前の酋長の家にやってくると、大きな火が燃え立っていた。以前の酋長は、子供に向かって、「お前には、不思議な力が備わっているようだな。わしはそれを見たいから、あの火の中に座り込んでもらいたい」と言った。子供は平気な顔をして、燃え盛る火の真ん中に歩み込んだ。そして永い間そこに座っていたが、少しも火傷をしなかった。そのうちに火が燃えてしまったので、灰の中から出てきた。そして今度は、自分で盛んに火を燃やして、「お前さんにも、不思議な力があるでしょう。あの火の中に入って見せておくれ」と言った。以前の酋長は、仕方がないので、おずおずと火の中に歩み込んだ。と、たちまちもがき苦しんで死んでしまった。
子供はだんだんと大きくなって、ほとんど大人くらいのおおきさになった。老人夫婦は口癖のように、「お前、滅多なところに行ってはいけないよ。不思議な力を嫉んで、お前を殺そうと思っている者が大勢いるのだから」と言って聞かせたが、子供は平気であちこちと気ままに歩き回っていた。すると、三人の男が自分を殺そうと思っているということを聞き込んだ。このはずくは「こちらから出掛けて行ってやろう」と言って、三人の男の住んでいる家に出掛けて行った。家の外にいた三人は、心の中で喜びながら、「お入り」と言った。このはずくは、「家の中に追い込んで、三人がかりで殺しにかかるつもりだな」と思ったので、家の中に入ると、戸の後ろに突っ立って、油断なく身構えをしていた。やがて一人の男が入って来た。このはずくは、手にしていた棒を頭の上に打ち下ろした。そして男が倒れると、手早くその体をわきに押し寄せ、また棒を振りかざしていた。こうしてほかの二人の男も、このはずくが打ち下ろす棒の下に、あえなく命を落としてしまった。
このはずくは、相変わらずあちらこちらと歩き回っていると、遥か北の方に『雪寒(ゆきざむ)』という男が住んでいて、その家に泊まり込んだ者は、みんな明くる朝になると、凍え死んでいるという噂を聞き込んだ。「変だな。よし、俺が行ってみよう」このはずくはこう言って、のそりと家を出て、北へと歩いて行った。永い間歩き続けていると、大きな湖の畔に出た。このはずくは、頭につけていた鷲の羽根を水に浮かべて、その上に乗った。と、羽根はおのずと動き出して、このはずくは、頭につけていた鷲の羽根を水に浮かべて、その上に乗った。すると、羽根はおのずと動き出して、このはずくを向こう岸に渡してくれた。それを見ると、岸辺に遊んでいた鷲鳥の群がけたたましい声を立てたので、『雪寒』は、すぐに誰か自分の家に訪ねて来ていると言うことを覚りました。しかし岸辺について、鷲の羽根を頭に付けたかと思うと、このはずくの姿は、たちまち見えなくなってしまった。彼は『雪寒』の家に入り込んだ。そしてぐっすり寝込んでいた『雪寒』を揺り起こして、「おい、元気はどうかね」と言った。『雪寒』はびっくりしてはね起きた。そして、あたりを見回していたが、人影らしいものも目につかないので、また横になった。このはずくは、姿を現して、再び声をかけた。『雪寒』は、驚き呆れた顔をして、「何しに来たのか」と尋ねた。「いろいろ面白い噂を聞いたので、わざわざ訪ねてきたのだ」とこのはずくは答えた。夜になると、『雪寒』が一つの寝床を指して、「あれに寝ておくれ」と言った。見ると、その寝床には、雪がいっぱい積もっていた。このはずくは、平気な顔をして、その上に寝転び『雪寒』は、眠ったふりをしながら、そっと目を開けて、様子を見ていた。『雪寒』は「いまに凍え死にをしてしまうよ。どんなに威張っても駄目だぞ」と心の中で考えながら、じっと眼をこらしていた。暫くすると、このはずくの頭の辺りに怪しい光が現れた。『雪寒』は不思議に思って、闇の中から透かして見ると、このはずくの枕元に鷲の羽根が一本突っ立っていて、それがほのかな光を放っているのであった。やがてこのはずくが鼾をかき始めた。『雪寒』はそれを聞くと、そっと起き上がって、一本の杖を取り上げて、寝床の足元をかき回した。すると、たちまち雪の中から火が燃えたった。『雪寒』は、その火でゆっくりと体を暖めてから、寝床の中に入った。眠ったふりをして、すっかりそれを見届けたこのはずくは、『雪寒』が寝込んでしまうのを待って、そっと起き上がった。そしてさっきの杖を探し出して、寝床の足元をかき回すと、たちまち雪の中から火が燃え出した。彼は、その火ですっかり体を暖めたあとで、何食わぬ顔をして、寝床の中に潜り込んだ。そんなこととは夢にも知らず『雪寒』は、翌朝になると、「もうすっかり死にきっているだろう」と考えながら、わざと、「おい、もう遅いよ。起きないか」と声をかけた。と、たちまちこのはずくが勢いよく寝床の中から飛び出したので、さすがの『雪寒』もあっけに取られて、唖(おし)のように黙っていた。このはずくは可笑しさをこらえながら、別れを告げて、家へ引き返した。

解説:このこのはずくは老人夫婦のもとに生まれ、以前の酋長で同名のこのはずくを打ち負かした。最後はやはり火による試しであった。オーストラリアでは土人は火を隠したり奪い合ったりする内容の物語が多い。ここではこのはずくによって他者を試すために現れることが多い。また、このはずくは鷲の羽根を利用するという。そして、最後に噂を聞いて向かったのは「雪寒」と言われる者の家だった。北へ向かい湖を越えた所にある。このはずくが寝ると鷲の羽根は立ち上がり光を放つ。これはペルシャにもサエーナがザールに与えた羽に不思議な力があるとされる。ゾロアスターはヴァーレガンの羽根。そして、「雪寒」は杖を取って寝床をかき回す。これで雪の中から火がでてくると言うのは不思議である。

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このはずく

ある村に老人夫婦がいて、一人の美しい娘を持っていた。この娘が夫もいないのに、自ら身籠った。老人夫婦は大変に驚いて、しきりにそのわけを問いただしたが、娘自身にも、いっこうに訳がわからなかった。娘は友達の乙女たちと一緒になって、毎日のように甘藷(さつまいも)を掘りに出かけたが、どうしたのか自分だけがさっぱり見つからなかった。娘は、悲しくて口惜しくて、空籠を下げながら、あちらこちらとぶらついていると、出し抜けに、「お母さん」と呼ぶ声が聞こえてきた。娘は驚いてあたりを見回したが、あたりには誰もいませんでした。しばらくすると、また「お母さん」と呼ぶ声が聞こえてきた。娘はその声が自分のお腹の中から出てくるのに気が付いた。そこで「なんだねお前」と返事をすると、腹の中の声は、甘藷のあるところを詳しく教えてくれた。教わったところを掘ると、たくさんの甘藷が見つかった。他の乙女たちは、びっくりして「今日は大変な獲物ね」とうらやましそうな顔をしていた。しばらくすると、男の子が生まれた。お母さんは、男の子のいうがままに、「このはずく」という名前を付けてやった。二人は食べ物がないので、村の人たちから食べ残しを貰って命をつないでいた。そのうちにこのはずくが「みんなが魚を取りに行くから、私も行かせておくれ」と言い出した。お母さんは笑い出して、「駄目ですよ、お前はまだ小さいのだから」と言った。しかし、このはずくはどうしても聞かないので、行くことを許してやった。このはずくは、小さい弓矢を手にして、村境の湖に出掛けて行ったが、しばらくすると、大きな魚を射殺してもって帰った。お母さんは驚き喜んで、その後は毎日このはずくを漁に出すことにした。こうして二人は、村の人たちから食べ物の残りを貰わないで済むようになった。村の人たちの内に、コノハズクを嫌っている大勢があった。その人たちは「あいつは父無し子だ」といって、このはずくを蔑んでいたが、このはずくが毎日のように、大きな魚を射止めて帰ってくると言う噂を聞くと、大変彼を恐れて、いまのうちに殺してしまおうと決心した。で、名高い医巫の所に訪ねて行って、「どうか、あのこのはずくを殺してもらいたい。気味の悪い子供で、生かしておくと、どんなことをするかも知れないから」と頼むと、医巫も、このはずくが自分より偉い男になってはならないと思いすぐにその頼みを引き受けた。
ある日、このはずくがいつものように村境の湖に行って、魚を捕らえていると、出し抜けに大きな雲の影が水に映った。それを見ると、このはずくはすぐに、「あの医巫が雷を送って、自分を殺そうとしているな」と気が付いた。彼は弓矢を持ったまま、湖の中に渡り込んで、膝まで水に浸りながら、じっと突っ立っていた。しばらくすると、電光が閃いて雷が轟き始めた。このはずくは、手にしていた弓を頭の上にかざした。途端に雷がこのはずくを目掛けて落ちかかってきたが、弓に滑って、水の中に転げ込んでしまった。医巫は、遠くからそれを見て、幾度も幾度も雷を落としたが、みんな弓に滑って、水の中に転げ込むだけだった。医巫はがっかりして「不思議な子供だ。俺よりも偉い力をもっている。こんな子供を相手にしていると、俺の方が危なくなる」と言って、こそこそと逃げ出してしまった。しかし、どう考えても残念でたまらないので、今度は人食いの雷をやって、このはずくを食い殺させることにした。ある日、このはずくが自分の小屋の中で横になっていると、なんとなく胸騒ぎがした。彼は「何か悪い事が起こるに違いない」といって、そばにあった弓矢を取って、また寝転んでしまった。しばらくすると、大きな物音が聞こえて来た。「あの医巫が人食いの雷を送ったな」このはずくはこうつぶやいたが、やはり寝転んだままにしていた。人食いの雷は、だんだんと小屋に近づいて来た。このはずくは雷の熱い息を感ずるようになったが、それでもやはりじっとしていた。雷は小屋に忍び寄って、屋根の上によじ登ったが、身体の重みで、屋根を踏み抜いて、大きな音を立てて落ちてきた。それを見るとこのはずくは、いきなりとびかかって射殺してしまった。その後は、村の人たちも医巫も、すっかり恐れ入ってしまって、このはずくを心から尊ぶようになった。

解説:まず、乙女は夫なく子を産んでいるということであるが、メキシコ7ではフイチロポクトリがそのようにして生まれている。また、話の内容もこれに近似しているように思う。

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力士となった孤児

あるところに、一人の孤児が年を取ったお祖父さんと住んでいた。お祖父さんは、孫がおおきくなったら弓矢をこしらえてやって、鳥や獣を射る術を教えてやろうと思っていたが、そのうちに病気にかかって死んでしまった。たった一人になった孤児は 家から家へと歩き廻って食べ物の残りを貰っては、命をつないでいた。村の子供たちは、毎日のように孤児の住んでる小屋にやって来て、いろんなことをいっては孤児をいじめていた。暫く経つと孤児は、自分弓矢をこしらえて山や野に狩に出掛けるようになった。ある日、ただ一人で、山の中を歩き回っていると、どこからとなく歌声が聞えてきた。孤児は突っ立ったまま、じっと耳を澄ませていた。暫くすると、見慣れぬ男の子が藪の中から駆け出してきた。孤児は、その男の子と一緒になって、いろんなことをして遊んだ。そのうちに男の子が、「相撲をとってあそぼうじゃないか」と言い出した。男の子はいかにも力が強そうに見えたので、孤児は、暫くの間ためらっていたが、しきりに勧めるので、思い切ってとびかかって行くと、苦も無く投げ倒すことができた。自分ながら不思議に思って、ぼんやりした顔をしていると、男の子が元気よく笑いだして、「そんな変な顔をしなくてもいいよ。私が力を授けたのだ。私は非常に力の強い男なんだ。私に力を貰ったお前は、世界中で一番強い男になったのだ。いつも村の子供にいじめられているのを見て、可哀想に思ってわざわざ加勢に来たのだ」といったと思うと、姿を消してしまった。孤児は森の中で夜を明かして、明くる朝、三匹の鹿を殺して、それをもって帰っていたところ、奇妙な男の子が現れて、「私の友達どもが寄り合って、相撲をとろうと言っている。お前さんも仲間に入ったらどうだ」と言った。孤児はすぐに承知して、男の子のあとについて行った。男の子は、大勢の大人たちが集まっている所に連れて行った。そしてみんなに向かって、「どうです、この子供と相撲を取ってみませんか」と言うと、一人の男がすぐに孤児に飛びかかって来たが、たちまち放り出されてしまった。それを見ると、大人たちは、たいへん口惜しがって、代わる代わる孤児に組んでかかったが、みんな嫌と言う程投げつけられてしまった。奇妙な男の子は、にこにこ笑いながら孤児に向かって、「どうだね、随分強くなっただろう。早く村に帰って、お前さんをいじめていた子供たちを投げ飛ばしてやるがいい」といって、そのまま消え失せてしまった。孤児が自分の家に帰ってから、四、五日たつと、村の者が寄り集まって相撲の会を開いた。。孤児も、大勢の中に混じって見物をしていた。すると、一人の若者が早くもその姿を見つけて、彼の側にやって来て「どうだね、お前も一つ相撲を取ってみたら。臆病者でなければ、一度はやってみるべきものだ」と言った。こう言ったものの、若者は、決して本気で相撲を勧めているのではないのであった。ただ、そういったら、孤児はきっと尻込みするに違いない、そしたら存分に嘲り笑ってやろうと思って、声をかけたのであった。ところが、孤児はすぐに身にまとっていた毛布を放り出して、勢いよく相撲場に駆け込んだ。と思うと、手当たり次第に大の男をひっつかんで、安々と投げ飛ばし始めたので、村の人たちは皆驚き恐れて、その後は誰一人孤児をからかうものがなくなった。

解説:アメリカの神話では、「不思議な男の子」という形で人々に不思議な力を授けるという話が多いように思われる。

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水の怪魔

世界がまだ新しかった頃、大勢の者が、とある入江に野宿していた。ある日一人の男が、入江に水を飲みに行った。水を飲んでから、何気なく入江をのぞき込むと、蛇のような形をした大きな動物が、水の中に動いているのに目が付いた。怪しい動物は、のろのろと入江を遡っていた。驚くほど長い体をしているので、男の目についたのは尻尾のほうだけだった。男は「馬鹿に長い体をしているな。どこに頭があるのだろう」と言って、入江の縁にそって、だんだんと上って行ったが、どこまで行っても胴体が見えるだけだった。男はいまいましくなって、足を速めた。そして一里ばかり遡ると、やっと頭が目についた。男は一散に自分牡家に聞明け戻って、お祖父さんに、水の中の怪物のことを話した。話が済むと、お祖父さんはほっと溜息をついて、「恐ろしいことになった。お前が見たという怪物は、きっと何か悪い事の起こる前兆なのだ」と言った。「悪い事って、どんなことが起こるのでしょう」と男が尋ねた。お祖父さんはまた大きな息をついて、「さあ、それはわたしにはわからない。みんなに来てもらって相談をしてみよう」と言った。お祖父さんは使いを立てて、みんなを自分のテントの中に呼び集めた。そして孫が見たという怪物の話をすると、五、六人の男がいっせいに笑い出して、「そんな馬鹿なことがあるものか、いくら怪物でも、頭から尻尾迄一里もあるなんて」と言った。しかし、他の者はみんな天幕から飛び出して、入江のそばに駆けて行った。と、なるほど長さ一里に余るような怪物が、のろのろと入江を遡っていた。人々は驚き恐れて、「いったいこの怪物はどこから来たんだろう」「こんな怪物が現れたのは、いい前兆だろうか、それとも悪い前兆だろうか」などと、しきりに騒ぎ立てた。年を取った人たちはl、やたらに頭をかしげて、こんな怪しい動物の現れた例がいままでにあったろうかと、一生懸命に考えてみましたが、どうしても思い出せませんでした。そうしているうちに、一人の男が、「あの盲目の爺さんに聞いてみようではないか。私たちの仲間で一番の物知りだから」と言い出した。大勢の者はそれに同意して、みんなで盲目の爺さんのテントに入って行った。そうして怪物の様子を詳しく話して聞かせた後で、「どうでしょう、こんなことになったのは、いい前兆でしょうか、それとも悪い知らせでしょうか」と尋ねた。爺さんは何とも答えないで、考え込んでいた。人々は静まり返って、心配そうに爺さんの顔を見つめていた。暫くすると、爺さんが、「悪い前兆だよ。近いうちに大水が出るという知らせだよ」と言った。それから暫くたつと、果たして大水が出て、入江の側に大きな湖が出来た。そして湖を渡る者が、水の上で一言でもものをいうと、たちまち水が湧き立って、溺らせてしまうのだった。人々は、大変それを恐れて、湖の上では、決してものを言わないことにしていた。あるとき、四人の男が湖の向こう岸に狩に行った。そしてたくさんの獲物を手に入れて、うちに帰ることになった。舟を湖に漕ぎ出すと、いままで声高に話していた人々は、俄に口をつぐんで黙ってしまった。舟は音もなく水の上を滑って、やがて岸辺に近くなった。その時一人の大胆な男が、「湖の上で話をしてはならないと言うが、話をしたらいったいどんなことになるのだろう。やってみよう」と思って、急に大きな声でしゃべり始めた。人々は顔色を変えてしきりに止めたgあ、大胆な男は、平気な顔をして話続けていた。と、やがて湖の水が魔物のように踊り立ったかと思うと、山の崩れるゆおうに、人々の頭の上にどっと落ちかかって、見る間に舟を覆した。人々はあっと叫んだまま湖の中に落ち込んで、一人残らず溺れ死んでしまった。

解説:「入江」「蛇のような怪物」、怪物は一里ほどの長さ、この怪物が現れたことで大水がでることになっている。また、大水が出て、入江の側には湖が出来たという。この怪物はこの湖の神なのだろうか。似たような水の霊的守護者は他の神話でもよく見受けられる。

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悪獣退治

昔々、この世界に悪い獣がたくさん住んでいて、人間や家畜を食い殺してしまった。それで、尾長狼が、人々を呼び集めて、悪い獣の始末について、話し合うことにした。尾長狼は乱暴な獣が多くお互いに迷惑だから、なんとか殺すためのいい考えがあれば聞かせてほしいと言い、人々は、めいめい思っていることを話し出したが、結局大地の上一面に生い茂っている草に火をつけて、悪い獣類を焼き殺そうということに相談が決まった。しかしそうすると、自分たち迄が焼き殺される心配があるので、火の燃え続いている間、みんなで星の世界に逃げ出していようと言うことになって、頭の白い鷹と鳥とを、星の世界に送り出した。鷹と鳥は天上世界に飛んで行って、星に会い「今度、悪い獣を退治するために、大地の草に火をつけるつもりです。ついては、火が燃え続けている間、あなたの所にお世話になりたいと思います」と言うと、星は快く承知して、「いいとも、お前たちみんなが天に昇ることさえできたら、いつでもやってくるがいい」と言った。鷹と鳥とが大地に舞い降りて、そのことを話すと、人々はすぐに長い長い綱を作り始めた。綱が出来上がると、鷹と鳥とがそれを加えて、再び天上界に飛んで行った。そしてそれを星に渡すと、星は綱の一方の端を大きな石で抑えて、他の端を下界に垂らした。たいへん長い綱であったので、天上界から大地まで届いた。それを見ると、人々は大喜びで、「さあ、天に昇る仕度が出来た。早く草に火をつけろ。黒蛇に灰色蛇、お前たちは二人で大地の上を歩き廻って、まんべんなく草に火をつけてもらいたい」と言った。黒蛇と灰色の蛇は、四匹で火をつける役を引き受けた。そして一匹は東に行って、一匹は西に行って、一匹は南に行って、一匹は北に行った。間もなく大地の上至るところに煙の雲が湧き立ち、太陽の光もぼんやりかすんで来た。「それ、大火事が始まったぞ、逃げろ」人々はこう言って、大急ぎで綱に飛びついた。そしてだんだんと空に昇って行くと、おとなしい動物どもも、そのあとに続いて、一生懸命に綱をたどり始めた。暫く昇ったあとで、人々がふと下の方を振り向くと、おとなしい動物の後から、悪い毛者どもまでも昇って来ていた。人々は驚き騒いで、「あいつらまでが、天上界にやって来ていては、大地に火をつけた甲斐がない」とおとなしい動物の一番おしまいに居た蝙蝠に声をかけて、「お前の足元から綱を咬み切ってくれ」と頼んだ。こうもりは、すぐに自分の足元から、綱を咬み切り始めた。悪い獣どもは、その音を聞きつけて、「お前は何を咬んでいるんだ」と尋ねた。蝙蝠は「お祖母さんからもらったいり米を咬んでいるんだ」と答えた。そして悪い獣どもが、それを聞いて安心をしている隙に、綱を咬み切ってしまったので、悪い獣どもは、空中から真っ逆さまに大地の上に転げ落ちた。蝙蝠は「うまい具合にいった。しかしあいつらの死に様を見届けなくちゃ気がかりだ」と言って、大地の近くまで舞い降りて行った。すると地面に非常に大きな獣が一匹のさばっていて、空から落ちてくる獣どもに向かって「なに、心配しなくてもいいよ。火が消える迄、私の腹の中に入っているがいい」と言いながら、獣という獣をすっかり呑み込んでしまった。それを見ると、蝙蝠は大変怒りだして、「生意気な奴だ、お前なんかに馬鹿にされて堪るものか」と言いながら、大きな獣の鼻の孔に飛び込んで、思い切りはね回った。獣は堪り兼ねて、大きなくしゃみをした。その拍子に腹の中に納まっていた獣どもが、みんな吹き出されて、燃え盛る火の中に落ち込んで、みるみる焼け死んでしまった。蝙蝠はすぐに空に舞い上がって行って、人々にそのことを話した。人々は大変喜んで、火が消えるまで星の世界にとどまっていた。

解説:まず、火を付けて獣を殺そういうことだが、火についての神話でオーストラリアの話がある。それから、「頭の白い鷹と鳥」が天界に行き星に火をつけている間天界に留まらせてくれるようにと頼む。これはバビロンやペルシャの鷹を利用した天界への飛行を思わせる。それから、聖書の寝ずの番人が地上に現れたことと関係があるように思う。これはマステマの存在にも共通している。つまり、アフリカの鳥の王が鳥を人に変えたりしたのと同様に、メキシコでもケツアルコアトルは鳥を人間に変えたりしたが、エジプトの神話では一日かけラーが冥界と天界を行き来している。これらの現象が星を地上に落とした理由としてあげられるのではないだろうか。
それから、火をつけたのは、「黒蛇」と「灰色蛇」四匹で、東西南北に一匹ずつが火をつけている。さらには、蝙蝠が後ろから綱を登ってくる悪い獣を地上に落とし、地上を見に戻ると、「一匹の獣」が他の獣を腹に入れている。蝙蝠はその獣の鼻に入り暴れ、獣がくしゃみをして他の獣を火の中に放つという。これはバンパイアと関連があるのかもしれない。

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水牛の災い

世界がまだ新しかった頃には、さまざまの猛獣が大地に住んでいた。その中でも一番気の荒いのが水牛であった。その頃の水牛は、決して一色ではなかった。様々の色をした毛皮に包まれて、大きな群で野原を歩いていた。そして、人間さえ見ると、すぐに襲い掛かって、食い殺してしまうのであった。人間たちは、水牛を恐れて、決して野原に出ないようにしていた。
あるとき、五、六人の男が七面鳥や鹿を狩り立てるために、とある森の中に入って行った。そしてあちらこちらと歩き廻っているうちに、広々とした寂しい野原に出た。人々は「大変なことになった。この野原を通らなくては、家に帰られない。水牛に見つからないうちに、早く通り抜けなくてはならない。」と言って、大急ぎで広野を横切っていた。すると遥か西の方にあたって、黒雲が人々に近づいてきた。見るとそれは水牛の群だった。人々は「いよいよ命が危なくなった、覚悟をしろ」とお互いに声を掛け合って、背にしていた獲物や、手にしていた弓矢を放り出して、一散に逃げ出した。水牛の群はすかさず後を追ってきた。しかし人々は、一生懸命に足を速めて追いつかれないうちに、茂った森の中に駆け込むことができた。その後はみんな勇気がでて「水牛だって怖がるには及ばない。我々の方が足が速いのだから」「水牛に見つかったら、一生懸命に駆け出せばいいのだ」と言って、いままでよりも遠くまで狩に出かけるようになった。あるとき、四人の男が熊狩に出た。とある森で、熊の足跡を見つけたので、それをたどって追いかけていると、熊は広々とした野原に逃げ出した。それを追い詰めて、射殺して、四人でもって帰っていると、野原のかなたに雷のような大きな物音がし始めた。「水牛がやってきた、逃げろ」と四人の男は、一散に駆けだしたが、一人一人と水牛に追いつかれて食い殺された。最後に残った一人の男は、逃げ場を失って、一本の樹によじ登った。すると水牛どもはその樹の周りに集まって来て、幹にぶつかっては押し倒そうとした。しかし大きな樹で、根がよく入っていたので、揺らぎながらもなかなか倒れなかった。そのうちに日が暮れたので、水牛の群れは立ち去ってしまった。男は、樹から降りて、家へ逃げ帰ると、みんなにその日の冒険のことを話した。人々は眉を顰めて「ほんとに困った、逃げ出しさえすれば、命だけは助かると思っていたが、それも空頼みになってしまった。もうこんなところにはいられない。どこか水牛のいないところに引っ越そうではないか」と話し合った。とうとう人々は、いままで住んでいた国を立ち退いて、あちらこちらと彷徨い始めた。そのうちに、とある国に着いたが、その国の中に入るには、大きな石の門を通り抜けるより他に道がなかった。「これは、いいところを見つけた。この国の中に入り、石の門を閉めてしまえば、水牛なんか怖がらなくてもいいわけだ」人々は大喜びで、一人一人と石の門をくぐり抜け中へ入って行った。一番おしまいに入りかけた尾長狼は、石の門に手をかけながら人々に向かって「水牛をすべて締め出してしまっては、食べ物に困るかもしれない。おとなしい水牛だけ入れてやることにしては」と言った。人々はすぐに賛成し、尾長狼はおとなしい水牛だけを入れてやってそれから石の門を固く閉ざしてしまった。

解説:世界が新しい頃の猛獣について、水牛が数えられた。水牛は足が遅かったが、次には足は速くなっている。また、人々の移動があり「ある国の石の門」をくぐっている。ここで最初の水牛からおとなしい者だけその国の中に移動している。ここでもまた、尾長狼の計略がある。

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水牛捕りのぶらんこ

あるところに六人の兄弟がいた。彼らは星だった。だから毎晩家をでて、空を旅して、朝になると、また家に帰ってくるのを常としていた。彼らに一人の妹があった。生まれながら、水牛を呼び寄せる力を具えていた。で、六人の星兄弟は、毎朝、夜の旅から帰ってくると、空からぶら下がっているぶらんこに妹を乗せて、高く揺り上げていた。妹は空中に揺れ動きながら、水牛を呼ぶと、沢山の水牛が、どこからとなく集まってくるので、兄弟たちはほしいと思うだけの頭数を殺して、残りを逃がしてやっていた。こうして彼らはいつでもたくさんの肉をもっているのだった。
あるとき、一匹の尾長狼が兄弟を訪ねて来た。彼は、兄弟がいつもたくさんの肉を蓄えているのを見て、いつまでもその家に留まっていようと決心した。兄弟は、たいして有難いお客とも思わなかったが、そのまま尾長狼をとどめておくことにした。尾長狼は、兄弟が毎朝妹をぶらんこに乗せて、空高く揺り上げては、水牛を呼び寄せるのを見て、自分もその真似をしてみたくて堪らなくなった。兄弟は早くもその様子を見て取って、「言っておくが、私たちの留守に妹をぶらんこに乗せてはいけない。慣れない者がぶらんこを揺すると、妹が天まで揺れて行ってしまって、二度と帰ってこなくなるから」と言った。「承知したよ。決してそんなことはしないから、安心してくれ」と尾長狼が答えた。しかしある日、兄弟がいなくなると乙女を呼んで、「さあぶらんこに乗るがいい私がうまく揺すぶってやるから」と言った。乙女は「いやです、兄さんたちが、そんなことをしてはいけないといったじゃありませんか」と撥ねつけた。しかし、尾長狼は恐ろしい顔をして乙女を脅しつけたので、いやいやながらぶらんこに乗った。尾長狼はすぐにぶらんこを揺り動かし始めた。だんだんと高く上がって行くのが面白く、いつまでも揺り続けていると、乙女の姿が見えなくなってしまった。尾長狼は驚き慌てて、大きな声で「早く降りてきておくれ」と叫んだが、乙女は降りてこなかった。尾長狼は怒りだして、「降りてこないと、私が昇って行って、お前さんを引きずり下ろすよ」と叫んだが、それでもやはり乙女は降りて来なかった。そのうちに兄弟たちが帰って来た。そして妹の姿が見えないのに気が付くと、尾長狼に向かって、「妹はどこにいるのか」と尋ねた。尾長狼は「どこにいるのか、私にはわからない。怪物に攫われたのではないだろうか」と答えた。兄弟たちは、尾長狼が自分たちの戒めを破りながら、嘘をついているということを悟って、「お前は嘘をついている、私たちの留守にぶらんこを揺すぶったことはわかっている。お前のようなものは、家に留めて置く訳に行かない。早く出て行ってもらおう。妹を失くした罰に、お前の子供は、今後絶えず腹をすかしていなくてはならない」と兄弟たちは言って、尾長狼を追い出した。それから、六人の兄弟は、「妹がいなくなっては、大地に住んでいても仕方がないね」「そうだ、いっそ自分たちも天に昇ってしまおうじゃないか」と話し合って、連れ立って天上界に昇って行った。そして妹を見つけ出して、仲良く一緒に日を送ることになった。

解説:六人の兄弟の「星」とその妹、妹がぶらんこに乗ると水牛がたくさん集まる。また、水牛を集めるのは朝である。これは明けの明星と関係があるだろうか。尾長狼は水牛の肉が欲しくて星たちに近寄っている。肉を集めるあたりは自然民族の望むところだろう。ここで水牛を集める妹が誰なのかという疑問がある。そして、尾長狼は星たちと妹をぶらんこへ乗せない約束をするがそれを破り、妹は天へ昇り帰ってこないという。星たちがいないと言うことは夜の出来事である。約束を破った尾長狼に星たちはその子孫が絶えずお腹を空かせるようにする。これは現代でも見られる現象かもしれない。水牛がこの頃の食糧であることは確かだが、水牛は一体何を示しているのだろうか。この食糧の秘密が気がかり。(ケルト神話、いくら食べても減らない豚と同じ類?)(ペルシャ、ゲーウシュルワンとの関係?)また、水牛は他の神話でもよく見かける)

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ペカン樹の由来

ある所に、一人の年を取った女が住んでいた。この女はペカン樹の母で、あらゆるペカン樹を我物にして、一人でその実を集めていた。他の者がその家に訪ねて行くと、ペカンの実を少し食べさせるが、決してそれをもって帰ることを許さなかった。あるとき、大勢の人が食べ物がなくて困ったことがあった。彼らは、都市を取った女の家に出掛けて行って、「少しでもいいから、食べ物を分けてくれ」と頼んだ。女は、家の中に積み上げられたペカンの実を、ほんの少しばかり取り出して、彼らに渡した。人々は、女の欲張った心を憎いと思ったが、そのままお礼を言って帰ろうとすると、女は慌てて彼らを呼び止めて、「ペカンの実を持って帰ってはいけない。ここで食べて行ってくれ」と言った。仕方がないので、人々は女の家でペカンの実を食べたが、心の中では、ひどく女を恨んで何とかしなくてはならないと考えていた。彼らの村に、一人の老人がいて、四人の小さい男の子を持っていた。四人とも狡くてすばしこくて、手のつけようのない悪戯者だった。人々は、この子供たちを使って、欲張り女のペカンの実を盗み出させようと決心した。間違って、年を取った女に殺されるようなことがあっても、村の者の迷惑になる悪戯者が除けて、かえって都合がいいと思ったからであった。四人の男の子たちは、村の人から頼まれると、すぐに乗り気になった。「あのお婆さんの所から、ペカンの実を盗むのか、面白いな。すぐにやってみよう」子供たちはこういって、やすやすと引き受けた。四人の内一人が、夜になってそっと年を取った女の家に忍び寄った。そして壁の隙間から覗き込むと、女はまだ仕事をしていた。しかし暫く待っているうちに、仕事をとめて、寝床に入った。男の子は女が鼾をかき始めたのを見すまして、兄弟の所に帰って来た。そして、「お婆さんはもう眠ってしまった。そろそろ出掛けようではないか」というと、他の三人もすぐに同意した。そこへ、尾長狼がやって来て、「お前たちが盗みに行かなくてもいいよ。明日になったら、私があの女を殺してやるから」と言った。四人の男の子は悪戯の種子がなくなると思って、「いや、私たちがうまくやってのけるよ」と答えたが、尾長狼は、どうしても自分で出掛けると言い張るので、子供たちは、しぶしぶその言葉に従った。
明くる日になると、尾長狼が年を取った女の家に訪ねて行った。そして大変優しく話しかけたので、女は上機嫌になって、幾つかのペカンの実をご馳走に出した。尾長狼は、床の上に座り込んで、ゆっくりとペカンの実を食べていたが、食べてしまうと、「お婆さん、済まないが、もう二つ三つくれませんか」と言った。女は承知して、ペカンの実を取るために向こうを向いた。途端に尾長狼は、隠していた石の小刀を取り出して、女の頭をひどく殴りつけた。女は床の上に倒れて死んでしまった。尾長狼は、蓄えてあったペカンの実をすっかり持ち出して、村の人たちに分けてやった。それ以来、村中にペカンの樹が生えるようになった。

解説:ペカンの実はクルミ科ナッツ類らしい。ある樹の実についての話はブラジルにもある。そこではバナナや名前の長い果実となっている。楽園から生えた類の木の実だろうか。ここでも尾長狼が一役買っている。

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月に迎えられた男の子

世界の初めに、人間が大地の中から出てきた。その時一人の男の子が、お祖父さんとお祖母さんとに連れられて、やはり地の中から現れてきました。年を取った人々は、この男の子を大変可愛がっていた。男の子は大きくなり、一人で狩に出かけることができる若者になった。ある日、この若者が狩から帰ってみると、お祖母さんが病気になっていた。若者は大変心配して、一生懸命に介抱したが、それでも四、五日経つとお祖母さんは死んでしまった。若者は後に残ったお祖父さんを親切に世話していたが、ほどなく死んでしまった。若者は、悲しくて寂しくて堪らないので、毎日のように森の奥に入って、「神様、どうか私も死ぬようにしてください」と祈っていた。
ある日、太陽が沈んであたりが暗くなりかけたころ、森の中でいつものようにお祈りをしていると、誰か自分の名を呼んだような気がした。驚いて振り向くと、一人の男が現れて、彼の側に歩み寄った。そして双の腕で彼を抱きながら、「そんなに悲しがらなくてもいい。私がお前のお父さんになってやる。私は、世の中のことを見張っている月だ。早く家に帰るがいい。今からは私がお前の世話をして力を授けてやるから」と言った。若者はそれに力を得て、いそいそと自分の家に帰って行った。それから暫くたつと、一人の乙女が訪ねてきて、「どうか私をお嫁にしてください」と言った。若者は、その乙女を妻にして、楽しく暮らすことになった。若者は、日がたつにつれて、自分の体の中に驚くほどの力が湧いてくるのに気が付いた。若者は「お月様が、力を授けて下さった」と考えたが誰にもそれを話さなかった。
そのうちに戦争が始まった。そして村の者は皆出かけて行ったが、この若者だけは家の中にのらりくらりとしていた。それを見ると酋長が、「お前は、本当に臆病者だな」と罵った。若者は「私は臆病者ではない」と答えた。酋長は「ではなぜ戦争に出掛けないのか」と言った。若者は「私の相手になる強い者がいないから」と答えた。酋長は「えらいことをいう。そんなことで騙される私ではない。家の中にぐずついているのが、腰抜けの証拠じゃないか」と酋長が嘲った。若者は「それなら私の力を見せてあげよう」と言って、大きな棍棒を摑むなり、戦の場に出かけた。敵の軍勢は、彼の姿を見ると、一斉に矢を射かけた。沢山の矢が体に突き刺さったが、若者は平気な顔をして、縦横に棍棒を振り回してさんざんに敵を殴り殺した。敵の軍勢は驚き恐れて、ちりぢりに逃げ出してしまった。戦が済むと若者は気分が悪くなって、がたがた震え出した。そのうちに体に突き刺さっていた矢の根が抜け落ちてしまったので、水に入って体を洗うと、すっかり気分がよくなった。人々は、若者の優れた力量を知って、みんな心から彼を尊ぶようになった。若者は、永い間村の人たちと一緒に住んでいたが、とうとう、「私は人間世界を立ち退くつもりだ」と言い出した。人々は驚き怪しんで、「人間世界を立ち退いて、どこに行くつもりだ」と尋ねた。若者はそれにはなんとも答えず、夕方になって月が空に現れると、それを指して、「あそこに私の父がいる」というなり、たちまち大地を離れて、月の世界に行ってしまった。

解説:月に関する記述。北アメリカの神話には人間が自らのナラティブを持って生まれると言うことがなく、他の世界から与えられているように思える。と言うのも、お祖父さんとお祖母さんと男の子は同時に地の中から出てくるというような記述であるからだ。月が保護者となり力を得るという。そして男は月の世界に帰る。北アメリカ

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最初の軍団

人間が初めてこの世界に現れたときには、人々は多くの部族に分かれていた。しばらくすると、部族の間に戦が始まった。キャド―族は、キオワ族や、コマンキー族などと戦うようになった。ある時、キャドー族の人々が、一緒に集まって軍(いくさ)の評定をすることになった。酋長が使いを立てて「軍に出たいと思う者は、みんな評定の座に集まってくるがいい」と言いふらしたので、若者たちが、我も我もと集まってきた。若者どもが円形に座り込むと、酋長は、自分の家にあった水牛の毛皮の内で一番大きなのを持ち出して、それを円形になっている大地に敷いて、若者たちに一本の棒を渡して、「さあ、みんなその棒で毛皮を叩いて、軍の詩を歌うんだ」と言った。若者たちはすぐに棒で毛皮を叩いて、軍の歌を歌い始めた。歌は、日が暮れかかる頃から、暁(あけ)の明星が現れる迄続いた。その間に、酋長は大勢の者を引き連れて、近くに水のある場所を選んで、そこにキャンプをこしらえた。夜が明け離れると、若者どもは一斉に立ち上がって、軍の歌を歌いながら、キャンプのあるところに行った。彼らはもう飼ってに自分の家に帰ることが出来なくなったのであった。昼になって、みんなご飯を食べていると、酋長が立ち上がって、厳かな声で、「私はいまいくつかの掟を設けるつもりだ。もし、お前たちが偉い戦士になりたいと思うなら、必ずこれを守らなくてはならない。第一に、お前たちは一団となって前進しなくてはならない。途中で留まることを許さない。それから、私が二人の者に水を運ばせることにするが、お前たちは、その水を飲むだけで我慢しなくてはならない。勝手に泉や流れに行って水を飲むことは堅く禁ずる。そしてそれも、一日に三回と決めておく。食べ物もその通り、一日に三回だ。わかったら前進だ」と言った。若者たちは、すぐに一団となって前進を始めた。彼らは終日歩き続けて、日が暮れると、キャンプをこしらえては、そこに泊ることにした。敵の住んでいる国が近くなると、酋長は若者どもの中から四人を選んで、「お前たちは皆の先に進んで、敵の様子を探るのだ。夜になったら、私の許に帰って来て、敵の様子を知らせてもらいたい」と申し渡した。四人の若者は、互いに相談して、「お互いに落ち合う場所を決めておこう。そして敵勢を見つけた者は、すぐにその場所に駆け戻って合図をすることにしよう。合図があったら、みんな集まってくるのだ」と話を決めて、それから思い思いの方角に歩き出して行った。こうして四人の若者が、うまく敵の様子を探りだしたので、戦いはキャド―族の勝ちとなった。彼らは、勝戦の徴に、一人の敵の頭の皮を剥ぎ取って持って帰ることにした。彼らが帰って来ると、人々は体を美しく塗り立てて、いろんな鳥の羽根をつけて、酋長たちを迎えた。酋長は敵の頭の皮を剥いだものに向かって「頭の皮を竿の先に括りつけて、それをもって、一生懸命に駆け出すがいい。他の若者は、それを追っかけるのだ。追いついた者があったら、その者がまた竿を持って駆け出すのだ」と言った。若者たちは、すぐにその通りにし始めました。こうして追いつ追われつして行くうちに、やがて自分たちの国に帰り着いた。それを見ると、居残っていた人々が我勝ちに駆け寄って来て、軍から帰った若者たちと一緒になって、盛んな軍踊りを始めた。これが軍団の組織させられた始まりである。そしてその後は、あらゆる軍団が、その通りに組み立てられることになった。

解説:水と食事を一日三回という決まりが出来たというところには注目したい。脚注では自然民族の軍団がどんな風に組み立てられるか、もしくは彼らの戦法や凱旋岩井がどんなものかを表す貴重なものだと書いている。しかし、世界の初めから多くの部族に別れていたということには気をとめるものがある。

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旋風の神

一人の男の子が、朝の水浴びを済ましたあと川の岸に腰を下ろしていた。彼はすがすがしい気持ちで、空に昇って来る太陽を眺めたり、流れる川の水音に耳を澄ましたりしていた。すると、どこからとなく声がして、「少年よ、私は、朝毎に水浴びをするお前を見守っている者だ。お前のお祖父さんは、お前の力を強くし、お前の我慢心を鍛えるために、夏も冬も、日ごとにお前をここにやっているということを、私はよく知っている。で、私はお前をそうした男にしてやろうと思って、ここに来たのだ」と言った。男の子は驚いて、樹の間を透かして見たり、水の中を覗き込んだりしたが、人影らしいものは見えなかった。男の子は変な気持ちになって、永い間川の流れを見つめていた。するといつの間にか、一人の男が水の面に現れて来た。男の子は岸辺に座り込んだまま、じっと待っていた。すると、見知らぬ男は彼の側に歩み寄って「四度水の中に潜るがいい。そして潜るたびに西を眺めるのだ」と言った。男の子は言われた通りに、西を眺めて、四度水の中に潜った。それからまた川岸に座り込むと、見知らぬ男が、「私は旋風の神だ。あらゆる風は、私の心のままに吹いて回る。人間どもは、みんなわしを怖がっている。だが、私も年をとって力が弱りかけて来た。で、永い間私に代る者を探していたのだ。それがどうしても見つからないのでがっかりしているときに、ふとお前に眼が付いたのだ。それ以来、私はずっとお前に気を付けていた。そして、とうとう私の力を授けに来たのだ。さあ、お前の両腕を思い切り振りまわすがいい」と言った。男の子は、力いっぱいに僧の腕を振り回し始めた。と、北の方から大きな黒雲が沸き立って、西の方に動いて行った。男の子はますます激しく腕を振り回した。たちまち雲の中からさっと風が吹き出して、森を抜けて、木々を根こそぎ吹き倒して、河の水を踊り狂わせ始めた。やがて見知らぬ男が、大きな声で「やめろ、やめろ」と叫んだ。男の子は、両腕をわきに垂て、せわしい息遣いをしていた。見知らぬ男は、「お前は確かに私の力を受け継いだのだ。決してその力を悪いことに使ってはならない。私はお前に『旋風の路』という名を与える」と言ったかと思うと、そのまま消え失せてしまった。男の子は、それから幾年か経つと、旋風に乗って空に昇って行った。

解説:エノク書には風の門や暴風の場所が示されている。北アメリカにはその場所があるのだろうか。

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人食いの最期

世界の初めには、さまざまの猛獣が住んでいた。その中に『人食い』という獣類が混じっていた。ある時、三人の男が狩に出かけた。そして獲物を探して、進んでいると、ある日、大きな樹の生え茂った国に来た。男たちは、一本の樹の側に大きな穴の開いているのを見つけた。「これは熊の穴に違いない」「そうだ、きっとこの中に熊がいるに違いない。いぶして狩り出してやろう」三人は行為って、枯れた木の葉や草を集めて、長い竿の先に括りつけてh、それに火をつけて、穴の中に差し込んだ。根気よく同じことを繰り返していると、とうとう変な獣が、穴の口から頭を差し出した。それは熊ではなくて『人食い』だった。三人はびっくりして一散に逃げ出した。『人食い』は、煙の晴れるのを待ちかねて、においを嗅ぎ後をつけてきた。しばらくすると、一人の男が追いつかれて、見る間に殺されてしまった。『人食い』はその死体を森の中に持って帰って、また追っかけ始めた。やがて二人目の男が追いつかれた。『人食い』はその死体を持って帰って、最初の死体の側に並べて、それから今度は、三人目の男のあとを追って駆け出した。三人目の男は命の限りに駆け続けた。すると一匹の豹が、行手の地面に平たくつくばっていた。男はそれをやり過ごしてから、ふと「あの豹が『人食い』をどうするだろう」と思って、後を振り返ってみていた。『人食い』は、人間を追っかけることにあまり一心になっていたので、豹がつくばっているのに気が付かないで、うかうかとその傍にやってきた。と思うと、豹はいきなり飛び立って、『人食い』の喉に食い下がった。豹と『人食い』とは、血まみれになって闘っていたが、とうとう『人食い』は豹のためにかみ殺されてしまった。男は大急ぎで村に帰って、人々に二人の仲間が『人食い』に殺されたこと話して聞かせた。人々はすぐに殺された男たちの死体を探しに出掛けて、丁寧に葬ることにした。

解説:人食いがいたのは大きな樹の側の穴である。また、豹が人食いを倒したと言うことには注目したい。

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若者と人食い

十人の男の子がお祖母さんと一緒に住んでいた。ある日、一番年上の男の子が狩に出掛けたが、そのまま帰って来なかった。お祖母さんが大変それを気にするので、あくる日、一人の男の子が探しに出かけると、これもそのまま帰って来なかった。こうして男の子が一日に一人ずつ見えなくなって、おしまいにはお祖母さんと一番年下の男の子だけになった。二人は、毎日寂しがったり悲しがったりしていたが、とうとう男の子が「お祖母さん、私を探しに行かせてください。」と言い出した。お祖母さんは「どうかそんなことを言わないで。私一人になってしまうではないか。お前が出掛けて行ったら、きっと兄さんたちと同じ目に合うに違いないよ」と言った。しかし男の子は、祖母の言うことを聞かないで支度をし始めた。支度が出来ると、頭髪に一本の鷲の羽根を刺して、家を出た。遠くまでくると、一軒の家が目に付いた。男の子は、何気なくその家の側に近づいた。すると、家の中から、「また一人やって来ている。玉蜀黍を煮ておいてくれ。すぐに御馳走にありつけるから」という声がした。男の子は、すぐにその言葉の意味を悟ったが、悲しくて疲れきっていたので、いっそのこと『人食い』に殺された方がましだと思って、家の戸口に歩み寄った。一人の年を取った男が出てきて、「お前は、九人の兄弟を探しているんだろう。」と尋ねた。「そうです」と男の子が答えた。「わしは、お前の兄弟の居所を知っている。何なら教えてやろう。だが、それには、まず仕事をしてもらわなくてはならない。無効に大きな丸太が転がっているだろう。あれを持ち上げて、火の上においてくれ。四度やってみてそれがもちあがらなかったら、お前は丸太の上に横にならなくてはならない。すると、私がお前事丸太を持ち上げるから」と言った。男の子は、とても丸太が持ち上げられるような気がしなかった。しかし家を出る時二、神様にお祈りをしておいたから、ひょっとしたら不思議な力が備わっているかもしれないと思い返して、丸太に手をかけた。しかし四度やってみたが、どうしてもそれを持ち上げることができなかった。仕方がないので、丸太の上に横になった。それを見ると、年をっとった男は、せせら笑って「これでお前の命もおしまいだね」というなり、顔に付けていた表の鉄の鼻で、男の子の体を突き刺そうとしたが、その一刹那、眼に見えぬある物が、男の子を手早く丸太から引き下ろしたので、狙いを外して鉄の鼻は、丸太に深く突き刺さって、老人を動けなくしてしまった。「早く家の中に入って、玉蜀黍を搗いている女の手から棒を奪ってくるがいい。その棒でこいつを殴り殺すのだ。」と空中に声がした。男の子はすぐに家の中に駆け込んで、玉蜀黍をついていた女の手から棒を奪い取り、それで年を取った男を殴り殺した。不思議な声は「兄さんたちの骨を集めるがいい。私が誰の骨だか教えてっやるから、九つに分けて積み上げるのだ」と言うと、男の子の目の前に、見慣れない男が現れた。男の子が骨を集めて、九つに分けて積み上げると、見慣れない男が「お前の着物を骨にかぶせて、空中に矢を射放つがいい。そして矢が落ちかけたら大きな声で、『気をつけなさい兄さん、矢が突き刺さりますよ』と叫ぶのだ」と言った。男の子は、すぐに自分の着物を骨の上にかぶせて、一本の矢を空に射放した。そして、それが落ちかけてくるのを見すまして、「気をつけなさい兄さん、矢が突き刺さりますよ」と叫ぶと、九人の兄弟が着物の下から飛び出した。見慣れない男は住人の男の子に向かって、「この家に火をつけて、老人やその妻と一緒に焼いてしまうがいい」と言った。男の子たち」が言われた通りにすると、見慣れない男は、「私は太陽だ。老人とその妻とは、恐ろしい人食いだから、お前たちを助けて、退治してしまったのだ。早くお祖母さんの所に帰るがいい」といって、そのまま掻き消すように見えなくなった。十人の兄弟は、連れ立ってお祖母さんの家に帰って来た。そして喜び騒ぐお祖母さんにいままでのことを詳しく話して聞かせた。その話が村中に伝わると、人々は喜び勇んで、「では、お天道様は、私たち友達だな。困った時は、お天道様が、いつでも助けて下さると思うと、ほんとに気が強いね」と話し合った。

解説:骨を集めて矢を射放つ転生の仕方は北アメリカ16でも出てきた。ここでは太陽によって人食いを退治することになっているが、16の話でも転生の方法や力を与えたのは太陽かもしれない。

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尾長狼と六人兄弟

一人の年を取った女が、七人の息子と一緒に住んでいた。七人とも腕利きの猟師だったので、女はいつも獲物の始末をするのに忙しかったのだった。ある日、一番年上の男が狩に出たまま帰って来なかった。数日たつと、犬だけがのそりと帰って来た。二番目の息子が、犬を三、四匹つれて、兄さんを探しに出かけたがこれもそのまま帰って来なかった。こうして六人の男が行方不明となった。おしまいに、一番年下子供が出掛けようとしたが、女はひどく心配してどうしても許さなかった。仕方がないので、あちらこちらをぶらついていると、ある木の上に一匹の洗い熊を見つけた。男の子は、お母さんに向かって、「お母さん、弓と矢があったら、私にもあの洗い熊が射止められるでしょう?」と尋ねた。女は「ええ、射止めることができますよ」と言って、弓と矢とを与えた。男の子が、弓に矢をつがえて、切って放そうとすると、洗い熊は身を躍らせて、樹から樹へと飛び移り始めた。男の子は口惜しがって、どこまでも追っかけて行くうちに、こんもり茂った森の奥に入り込んでしまった。洗い熊は、とうとう樹の幹にあいていた空洞の中に逃げ込んだ。男の子は、それを引き出そうと思って、樹に登って行くと、下の方で人の声がした。見ると、ひとりの小さい女が樹の側に突っ立っていた。「獲物を投げおろしなさい。私が犬と一緒になって殺してあげるから」小さい女がこう言ったので、男の子は空洞から引きずり出した洗い熊を樹の上から投げ落とした。女はすかさず犬と一緒になってそれを殺した。そして、「空洞の中には、まだ洗い熊が入っているのですよ」と言った。男の子は、空洞から洗い熊を引き出しては投げおろした。女はそれを待ち受けていて一匹一匹と殺して行った。男の子が、七匹目の洗い熊を引きずりだそうとすると、その洗い熊は男の子に向かって、「私を捕まえたら、出来るだけ遠くまで放り出してください。そしたら、下にいる女が私を追っかけてきますから、あなたはその隙に樹から飛び降りて、一散に家に逃げ帰らなくてはいけない。あの女は魔法使いです。あなたの兄さんたちを殺したのもあの女ですよ。」と言った。男の子は洗い熊の教えに従って、出来るだけ遠くにそれを放りだした。そして女が洗い熊を追っかけている隙に、樹から飛び降りて、一散に自分の家に逃げ帰った。洗い熊を殺して引き返してきた女は、男の子がいなくなっているのを見ると、たいへん腹を立てて、その後を追って駆け出したが、とうとう追いつくことが出来なかった。男の子は、その夜不思議な夢を見た。夢の中で尾長狼に出会うと、狼は彼に向って、「あんたの兄さんたちは死んだのではない。悪い人間に捕まって、ひどく使いまくられているのだ。ぐずぐずしていると、兄さんたちは今に死んでしまいます。早く助けに出掛けなさい。私が加勢をしてあげるから」と言った。夜が明けると、男の子は、お祖母さんに夢の話をした。お祖母さんは、じっと考え込んでいたが、「それはたぶん正夢だろう」と言った。それで、男の子は、その日の午後に家を出た。そして宛てもなく歩き回っていると、一人の男に出会った。その男は、男の子に向かって、夢の中で尾長狼が言った通りのこと話してから「お前は家に帰って待っているがいい。私が、悪い人間どもを退治してあげるから」と言った。男の子は喜んで家に帰った。
男(それは尾長狼だった)は、森の中をグングン歩いて行った。すると一匹のむささびに出会った。「お前は悪い人間の噂を聞かなかったのか」と男が尋ねた。「聞いたどころではありません。私は悪い人間に使いまわされているんですよ」とむささびが答えた。男は「では、六人の兄弟のことを知っているだろう」と男が尋ねた。「ええ、知っていますよ。あの人たちも悪い人間に捕まって、私と同じようにひどく使いまくられています」とむささびが答えた。男は「私は、その悪人どもを殺してしまうつもりだが、あいつらは、なんでも川向うに住んでいるそうだから手が付けられなくて」と困ったような顔をしてつぶやいた。それを見るとむささびが、「あの人たちが亡くなったら、みんなどんなに喜ぶかもしれない。でも、お前さんには、あの人たちを殺すだけの覚えがあるのですか」と尋ねた。男は「それはあるさ。私には知恵もあり力もあるんだからな。だが川が渡れないから困っているのだよ」と男が言った。むささびは「じゃあ、こうしたらどうでしょう。私が川を飛び越すときに、尻尾に捕まっていたら」と言った。男は「それはいい考えだ。では早く悪い人間のいるところに案内しておくれ」と男が言った。男はむささびの後について歩き出した。暫くすると、大きな川の端に出たので、むささびの尻尾に捕まって、「頼むよ、さあ勢いよく飛んでおくれ」と言った。むささびは勢いよく、こちらの岸から向うの岸へと飛び立った。男は、うかと向う岸へ着くのはまずいと思ったので、途中まで尻尾を摑んでいた手を放して、わざと浅い水の中に落ち込んだ。そして生え茂っている草の中に隠れて、悪人どもを退治する手段を考えていたが、しばらくkすると、綺麗な臼に姿を変えて、水の上に浮かび出た。やがて一人の女が、水を汲むために川に降りて来た。女はすぐに臼を見つけて、「まあ、綺麗な臼だこと」と言いながら、拾い上げようとしたが、臼はあちらこちらに流れまわって、どうしても手が届かなかった。それで、家に駆け戻って、悪いお頭に、「新しい綺麗な臼が流れています。早く拾ってください」と言った。しかしお頭は「それは、きっと尾長狼か何かが悪戯をしているのだよ。そのまま放っておくがよい」と言って、立ち上がろうともしなかった。しかし女は、「そんなことはありません。間違いなく立派な臼です。丁度新しい臼が欲しいと思っていたところでございます。早く取らせてください」としきりに頼むので、お頭は大勢の女を呼んで、臼を拾ってくるように言いつけた。女たちは、川の端に駆けて行って、大騒ぎをした後で、やっと臼を拾い上げた。そして家に持って帰って、代わる代わる使って見ると、世の中にこんないい臼はあるまいと思う程具合のいい臼だった。ある日、一人の女が新しい臼で玉蜀黍を挽き始めた。ところがいくら挽いても粉が少しも出て来なかった。女は驚き怪しんで、お頭の所に駆けて行って、そのことを話すと、お頭は得意そうな顔をしながら、「それ見ろ、その臼は尾長狼が化け込んだのに違いないよ。とにかく私の所にもってきてみるがいい」と言った。女が臼を持って来ると、お頭はそれを受け取って、大きな丸太の上に据えた。彼はいつも捕らえて来た人間を、その丸太の上に寝かして、長い長い鉄の鼻で刺し殺していたのだった。今度も高く頭を持ち上げて、臼を目掛けて、力いっぱいに鉄の鼻を打ち下ろしたが、その刹那に臼が転がり出したので、狙いが外れて、丸太に深く突き刺さった。ころげた臼は、たちまち尾長狼の姿になって、悪い男の頭を抑えつけた。そして召使たちを呼びだして、「さあ、早くこいつを殺してしまうがいい」と言った。いままでひどく使いまくられていた召使たちは、大喜びで悪い男を殺してしまった。六人の兄たちも召使の中に交じっていたが、悪い男を殺してしまうと、彼らは大急ぎで家に帰った。そして心配していたお母さんや末の弟に尾長狼の素晴らしい働きを詳しく話して聞かせた。そしてその後は、獲物が手に入るたびに、尾長狼にいくらかの肉を残して置くようにした。

解説:前章の類似に思えるがここでは七人兄弟で最後の一人が夢で尾長狼に出会い実際に兄弟を助けるのは尾長狼だ。末の弟の行動はまるで他の兄弟と世代が異なっていることを示唆しているように思われる。先人の試練の方が後代の者の試練より大きいと言うのは周知のことだろう。

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狼を呼び出すタバコ

あるところに『岡の上の高森』という村があった。あるとき、村の人たちが揃って、他の村に引っ越すことになった。みんな引っ越しの仕度をしているうちに、一人の若い女が赤ん坊を産んだ。女は夫を亡くしていたので、とても自分で赤ん坊を抱いて、みんなと一緒に長い旅に出掛けることができなかった。で人々はその女に、「それでは、お前さんだけここに居残っていて、身体が丈夫になり次第、あとを追って来るがいい。」といって、発ってしまった。女は人気もない寂しい村に、赤ん坊と二人きりで住んでいた。ある晩、ぼんやりと家の中に座り込んで、「体が丈夫になったら、一刻も早く立ち退かなくてはならない。こんな寂しいところに住んでいると、気が滅入って仕方がない」と考えていると、家の外に足音が聞こえて、やがて、「ごめんなさい、ごめんなさい」という声がした。若い女はびっくりしたが、仕方がないので、「おはいりなさい」と答えると、すぐに見知らぬ男が入って来た。女は「あなたは、私の村の人ですが」と女が尋ねた。男は「そうではありません。でも心配しなくてもいいです。私は『斑狼』というものです」と男が答えた。女は「何か御用ですか」と尋ねた。男は「別に大した用はありません。でも、お前さんは、あまり急いで旅に出掛けないほうがいいんですよ。途中にはいろんな危険な獣類が住んでいますから。それだけのことを話に来たのです。」と言った。女は「それは私も知っています。でもこんな人気のない所に、永く住んでいる気にはとてもなれない。だって怖くて寂しくて堪らないから」と女が答えた。男は「でも今発ったら、きっと途中で悪いことが起こるような気がしますよ。でも発って出掛けたいというのなら、このタバコを持っていらっしゃい。そして危ない目に出遭ったら、これを四方に振りまいて、私の名をお呼びなさい。そうしたらすぐに加勢に来ますから」と言って、タバコを渡して帰って行った。それから二、三日たつと、若い女は子供を背負って村を出た。そして、しきりに道を急いでいると、三日目に行く手に変な姿をしたものを認めた。女は、「あれは獣かしら、それとも人間かしら」と怪しみながら、だんだんと近づいて行った。変な姿をしたものは、出し抜けに大地の上に転がり始めて、獣の姿になったり、人間の姿になったりした。女は「あれは『人食い』だ」と思うと、足がすくんで、身体が震えて、そこに突っ立ってしまった。途端に『斑狼』のいったことが、稲妻のように女の頭に閃いた。女は大急ぎで袋の中からいくらかのタバコを摑みだして、それを東に投げて、西に投げて、南に投げて、北に投げた。そして斑狼の名を呼んだかと思うと、たちまち狼の唸り声が、東に聞こえて、西に聞こえて、南に聞こえて、北に聞こえた。女の方に這いよっていた『人食い』は、その声を聞くと、びっくりして足を留めた。途端に、大きな斑狼が四方から現れて来て、『人食い』に飛び掛かったかと思うと、見る間に食い殺されてしまった。それから南の方から来た狼が、女を送って、無事に新しい村に届けてくれた。

解説:「岡の上の高森」とはどこだろうか。また、南からきた狼が女を送っているが村人が移動したのは南だったのだろうか。

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弓の矢と死人

二人の男が、夜の明けきらないうちに狩に出掛けた。そして日が暮れるまで森の中を狩り立てたが、どうしたわけか、その日に限って、さっぱり獲物がなかった。二人は空手で帰って行くのが嫌いだったので、森の中に夜を明かして、もう一日狩を続けようと決心した。二人は柔らかな草の上に横になったが、ひどく疲れていたので、すぐにぐっすり眠ってしまった。しかし、真夜中に突然起こった凄まじい唸り声のために、二人ともびっくりして跳ね起きました。そして暫くの間顔を見合わせていたが、やがて一人の男は気違いのように、暗闇の中を駆けだして、自分の家に逃げ帰った。あとに残った一人は、非常に大胆な男だったので、闇の中に突っ立ったまま、じっと様子を伺っていた。すると、一人の死人が彼の前に現れて、「私は冥府(よみじ)に行かれなくて困っているんです」と言った。男は「どうして行かれないんです」と尋ねた。「弓の弦(つる)に節があるからです。どうか私に弓の弦と日本の新しい矢を作ってください」と死人が言った。男は大地に座り込んで、二本の矢をこしらえた。そして死人の持っている弓に新しい弦をはめてやった。死人は大変喜んで「どうもありがとう。お蔭でやっと冥府に行けるようになった。私は弓の矢に乗って冥府に飛んで行くのですが、うまく空に飛びあがることが出来たら、咳払いをします。それが聞こえたら、あなたも咳払いをして下さい。」と言った。男は「承知しました」と答えた。すると死人はすぐに弓に矢をつがえて、勢いよく切って放ったかと思うと、その矢に乗って空に飛びあがった。しばらくすると、空中に咳払いの声がしたので、男もすぐにそれに応じて、咳払いをしてやった。男は、死人が無事に冥府に入ったことを悟った。明くる日、男は帰って人々にその話をした。そこで人々は、「では、死人は弓の矢に乗って冥府へ行くことになっているのだな」と言って、その後は死人があると、きっと弓と矢とをこしらえて、一緒に埋めることにした。死人が冥府に行けないで、村のあたりを迷っていると思ったからだ。しかし死人が、家の中にやって来て、そのために家族に死ぬ者があってはならないと思ったので、夜は決して弓矢を作らないことにした。

解説:死人が弓矢によって冥府へ行くと言う。冥府に一番近いのはオーストラリア又は、ポリネシアだと思うが、北アメリカとポリネシア近郊とは弓矢によってつながっているのだろうか。エノク書には弓矢と剣のある場所が記載されているが、そことの関係もあるかもしれない。確かに弓矢による不思議は北アメリカの神話に多い。

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七曜星の由来

この世界の初めに、一人の年を取った女が住んでいた。女には七人の子供があったが、みんな男の子だった。七人とも大変な悪戯者で、終日どこかへ行っては遊び暮らしていた。ご飯も、朝家を出る前と、夕方家に帰ってから食べるだけだった。お母さんはひどく心配して、たびたび叱りつけたが、ちっとも効き目がなかった。ある晩、七人の子供があまり遅く帰って来たので、お母さんはすっかり腹を立てて、わざと食べ物を与えなかった。子供たちは怒って、家を飛び出してしまった。夜明けになると、彼らは家の周りをぐるぐる回りながら、精霊を呼び掛けて、「どうか私たちを天に送り届けてください」と祈り始めた。家の中にいたお母さんは、その声を聞きつけて、じっと様子を見ていた。しばらくすると、男の子たちの足が、地面を離れかけたのに気が付いた。「大変だ。何か間違い事が起こりかけている」とお母さんは言って、子供たちを引き止めるために、急いで家から駆け出した。しかし、もう遅かった。子供たちの体は、空中に浮かび出して、やがて屋根の上まで登っていた。お母さんは呆気に取られて、その姿を仰いでいた。子供たちはぐるぐる回りながら、上へ上へと昇り続けて、とうとう天上界に行ってしまった。七人の男の子は七曜星となった。しかし、天上界でも彼らは悪戯で、怠け者で、働く季節が来さえすると、仲間のそばからすり抜けて、みんなの見ない所で遊び戯れるのだった。だかr、私たちは、冬の間は、七曜星の姿を見ることが出来ますが、春が来て、みんなが働くときになると、その姿を見失ってしまうのであった。

解説:七曜星に関してはオーストラリア24の話でも出ている。そこでは乙女7人がミーメイと呼ばれている。ここに男女の差異を見出すことができるようにも思われる。それは現実ではなく物語としてのつながりであるかもしれない。また、乙女と男たちは運命を共にした者たちかもしれない。そう考えると、アイヌの神話も考えに入れなければならない。アイヌ神謡集109p。しかしここでは6人づつの男女(長いと形容)と6人づつの男女(短いと形容)となっている。だが、一人がそう語るので本当は7人かもしれない。しかし、関係があるかはわからない。

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蛇になった男

あるとき、二人の少年が狩に出掛けた。二人は一匹の大きな蛇に出会った。と、一人の少年がそれを殺して、焼いて食べようとした。他の少年はそれを止めて、「そんな物を食わないで、水牛の肉を食べようじゃないか」と言った。しかし、相手の少年はいうことを聞かないで、蛇の肉を食べた。翌日になると、その少年は蛇に変わってしまった。仲良しの少年がそれを見て、大変悲しんでいますt、蛇が、「山に行って、私の住むのに都合のいい穴を見つけてくれ。」と言った。少年はすぐに山に行って、程よい穴を見つけて、そこに蛇を連れて行った。すると、蛇は少年に向かって、「村に帰って、みんなに私が蛇になったことを話してくれ。それから狩に出た者が、私に供え物をすると、獲物がよくとれるようにしてやるといっておくれ」と言った。

解説:人から蛇になった神、又は精霊がいるのだろうか。また、その正体は誰だろうか。聖書にたまに見受けられる蛇がいくつかある。

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蛇と女

昔、ある所に夫婦が住んでいた。男は毎日狩に出掛けるのであったが、お嫁さんも、男の姿が見えなくなると、すぐに家を飛び出してしまうのだった。しかし夕方になると、男が帰ってこないうちに、どこからか帰って来て、何食わぬ顔をしているのだった。だから男は、お嫁さんが自分の留守に家を空けると言うことに、少しも気が付かなかった。すると、ある日、家に飼ってあった犬が、男に向かって、「おかみさんは、あなたの留守に、いつも家を空けるんですよ」と言った。それを聞くと、男は大変驚いて、「じゃ、今度家を空けたら、後をつけておくれ」と言いつけた。明くる日になるいと、男は朝早くから狩に出掛けた。お嫁さんもそれを待ちかねたように、そそくさと家を出た。犬はお嫁さんのあとから、見え隠れについて行った。お嫁さんは、大きな森の中に入って行ったが、やがて一本の樹の側に立ち止まって、続けざまに三度口笛を吹き鳴らした。すると、樹の幹に開いていた穴から、何やら這い出してきた。後をつけてきた犬がそれを見ると、一匹の大きな蛇だった。蛇は樹の上から地面に降りて来て、女の側に這い寄って、その体にぐるぐると巻き付いた。そしてそのまま身動きもしないでいたが、しばらくすると、女の体から離れて穴の中に帰って行った。その夜、犬は昼間見たことをすっかり主人に話した。男は口惜しそうな顔をして、じっと耳を傾けていたが、明くる日になると、たくさんの弓の矢をこしらえてお嫁さんに向かって、「今日は犬を連れて、魚を捕りに行ってくるよ」と言った。しかし家を出ると、蛇の住んでいる樹のそばに行って、続けざまに三度口笛を吹いた。すると、すぐに穴の中から蛇が這い出して地に降りて来た。それを見ると、男はすかさず矢を放って、蛇を射殺してしまった。そしてその体をずたずたに切り刻んで、魚の肉のようにした。それから男は河へ行って、二、三匹の魚を捕らえて、家に帰って来た。そして蛇の肉と魚の肉とを料理して、自分の皿には魚の肉を盛り、お嫁さんの皿には蛇の肉を盛った。蛇の肉とは知らないで、旨そうに食べてしまった女は、暫くすると、「どうしたんだろう。体がかゆくて仕方がない」と言いながら、やたらに体中を掻き始めた。すると、搔く所が蛇の皮の色に変わって行って、やがて、女は一匹の蛇になってしまった。そして家の中から這い出して、蛇の住んでいる樹の方に進んで行った。

解説:蛇の嫁、蛇に恋する女の話はよく見かけるところであるが、この場合、女は蛇になってしまうと言う。女は夫がいるにもかかわらず、蛇と愛し合っているということだろうが、他の神話ではそれは見られなかった記憶がある。

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梟の悪戯

あるところに、老人夫婦が住んでいて、双子の美しい娘を持っていた。二人の乙女は、遠くの村に非常な金持ちの酋長が住んでいるという噂を聞き込んだ。そこで、ある日両親に向かって、「遠くの村に行って、酋長さんのお嫁さんになりたいと思いますが、どうでしょう」と尋ねた。両親は「行ってみるがいい。」と言った。二人の乙女は、すぐに家を出掛けたが、目指す村がどこであるか知りませんでしたので、「誰でも出会った人に尋ねることにしよう」と言って、あてもなく歩き続けていた。暫くすると、一羽の七面鳥を抱えた男が、向うからやって来た。乙女たちはその男を呼びとめて、「あの名高い酋長さんはどこに住んでいるのでしょう。私たちは酋長さんのお嫁さんになるつもりなのです。どうかお宅を教えてください」と言った。それを聞くと、男はにやりと笑って、「私がその酋長だ。よろしい、お前さんたちをお嫁にすることにしよう。だがちょっと待っていておくれ。お祖母さんに話してくるから」と言って、どこともなく立ち去った。乙女たちは、「えらい酋長ともあろう者が、お祖母さんに相談して、こんなことを決めなくてはならないとは、どうもおかしい」と考えたが、とにかく男の帰ってくるのを待つことにした。男は実は梟だった。梟は家に帰ると、お祖母さんに向かって、「大急ぎで家の中を片付けてください。今に二人の女を連れて来て、からかってやるつもりですから」と言った。お祖母さんが家の中を綺麗に片付けると、梟は、「この七面鳥を枕元に置いておきますから、明日になったら私に『どの七面鳥を料理しおうかね』と聞いてください。そしたら私が、『これにしておいたらいいでしょう』と言って、この七面鳥を渡すことにします。そうすると、女たちは、きっと家に七面鳥がたくさんしまってあると思い込むに違いありませんから」と言った。梟は、乙女たちのいる所に引き返して、二人を自分の家に連れて来た。二人は家の中が綺麗に片付いているのを見ると、大変に喜んですぐにお嫁さんになった。梟は毎日家を出た。そして毎日一匹の七面鳥をもって帰りますので、乙女たちは、自分の夫を偉い猟師だと思い込んでいた。しかし、実際は梟は毎日開かれる会議の席で、酋長を頭の上に載せて座り込んでいるのだった。そしてその骨折賃として、一匹の七面鳥をもらい受けるだけのことだった。それから五、六か月経つと、乙女たちは、七面鳥に飽いてしまった。「こんなに、毎日毎日七面鳥の肉ばかり食べさせられては、かなわないわ」「ほんとにそうだわ。どうして他の獲物は持って帰らないのでしょう。きっとこれには訳があるに違いないわ」「きっとそうだわ、明日になったら、あの人のあとについて行ってみましょう」二人はこう話し合って、その翌日梟が出掛けた後をつけていくと、一軒の大きな家の側に来ました。後をつけられているとは夢にも知らないで、梟は、のこのことその家に入った。そして酋長を自分の頭の上にのせて、一座の真ん中に座り込んだ。壁の隙から家の中を覗き込んでいた乙女たちは、それを見ると、けたたましい叫び声を立てた。梟は、すぐに乙女たちに見つけられたことを悟って、酋長を放り出すなり、一散に家に駆け戻って、お祖母さんに向かって、「なんだって、女たちを家から出したんです」と散々小言を言った。二人の乙女は、恥ずかしくて口惜しくて堪らないので、そのまま両親の家に帰って、いままでのことを詳しく話して聞かせた。梟は、乙女たちに逃げ出されたのが残念で堪らないので、毎日怒っていたが、とうとうお祖母さんに向かって、「私は、みんなの奴を殺してしまうつもりで、それには、大地の上の水をなくしてしまわねばならない。お祖母さんも加勢をして下さい」と言い出した。二人は毎日朝から晩まで働いて、大きな穴を掘った。そして河や湖の水をその中に流し込んでしまったので、しばらくすると、大地の上には一滴の水もなくなってしまった。人々は大変困って、あちらこちらに水を探しに出掛けた。鴉(その頃は鴉はまだ雪のように白い羽根をしていた)も、その間に交じって水を探していたが、草原に沢山のばったが飛び回っているのを見つけると、大きな声を立てて、それを追っかけ始めた。人々はその声を聞くと、「それ、水が見つかったぞ」と言って、みんな鴉の側に駆け寄って来たが、ばったを追い回している鴉を見ると、たいへんに腹を立てて、いきなりその体を摑んで、力いっぱいに黒い土の上に押し転がした。それ以来鴉の羽根は今日のように真っ黒になった。尾長狼は、「今後は、こんな馬鹿騒ぎをしないようにしなくてはならぬ」と言って、一つの掟をこしらえた。楚の掟は「大きな声を立てて、人々に水が見つかったと思わせた者は、本当に水のある所にみんなを連れて行くかそうでなければ、したたか殴られなくてはならない」というのであった。ある日、亀が川床を歩き廻って、水を探していると、からからになった泥地の割目に落ち込んだ。亀は驚き慌てて、大きな声を立てた。人々は「それ、水が見つかったらしいぞ」と叫んで、川床に駆けつけたが、水は見つからないで、亀が大騒ぎをしているだけだった。それを見ると、尾長狼は、割目の間から亀を引きずり出して、したたか殴りつけた。あまり強く殴ったので、亀の甲にひびがはいって、今日のようになった。こうして、みんなが一生懸命になって水を探しているうちに、一人の男が、あるところで水を撥ねる音を聞いた。「おや、あれは水を跳ね飛ばす音に違いない」と男は思い、大急ぎで音のする方に駆けて行くと、大きな穴に水がなみなみとたたえられていて、その中で、一羽の梟が楽しそうに遊びまわっていた。男は、息せき切って、みんなのいる所に引き返してきた。そして梟が水を独り占めにしているということを話すと、みんなはすぐに会議を開いて、その水を手に入れる方法を相談することにしたが、どうもうまい考えが出ないで困っていると、一匹の蚤が、出し抜けに、「私に任せておくれ。うまくやって見せるから」と言い出した。「じゃあ頼むよ。しくじらないようにしておくれ」とみんなが言った。蚤は梟の家にやって来て、梟のお祖母さんが水を満たした大きな瓶の前に立って、今にも水を浴びようとしていた。蚤はお祖母さんの脛に這いあがってひどく咬んだ。「おお痛い」お祖母さんはこう叫んで、激しく足を動かした。そのはずみに瓶をひっくり返したので、水は四方に流れ出した。こうして人々は、二t日水が自由に手に入るようになったが、梟は水が勢いよく瓶の中から迸り出るのに驚いて、大きく目を見開いたので、今日でも梟の目は、あんなにまんまるくしているのである。

解説:双子の乙女は酋長を求めて出掛けたが、梟に騙された。梟は酋長の下僕のようなものだったが、乙女を失った恨みに大地の水をすべて穴の中に隠した。鴉は白から黒になり、亀の甲羅はひびが入った。そして、どこかわからないがある男が水の音を聞きつけ梟が水を独り占めにしていると分かる。梟のお祖母さんの持っていた水瓶には大地の水がほとんどすべて入っていたようだ。これは下の水門のことだろうか。オーストラリア10の神話にも似たような話がある。また、オーストラリア32でも梟が原因で月が怒り洪水が起こると言う話がある。これと関連して北アメリカ8の話も参照。聖書関連では、ノアの竈、下の水門、深淵の穴、上の水門。

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魔力を授かった猟師

あるとき猟師たちが、一か月に亘る長い狩に出掛けた。彼らは、みんなお嫁さんを連れて行くことにした。猟師たちは、毎日たくさんの獲物を手に入れ、喜んでいた。ただそのうちの一人だけが、朝早くから日が暮れるまで狩をしても、獲物がなかった。仲間の者は、みんな彼のことを馬鹿にしいろんなことを言って嘲っていた。不幸な男は、ある朝、みんなに先立って狩に出掛けた。そして、あちこちと歩き廻っていると、昼頃になって、彼の名を呼ぶ声がした。見ると、遥か向こうの方に、一人の男が立っていた。不幸な狩人は、その男の側に歩み寄って、「何か用があるのですか」と尋ねた。男は「水のあるところを知りたい」と言った。狩人は「水なら、ここからあまり遠くないところにあります」と言った。見知らぬ男は「では、そこに連れて行っておくれ」と言った。狩人が男を連れて、水のあるところに来ると、男は、「着物を脱ぐがいい」と言った。狩人が不審に思いながら着物を脱ぐと、今度は、「私の背に乗っかるがいい」と言った。狩人はますます変だと思ったが、とにかく見知らぬ男の背に乗っかることにした。すると男は「目を閉じてくれ、私がいいと言うまでは決して開いてはいけない」と言った。狩人はすぐに目を閉じた。見知らぬ男は、狩人を背負って歩き出したが、暫くすると、「もういいよ、眼を開けて」と言った。目を開いた狩人はの前には、あらゆる動物の頭がずらりと並んでいた。狩人は驚き怪しんで、見知らぬ男の顔を眺めた。男は笑いながら「どうだね、いろんな動物がいるだろう。あれは、みんな私が射止めたんだ。私は、お前に力を分けてやろうと思って、ここまで連れて来たんだ。お前が殺したいと思う動物の頭を指してみるがいい」と言った。狩人は、鹿の頭と熊の頭とを指した。すると見知らぬ男は、「鹿と熊とを殺したいんだね。よし、その力を授けてやることにしよう。だが、どんなことがあっても、どこで、どうして力を授かったかということを他人に漏らしてはいけないよ」と男が言った。狩人は不思議な力を授かったお礼を言った後で、「あなたは誰ですか」と尋ねた。「みんなは、私のことを鰐と呼んでいる。そしてここは水の中だよ。さあ目をつぶるがいい。陸の上に連れて行ってやるから」と男が言った。狩人が、男の背に乗っかって目を閉じると、男はすぐに歩きだした。暫くして「もういいよ。目を開けて。」と言われて、狩人が目を開いてみると、いつの間にか水を離れ陸に着いていた。鰐男と別れた狩人は、すぐに狩に出かけた。すると、四匹の大鹿に出会ったので、矢継ぎ早に切って放つと、大鹿はみんなバタバタと倒れた。「なるほど、不思議な力が授かった。こうなればしめたもの、もう決して腹をすかしているには及ばない。」狩人は独り言を言って、急いで仲間たちがキャンプをこしらえている所に帰って来た。見ると、彼のお嫁さんは食べ物がなくて、泣き出しそうな顔をしていた。狩人は威勢のいい声で、「もうそんな情けない顔をしなくてもよくなったよ。馬だ、馬。お前も私の後について来るがいい」と叫んだ。そして二匹の馬を引き出して、変な顔をしているお嫁さんを誘って、鹿を殺したところにやってきた。そして四匹の大鹿を馬の背に括りつけてキャンプに帰って来ると、仲間の狩人たちは目を丸くして「どうしたんだろう、あの男はいつの間にあんなに猟が巧くなったのだろう。」とささやき合った。

解説:北アメリカの神話には、何者かが人に力を分け与えるという話が多くみられる。ここでは『鰐』である。ここで鰐が出てくるのは少し覚えがある気がする。それはプタハ又はメフヤエル、そして豚の神に通ずるものである。エジプトの神話でよく鰐が登場する、または蝋で作られた鰐が出てくるが、これはカイン人とミツライム(エジプト)人の世界を跨ぐところにおいて、その草が生えているかのようだ。また、因幡の白兎のように鰐の背を渡って、島にたどり着くと言うのもここに秘密がありそうだ。それは、竜宮城への道かもしれない。この神話では水の中でその秘密が知らされている。カイン人とエジプト人の間に北アメリカがあると言うことも考えられる。そして、それは聖書にある第三の日生え出でた草が太陽と月を産むことになった、その草も北アメリカにあるのかもしれない。それからクパーラの草との関係があるかどうか。

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赤豹を娶った少年

あるところに一人の少年がいた。この少年は、口癖のように、「私は赤豹だよ」と言っていた。人々はそれを本当だとは思わなかったが、それでも少年のことを『赤豹』と呼んでいた。『赤豹』が大きくなって、一人前の男となると、非常に優れた猟師となった。『赤豹』に一人の兄がいた。兄は『赤豹』がいつもたくさんの獲物を手に入れて帰ってくるのを不思議に思って、ある日その後をつけて行った。森を抜けて崖の所に来ると、『赤豹』の姿が、かき消すように見えなくなった。兄は、変だと思って、あちらこちら探してみると、一つの洞穴が目に付いた。何気なくその中をのぞいてみると、『赤豹』が一匹の女豹と楽しそうに話をしていた。兄はすぐに家に帰って、みんなにそのことを話した。
それから暫くすると、『赤豹』の住んでいる村の人々が、他の村の者と戦争をすることになった。『赤豹』の兄は戦争に出かける前に、何か不思議な力を授かろうと思って、あちらこちらと歩き廻っていると、響尾蛇の皮と赤豹の尻尾とを見つけた。『赤豹』の兄は大変喜んで「いい物が見つかった。これを身に付けていると、きっと不思議な力が出るに違いない」といって、家に持って帰った。しかし、どうしたわけか、戦争は取りやめになった。こうなると『赤豹』の兄は拾ってきた物を、元の所に返さなければならない。ある目的のために、動物から物を授かった場合に、それを使わないで済ます時には、必ず返してやると言うのが、昔からの習慣で、もしそれを怠るときっと災いが起こるのであった。ところが、『赤豹』の兄は、響尾蛇の皮と赤豹の尻尾とをしまい込んで、澄ましていた。すると、ある日『赤豹』が朝早く家を出たまま、いつまでも帰って来なかった。兄が心配して、探し回っていると、とある森の中に、『赤豹』が気を失って倒れていた。見ると、頭の皮がすっかり剥ぎ取られていた。兄は大変驚いて、『赤豹』を家に担ぎ込んで医巫を招いた。医巫は、つくづくと『赤豹』の容態を見ていたが、やがて、『赤豹』の兄に向って、「お前さんは、戦争に出る前に不思議な力を授かるように動物に祈って、何かもらい受けたのではないか」と尋ねた。『赤豹』の兄は「ええそうですよ、響尾蛇の皮と赤豹の尻尾とをもらい受けた」と答えた。医巫は「でも、戦争をしないで済んだのだから、すぐにそれを返したんだろうね」と尋ねた。『赤豹』の兄は、面目なさそうな顔をして、「いや、それがまだ返さないでいるのです」と答えた。「そんなことをしたのがいけなかった。お前の弟が、こんなひどい目になったのは、全くそのせいだよ。一刻も早く元の所に返してくるがいい」と医巫が厳かな声で言った。『赤豹』の兄は恐れ入って、すぐに響尾蛇の皮と赤豹の尻尾とを、拾ったところに返した。それからみんなで『赤豹』を入江に連れて行って、体中を水で洗い清めると、『赤豹』はやっと正気づいた。しかし愚かな男になってしまった。

解説:北アメリカの神話では動物が人物のように書かれているが、これは動物信仰の表れかもしれない。そして、動物を通じて不思議な力を得ていると言うことだろうか。これは、エジプトの話を知覚していると言うことではないだろうか。そして、それに対してオーストラリアでは鳥を信仰?又は、本当に鳥が人間になった?のだろうが、この二者の間で、星に関する問題がいくつかあるのであろう。それは七曜星を中心とした問題かもしれない。また、地理的に近い事から、スラブで言われるようなオーロラの女神というものの存在も無視できないかもしれない。オーストラリア、北アメリカの鍵はスラブ、又はギリシャにあるかもしれない。また、北アメリカの神話では、水が重要なものとされているように感じる。これはキリスト教文献でよくある通り、動物信仰や動物の肉なる身体によって汚れた魂を清めるために利用されたと言うことだろう。そうであれば、アメリカが容易にキリスト教を受け入れた理由も理解できる気がする。

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犬の舌はなぜ長いのか

古い昔の頃には、犬は自分の知っていることをなんでも主人に話していた。その頃『流水』という優れた狩人がいた。獣類を狩り立てるのに、犬が入用だとは思っていたが、むやみに自分の知っていることをしゃべられては、うるさくて堪らないと考えていたので、わざと犬を飼っていなかった。あるとき、『流水』は、四匹の子犬を見つけた。彼はそのうちの一匹を拾い上げて、家に連れて帰った。そして毎日のように、「お前を育ててやるつもりだが、けっしておしゃべりをしてくれるな。口数の犬は大嫌いだからね」といって聞かせていた。犬が大きくなると、『流水』は狩に連れて行くようになった。ところが、獲物が取れる度に、犬はそっと村に駆け戻って、そのことをみんなに話して、それからまた主人の側にやって来て、今まで一生懸命に獣類を追っかけていたような顔をしているのであった。『流水』はすぐにそれを悟って、ひどく犬を殴りつけたが、殴られた当座は神妙にしていても、二、三日経つと、また主人の目をかすめて、村の人たちにおしゃべりをするのであった。ある日、『流水』はお母さんに、「食べ物をたくさん用意してください。山狩りに出かけて、五、六週間帰らないつもりですから」と言った。そして食物の用意が出来上がると、数頭の馬にそれを積んで、犬を連れて家を出た。三日ほど歩き続けると、大きな山の麓に着いた。『流水』はそこに小屋をこしらえて、毎日狩に出掛けることにした。そして五、六週間すると、たくさんの獲物が手に入ったので、それを馬に積み上げて家に帰ることになった。と、もう一日で村に帰り着くという日になって、犬の姿が見えなくなった。「おかしい、もしかすると、あの小屋に引き返したんではないか」と『流水』は思って、わざわざ小屋の所まで探しに行ってみました。しかし、そこにも犬の姿が見つからないので、とうとうあきらめて、村に帰って来た。すると、いなくなったと思った犬がちゃんとそこにいたのだった。そして彼が沢山の獲物を手に入れたという噂が村中に拡がっていた。『流水』は大変腹を立てて、いきなり犬の首をひっつかんだ。そして、「まだおしゃべりを止めないんだな。憎い奴だ。こうしてくれる」と言いながら、犬の口を力任せに押し開いて、舌を摑んでぐっと引いた。それ以来、犬はあんなに口が大きくて、あんなに舌が長くなった。

解説:犬に関する神話、オーストラリアや、メキシコにも犬についてはよく言われる。またシベリアにもある。太平洋の神話自体、犬が鍵となることが多いのだろうか。

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鷹の脚

ある所に一羽の鷹が住んでいた。狩が下手で、家の者を養うだけの獲物を手に入れることができないので、いつも他の動物から小さい鼠などを貰って、それでやっと一家を支えていた。ある日、この鷹が鷲に出会った。鷹は、さも偉そうな顔をして、「鷲さん、いい時に出会った。私は大きな羚羊を見つけたよ。どうだね、私に手を貸して殺してくれないかね」と言った。鷲は「肉を半分くれたら、加勢をしてもいいね」と答えた。鷹は「もちろん獲物は山分けだよ。じゃあ明日の朝一緒にでかけよう」と言って家に帰った。そして家族の者に、「今日羚羊を見つけて、頭を射抜いてやったが、なかなか図太い奴で、そのまま逃げだしてしまった。明日になったら、きっとやっつけて帰るよ」とありもしないことを、無暗に自慢した。夜が明けると、鷹は鷲と一緒になって羚羊を探して回った。半日ばかり歩き廻っているうちに、一匹の羚羊が見つかった。と鷲がすぐに躍りかかって、それを殺した。そして、「約束だから、半分だけ肉を貰うよ」鷲がこう言って、羚羊の肉を半分だけ切り取ってもって行った。鷹は、残りの半分の肉を担いで、大威張りで家に帰って来た。そして家の者に向かって、「どうだね、素晴らしい獲物だろう。よく見ておくれ」と自慢した。家の者は、「だって羚羊の肉としては、大変少ないじゃありませんか」と言った。鷹はぬからない顔をして「それには訳があるよ。途中で一人の男に逢うと、その男が、わつぃはまだ羚羊の肉を食べたことがありませんといって、ひどく欲しそうな様子をするだろう。あまり可哀想だから、肉を半分分けてやったんだよ。するとその男の奴、大変嬉しがって、きっとお礼にあがりますなんて言ったよ」と嘘をついた。それから暫くたつと、一人の友達が鷹の家に訪ねてきた。この友達は鷹が急に狩がうまくなったという噂を聞き込んで、それを確かめにやってきたのであった。ところが、鷹の家では、もうすっかり羚羊の肉を食べてしまっていたので、鷹は友達にご馳走するために、狩に出かけなくてはならなかった。鷹は自分の腕前を見せねばならないと思って、血眼になってあちらこちらを駆け回ったが、もともと狩が下手なので、どうしても程よい獲物が手に入らなかった。仕方がないので、小さい鼠を一匹持って帰って、それを友達に食べさせようとしたが、友達は嘲るように高笑いをして、「こんなものが食えるか。お前さんは近頃大した腕前になって、つい四、五日前にも大きな羚羊を手に入れたというじゃないか。せっかくこうして訪ねて来たんだから、その腕前を見せてもらいたいね」と言った。仕方がないので、鷹は弓矢を手にして、また狩に出掛けた。しかし、やはり獲物が少しもなかったので、すっかり悄(しお)れ返って、「困ったな。空手で帰って歯、恥ずかしくて、友達に顔向けが出来ない。どうしたらいいんだろう」と長い間考え込んでいたが、やがて、「仕方がない、自分の脚の肉を切りとってご馳走するほかはない」と言って、双の脚の肉を削り取った。だから鷹は今日でも、あんなに痩せこけた脚をしているのだ。

解説:オーストラリア33にも似た神話がある。そこではほうろく鴫であり女にせがまれて自分の足を食べさせたというものだ。ここでは、鷹が嘘をつくことから始まっている。また、嘘の伝達の仕方が表されているように思う。

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水牛と熊の力比べ

あるとき、水牛と熊とが出会って、自分たちが、神様から力を授かったときの様子を話し合った。
「昔々私は人間だったのだ。そして他の人間たちと一緒になって、歩き回っていたのだ。人間たちは、行く先々で小屋をこしらえたのだが、私はいつも山か森の中に子やをこしらえることにしていた。何しろ、私や、私の家族どもは、樹に登ったり岩の間で遊んだりすることが好きだったから。ところで、ある晩、私が夢を見たのだ。夢の中で、私は今のような姿をしていたのだ。鋭い爪や歯が生えて、いろんなことができる力が備わっていたんだ。ところが、一人の男が私を追い回して、しきりに矢を射かけるではないか。私は、あちこちと逃げ回りながら、『あの男は自分を殺して食べ物にしようと思っているんだな』と考えて、覚えずぞっとした。途端に夢が覚めて見ると、私の体は、すっかり熊になっていたのだ。仕方がないから、人間どもの仲間から抜け出して、山や森の中に住むことになったのだ。」
と話した。すると今度は水牛が、
「そういえば、私ももとは人間だったのだ。私たちがこの世界に現れた始めには、人間とすっかり同じ暮らし方をしていたんだ。私たちの酋長は水牛と言う名だったので、その手下の私たちは、水牛族と呼ばれていたのだ。ところがあるとき、酋長の水牛が出し抜けに見えなくなったのだ。どうなったか、はっきりしたことはわからないが、なんでも神様に連れられて、他の世界に行ったそうで、私たちも、いつかはその世界に入って、酋長に会うことができるというのだった。私は、どうして水牛族が今のような姿になったか、それもよくわからないが、なんでも神様の思召しで、頭に角が生えて、四脚で歩くようになって、人間のために、食べ物として殺されねばならないと言うことになったそうだ。」
と話した。
「では、お前さんには、大した力が具わっているだろう。お前さんが怒ったり、相手を殺そうと思ったりしたときには、どんなことをするのか、一つやって見せておくれ」と熊が言った。水牛は「お安い御用だ」と言いながら、鋭い角で大地を突き刺して、激しく土を跳ね飛ばし始めた。熊は地面に座り込んで、じっとその様子を眺めていたが、出し抜けに仰向けにひっくり返ってしまった。水牛は熊の側に歩み寄って、「これが私の力だよ。さあ、今度はお前さんの力を見せてもらおう」と言った。熊は「お安い御用だ」と言いながら、立ち上がって、静かに一本の小さな樹の側に歩み寄ったかと思うと、それを咥えて、鋭い歯で咬み切ってしまった。水牛は地面に座り込んで、じっとその様子を眺めていたが、出し抜けに仰向けにひっくりかえってしまった。熊は水牛の側に歩み寄って、「私が怒ったときには、こんな風にするんだよ」と言った。そして牛牛と熊とは別れて、銘々自分の家に帰って行った。

解説:人間と動物の境界が本来は曖昧であるのだろうか。ここでは熊と水牛であるが両者は力を見せあっただけで、仲は悪くなかったようだ。また、ヨベル書ではエサウが羊と狼の仲が良かったなら、とヤコブとの間を嘆いている。ある動物とある動物が仲が悪かったために人間の問題がうまくいかないと言うこともあるのだろう。

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兎の知恵

あるところに、一匹の兎が住んでいた。お祖母さんが自分を置き去りにして、どこかへ行ってしまったので、一人であちこちを歩き廻って、広い世間を見ようと考えた。兎は一人であちらこちらを歩き廻っていると、豹の家に来た。家の中には誰もいないので、入り込んで、隅から隅まで探していると、豹の歯が見つかった。兎はそれを盗んで豹の家から駆けだした。兎は「いいものが見つかった。みんなが豹を怖がるのは、この歯のためだからな。早く家に帰って、みんなに見せびらかしてやろう」と思って、自分の家に引き返してくると、いつの間にかお祖母さんも帰っていました。兎はお祖母さんに豹の歯を見せて、「今に豹が歯を探しに、ここにやってくるだろう。私たちはどうにかしてあいつを騙さなくてはならない。でないと、殺されてしまいます」と言った。そして豹の歯を握ったまま、じっと考え込んでいたが、やがてお祖母さんに向かって、「戸の外に火を燃やして、水の入った大きな鍋をその上に載せて、それから石を五つ六つ入れて煮てください。そうすると、豹がやって来て、きっと、『その石をどうするつもりだね』と尋ねるでしょう。そうしたら、「なに、私の家にお客があるので、そのお客に食べさせるものを煮ているのですよ』と答えて下さい。私も家の中で友達が来ているような話をするから。すると、豹がまた、『お客って、誰だね』と訊くに違いありませんから、そのときには、『あらゆる獣類のお頭ですよ』と答えてください」と言った。お祖母さんは、すぐに戸の外に火を燃やして、その上に鍋をかけて石を煮始めた。暫くすると、大きな物音がして、豹が藪の中から飛び出してきた。そして、つかつかとお祖母さんの側に歩み寄って、「兎公は家にいるのかね」と尋ねた。お祖母さんは「ええ、いますよ。でもお友達が来ていますよ」と答えた。豹は、ふと鍋の中の石に目がついて、「石なんか煮てどうするつもりかね」と尋ねた。お祖母さんは「お客さんに食べさせるのですよ」とお祖母さんが答えた。豹はびっくりして、「なに、お客さんに食べさせる。意志が食えるような奴は、よほど強い奴に違いないが、いったいお客とは誰だね」と尋ねた。お祖母さんは「あらゆる獣類のお頭ですよ。あなたも知っているでしょう」とお祖母さんが言った。豹は「知っているとも」と言いながら、じりじりと後退りを始めた。と思うと、くるりと振り向いて、一散に逃げ出してしまった。

解説:兎の話は比較的多くの神話で言われている。ここで気になるのは火で水を熱してその中に石を入れていると言うことであるが、温泉と少しかかるところがありそうだ。と言うのもメトシャエルと兎の関係がありそうな気がするからだ。また、豹は悪かったのか、兎が悪かったのかという点も少し気にしておきたい。

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兎と山猫

あるとき、山猫が餌を探していると、背の高い草の中で、一匹の兎に出会った。山猫はたちまち兎にとびかかって、地面に抑えつけた。そして、今にも食い殺そうとすると、兎が下から、「お前さんは七面鳥は好きですか」と尋ねた。山猫は「大好きだよ。丁度探し回っていたところだよ」と答えた。兎は「私は、七面鳥のたくさんいるところを知っていますよ。実を言うと、お前さんに見つかったときは丁度あいつらを襲おうとしていたところでしたよ。今ここでお前さんが、私を殺してしまったら、七面鳥は手に入りませんよ。それよりか、私を案内者として、まず七面鳥を捕らえて、それから私を気の向いた通りにした方がいいでしょう」と兎が言った。それを聞くと、山猫は、「なるほど、お前の言う通りだ」と言って、兎を引き起こしてくれた。兎は「さあ、私が七面鳥の踊り歌を歌って、奴らをおびき寄せるから、お前さんは、地面に倒れて、死んだふりをしていてください。七面鳥がやって来たら、『山猫の奴をやっつけたよ。一つお祝いの踊りを踊ってください』といって、奴らを躍らせます。奴らは目をつぶって踊りますから、いつでも躍りかかったらいいでしょう」と言って、七面鳥の踊り歌を歌い始めると、やがてたくさんの七面鳥が集まって来た。兎は彼らに向かって、「山猫のやつをやっつけたよ。一つお祝いの踊りを踊ってください」と言った。七面鳥どもは、地面に倒れている山猫を見ると、大変に喜んで、すぐに目をつぶって、祝いの踊りを踊り始めた。死んだふりをしていた山猫は、いきなり自分の側に踊っていた一羽の七面鳥にとびかかった。と思うと、兎はたちまち身を躍らせて、草の間に潜り込んだまま、行方を眩ませてしまった。

解説:七面鳥はなぜ山猫が死んだら喜ぶのかが気になる。

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雨の起源

世界の初めに、大勢の者が集まって、いろんなことを取り決めるための相談会を開いた。その中に尾長狼という男がいた。何事についても、一口言わないと気が済まない男だったため、すぐに立ち上がって、「雨はどんな形のものにしたらいいだろう」と言い出した。すると一人の男が、「鉛の玉の形で降らせることにしよう。そうすると大変危ないから、雨の降るときには、みんな家の中に引っ込んでいるんだね」と言った。尾長狼はそれに反対して、「鉛の雨が降ってはかなわないよ。私たちは、そうそう家の中に引っ込んでばかりいられないからね。ことに私などは、家族の食べ物として、よく大きな鹿をもって帰るんだが、そんな時に雨が降り出したら、ひとたまりもなく殺されてしまうじゃないか。私は、是非水玉の形で雨を降らせたいね。そうすると、ひどく濡れることもあろうが、それだって、すぐに乾いてしまうだろうし、それに時々は濡れた方が、身体にいいからね」と言った。大勢の人は、尾長狼の言うことに賛成して、水玉の形で雨を降らせることにした。

解説:尾長狼が雨の形を決めたという。エノク書では雨や雪の天使がいると書かれているが、尾長狼とそれらの天使に関係があるかもしれない。

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尾長狼と熊

あるとき尾長狼が度に出掛けた。そして山地にやってきますと、山の中から煙が立ち上っているのに目が付いた。「誰か火を燃やしているんだな。いったい誰の仕業だろう」尾長狼はこういって、煙を目当てにして進んでいきますと、大きな熊が火の側に座り込んでいた。熊は尾長狼の姿を見ると、「お前さんは、尾長狼というものじゃないかね。もしそうだったら、私はお前さんを殺さなくちゃならない。尾長狼と言う男は悪い事ばかりしてるという評判だからね」と言った。「いや、私は尾長狼というものじゃない。偉い医巫の息子ですよ」と尾長狼が答えた。しかし熊はそれを信じないで、どうしても殺してしまうといいはった。尾長狼は困ったような顔をして、「どうしても殺すというなら、少し待ってください。死ぬ前に父に会って、言い残しておくことがありますから」と言った。熊は「お前のお父さんとは誰かね」と熊が尋ねた。尾長狼は「今にわかる。暫く待っていてください」と尾長狼が答えた。しばらくすると、山の頂から太陽が現れて来た。それをみると、尾長狼は嬉しそうな顔をして、「お父さんがやってきた。熊さん、もういいんですよ。殺すなりなんなり、勝手にしておくれ」と言った。熊は誰がやって来たのかと思って、後ろを振り向くと、太陽がまぶしいように強く照り輝いていた。熊はびっくりして、「お前さんのお父さんと言うのは、お天道様のことだったのか」と言ったまま、もじもじしていた。尾長狼は図に乗って、熊の側に歩み寄って、肘でその体を突きながら、「さあ、父が見ている所で殺しておくれ」と急き立てた。しかし、熊は「お天道様の子を殺したら、どんなことになるかも知れない」と考えて、急に尾長狼の機嫌を取って、いろんな食べ物を与えた。尾長狼は、さも得意そうに、「それでは、これでお別れしますよ。気が向いたら、いつでも私の家に訪ねてきておくれ」と言い捨てて行ってしまった。それから暫くたつと、尾長狼がお天道様の息子だということは、真っ赤な嘘だと分かった。熊はたいへん腹を立てて、「ひどい奴だ。うまく俺を騙した。今度こそ本当に叩き殺してやるぞ」と勢い込んで尾長狼の家に尋ねて行ったが、家の中には誰もいなかった。

解説:北アメリカの神話は聖書のカインの移り住んだ「ノドの地」を思わせる。獣はアダムとイブの生涯でも現れており、北アメリカの獣類を思わせる。ヨブの遺訓でもその妻シティドスの死に際して動物が泣いている。北欧神話では太陽を追う狼スコールと月を追う狼ハティがいるが、この尾長狼はスコールだろうか。北アメリカの神話とオーストラリアの神話、それから北欧神話の関連については目を見張るものがある。

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尾長狼の失策

あるとき尾長狼が、あちらこちらと歩き廻っていると、向うから誰かやって来ているのに目が付いた。尾長狼は臆病者でしたので、急に逃げ出した。すると後ろの方で声がして、「おい、そんなに怖がらなくてもいいよ。敵ではないよ。私だよ。友達の豹だよ」と言った。その声を聞くと、尾長狼は引き返してきて、「おお、豹さんか、いいところで出会った。私は食べ物がなくて、お腹がぺこぺこになっているところだよ」と言った。豹は「じゃあ、私について来るがいい。すぐに食べ物を探し出してやるから」と言った。尾長狼は、豹のあとについて歩き出した。暫くすると湖の端に出た。豹は尾長狼にむかって、「毎日昼頃になると、馬の群がこの湖に水を飲みにやってくるんだよ。そこで私は、木陰に隠れていて、不意に飛び出しては好きな馬を殺すんだよ」と話した。やがて、遥か向こうに砂埃が立って、雷のような物音が聞こえ始めた。豹は「それ、もうやってきた」と言って、湖の端に生えていた一本の樹によじ登った。馬の群れは勢いよく湖の端に駆け下って来た。すると、樹の上に隠れていた豹は、一匹の仔馬に躍りかかって、見る間にそれを殺してしまった。豹と尾長狼とは、舌鼓を鳴らして、仔馬の肉を食べ始めたが、しばらくすると豹が、「どうだね、もう腹がいっぱいになったんだろう。私はこれでお別れするよ」と言った。尾長狼は慌てたような口調で、「ああ、暫く待っておくれ。今日だけは旨い御馳走にありついたが、お前さんと別れてしまったら、また飢えに苦しまなくてはならない。後生だから、馬を殺す手立てを教えておいておくれ」と頼んだ。豹は「よし教えてやろう。私がした通りに木に登って隠れているんだ。そして馬の群がやってきたら、仔馬を選んで飛びつくんだよ。決して大きな馬にかかってはいけないよ。そんなことをすると、ひどい目に遭うからね。」と言って立ち去った。尾長狼は大変喜んで、あくる日になるのを待ちかねていた。明くる日の昼頃になると、尾長狼は、とある樹によじ登って耳を澄ましていた。やがて遥か向こうに砂煙が立って、雷のような物音が聞こえ始めたかと思うと、馬の群が湖目掛けてかけてきた。樹の上からそれを見下ろしていた尾長狼は、「やあ、いろんな馬が通るぞ。豹の奴、仔馬に飛びつくがいい、親馬では駄目だと言ったが、俺はそんな弱虫でもないつもりだ。同じ殺すなら、一番大きな馬を殺して、豹の奴を驚かしてやろう」と考えた。そして、小さい馬は皆見逃して、一番大きな馬が樹の下を通りかかったときに、いきなりその背に飛びついた。しかし、馬は体を振って尾長狼を大地に投げ落としたかと思うと、後足を上げて、その顎をひどく蹴りつけたまま、行ってしまった。顎を砕かれた尾長狼は、気が遠くなって、地面に倒れていた。すると、そこへ豹がのこのことやって来て、「やあ、どうしたんだい。大きな口をして何を笑っているのかね。そんなにげんきだったら、五歳くらいの馬をやっつけるのは何でもないだろうよ」と嘲った。尾長狼は長い間大地に倒れていた。そのうちにやっと体を動かすことができるようになったので、そろそろと起き上がって、小さい流れに沿って歩き出した。すると、向こうの方に一本の柿の樹があって、そのうえで子守鼠がしきりに柿の実を食べていた。尾長狼は、樹の下に行って、「おい、私にも柿の実を投げておくれ」と声をかけた。子守鼠はあざ笑って「虫のいいことを言ってはいけませんよ。欲しけりゃ、自分でちぎることですよ」と言っていたが、暫くすると、「それ、欲しけりゃ上げますよ」と言って、柿の種を投げつけた。尾長狼は火のように怒りだして、「降りてこい、ひどい目に遇わせてやるから」と怒鳴った。子守鼠はからからと笑って、「下りて来いというなら、降りてきてあげますよ」と言いながら、下の方の枝まで、降りて来て、尻尾を枝に巻き付けながら、だらりと体を垂れた。しかし、尾長狼がとびかかろうとすると、ひらりと身をかわして、また上の方へ行ってしまうのであった。こうして、尾長狼をからかっているうちに、尻尾を巻き付けていた枝がぽきりと折れて、子守鼠は大地に転げ落ちた。尾長狼はすかさず取って抑えて、したたか殴りつけた。子守鼠は痛いとも思わなかったが、わざとぐたりとなった風をして見せた。それを見ると尾長狼は、「ざまを見ろ、人を馬鹿にした報いだ」と言って、歩き出した。そして暫くしてから、「もうあいつも死んでいるだろう」と思って、後ろを振り向くと、いつの間にか、子守鼠はまた柿の樹によじ登って、こちらを向いて、しきりに笑っていた。/p>

解説:尾長狼は馬の肉から柿の実に狙いを変えたのだろうか。もし、あきらめずに馬の肉を狙い続けていたらどうなっただろうか。豹に食べ物を貰いまたその取り方を学んだが、豹を驚かそうと考えたこととその失敗、子守鼠に柿の実をねだり断られ、人を馬鹿にしたことの報いを渡そうとしたこととその失敗は、元をただすと尾長狼に原因があると見受けられるが、もし尾長狼が徹底的にやっていたならば、成功したようにも見える。

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ありもせぬ敵

あるとき、尾長狼が水牛狩に出かけた。森の中を通り抜けていると、一羽の七面鳥が、高い樹の頂に登っているのを見つけた。尾長狼は下から声をかけて、「早く降りてこい。でないと、私が木に登って行くぞ。他の木に飛び移るようなことをすると、その木を引き折って、お前を殺してしまうよ。野原の方に飛んで行くのが、一番いいだろう。私は野原では、何一つ殺す力がないのだからな」と言った。七面鳥は、尾長狼の言ったことを本当だと思い込んで、広野の方に飛んで行った。尾長狼はしめたと思って、一散にその後をつけて駆け出した。そして七面鳥が草原に降り立ったところを見すまして、いきなりとびかかってかみ殺した。尾長狼は、七面鳥を食べながら、「誰か見ていやしないかしら」と思って、あたりを見回した。すると、誰かが自分の後ろに突っ立っていて、自分を殴ろうとする者があるような気がした。尾長狼は、それが何者であるかということを確かめもしないで、一散に駆け出した。そしてときどき立ち止まっては、「ここまでくれば、もう大丈夫だろう」と独り言を言った。しかしそのたびに、何者かがすぐ自分の後ろにやって来ていた。尾長狼は気が狂ったように、駆け続けていた。それでも後ろを振り向きさえすると、誰かがちゃんとそこに突っ立っているのであった。尾長狼は「誰か偉い者が自分を殺そうと思って、後をつけているに違いない。どうかして、鵜安喰逃げ延びなくては命が危ないぞ」と思って、今度はまっすぐ走らないで、左にうねったり、右に曲がったりして駆けてみたが、やはりだめだった。何者ともわからない怪物は、どこまでも後をつけてやって来ていた。そのうちに、尾長狼は石につまずいて、大地にひっくり返った。尾長狼は「もう駄目だ」と思ったので、大きな声を上げt、「命だけは助けて下さい」と叫んだ。しかし、いつまでたっても、飛び掛かって来る者がないので、少し気を落ち着けてよく見ると、自分を追っかけて来ると思ったのは、自分の体にくっついていた一本の七面鳥の羽根であった。

解説:サーミリーについてを思わせるが、これは殺生の仕方に対する不始末を表しているのだろうか。尾長狼は水牛狩りに出かけたが、七面鳥に気を取られ、騙して楽に殺している。北アメリカの神話41では鷹が似たような方法で獲物を得ているが、同様に、簡単に殺生をすることが、相手の物を責任を持って奪うことができず、その物のみが一人でに存在し続けると言うことだろうと思う。サーミリーはその物が人になったりするのだろうか。このような「追うもの」については興味深い一面がある。

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氷に閉ざされた狼

あるとき、尾長狼が河の側を通っていると、魚を背負った男が、川岸を歩いているのを見た。尾長狼は、その男の側に歩み寄って、「お前さんは、どこでその大きな蛇を手に入れたのです」と尋ねた。「私は、ほとんど夜中漁をしていて、やっとこの魚を手に入れたんですが、すっかり疲れてしまって、もう二度とこんなことはしたくないと思っている所です。」と男が答えた。尾長狼は「なに、それは魚なんですが。どんなにしてそんな大きな魚を捕らえたんですか」と尋ねた。男はにやりと笑って、「それはこうですよ。日が暮れてから、河に降りて行って、氷に穴を開けて、穴の中に尻尾を差し込んだまま、私がやって来るまで、じっと座り込んでいるのです」と言った。尾長狼は大変喜んで、火が暮れるのを待って河に降りて行った。そして氷に穴を開けて、穴の中に長い尻尾を差し込んだまま、じっと座っていた。男は、かつて尾長狼に悪戯をされたことがあるので、それを恨みに思って、こんな馬鹿げたことを教えたのだったが、尾長狼はそんなこととは夢にも知らなかったので、いつまでも神妙に氷の上に座り込んでいた。明け方になると、強い寒気のため、尻尾がすっかり凍り付いていた。尾長狼はいつまで待っても、男がやってこなかったので、もう我慢しきれなくなって、立ち上がろうとした。すると、尻尾がぴたりと氷にくっついて、どんなにもがいても離れなかった。尾長狼は驚きあきれて、目を白黒にしていた。すると、そこへ男がやって来て、「やあ、どんな具合です。魚が取れたんですかね」と尋ねた。尾長狼は「なんでも、二、三匹かかったようですよ。重くて、どうしても引き上げることができないんです。お願いですから、加勢をしてください」と答えた。男は、「お安い御用です。でも加勢をしてあげる前に、少しお話したいことがあるんですよ。お前さんはいつぞや私を騙して、ひどい目に遇わせたことを覚えているでしょう。で、私も悪戯をして、五分五分の勝負にしようと思ったんですよ。まあ、ゆっくりそこに座り込んでいたらいいでしょう。そのうちには体中が凍え切って、楽になりますよ」と言った。尾長狼は「それは、お前さんの思い違いですよ。私はお前さんを騙した覚えはありません。それは他の男ですよ。どうか私を助けて下さい。間違いなくお前さんを騙した男をここに引っ張って来てあげますから」と尾長狼が言った。男は「有難う。でも、私を騙した男が他にあるなら、お前さんの手を借りるまでもなく、自分でそいつを探し出して、お前さんにしようと思ったことをそいつにしてやるまでですよ。はい、さようなら」男はこういって、河岸を離れたが、やがて弓矢を手にして引き返して来た。そして、一本の矢を尾長狼の方に差し出して、「どうです、これが見えますか」と言ったかと思うと、戦士たちが敵を殺す前に歌う歌を唱え始めた。歌が終わったかと思うと、矢が飛び出して、尾長狼を殺してしまった。

解説:狼にひどい目にあったと言うのが本当か嘘か。シベリアの神話7では釣り網を忘れた男の息子と娘がさらわれる話があるが、そこには狼と熊が出てくる。北アメリカの神話46では熊が狼に騙される話があるが、関係があるだろうか。また、魚を蛇と勘違いしているあたりも気になるところだが、あまり深入りしすぎるとわからなくなりそうだ。

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尾長狼の火傷

尾長狼はもとは人間でした。しかし狡くて臆病で、折りさえあると人々を欺したり困らせたりしていた。あるとき、彼が、一番仲の良い友達の家を訪ねると、友達は旨そうに白い鵞鳥を食べていた。尾長狼は「やあ、大変なご馳走だね。どこで手に入れた」と尋ねた。友達は「湖に行きさえすれば、毎晩手に入れることができるよ。今夜私と一緒に出掛けないかね」と言った。尾長狼は「よかろう」と答えた。友達は「じゃあ、ひとまず家に帰って、夕方になったら、またやって来ておくれ。そしたら、湖の所に案内して、鵞鳥のいる所や、それの捕え方を教えてやるから」と友達が言った。尾長狼は「なに、捕え方は教わらなくてもいいよ。鵞鳥のいる所さえ分かれば、それで沢山だ」尾長狼は行為って、自分の家に帰って行ったが、夕方になれば、素晴らしい食べ物が手に入ると思うと、嬉しくて堪らなかったので、道々踊り回っていた。尾長狼の姿が見えなくなると、友達は火の中からたくさんの灰を掻き出して、それを湖の端にもっていって、白い鵞鳥の形に盛り上げた。そして日が暮れかかった頃に、灰の下に炭火を埋めて置いた。夜になると、尾長狼がたいへんな上機嫌で友達の家にやって来た。そして、「どうだね、仕度はできたかね。私は体の具合がいいから、一度に二羽くらいひっ捕らえることが出来そうだ」と言うと、友達も「うん、すっかり仕度を済ましたよ。じゃあ、すぐに出掛けることにしよう。」と答えて、家を出た。やがて湖の端に来たが、友達はわざと鵞鳥の形をした灰の塊が目に着かぬような風をしていた。尾長狼はそれを鵞鳥の群と思い込んで、後ろからそっと友達の背を突いて、「おい、向こうに鵞鳥がいるじゃないか。私が最初に見つけたから、一番目の奴は、私の夕飯にするよ」と言った。友達は「いいとも、うまくひっ捕まえるがいい」と答えた。尾長狼はかr打を屈めて、静かに忍び寄った。そしていきなり白いものにつかみかかったが、その下には炭火ががんがん起こっていたので、ひどく火傷をして、とうとう死んでしまった。

解説:白い鵞鳥が気になる。それから友達は誰だろう。

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物真似の失敗(その一)

古い昔には、尾長狼と鴉とは、大変仲の良い友達であった。ある日、尾長狼が狩に出かけ、長い間あちらこちらを駆けまわっていたが、さっぱり獲物がなかったので、がっかりして、とある山の頂に住んでいる鴉の家を訪ねた。鴉は、尾長狼が疲れ切って、悲しそうな顔をして、黙り込んでいるのを見ると、「まあ、そんなにがっかりしなくてもいいじゃないか」と言って一本の弓を空に射放った。そして、それが落ちてくるのを待っていると、やがて大きな音を立てて落ちて来て、鴉の右の腕に突き刺さった。その矢を引き抜くと、たちまち水牛の肉と脂が現れた。鴉はそれを尾長狼に渡して、「さあ、食べるがいい」と言った。尾長狼は舌鼓をならしてそれを食べた。食べ終わると、「どうもありがとう。ぜひ私の家にも訪ねて来ておくれ」と熱心に勧めて帰って行った。尾長狼は家に帰りつくと、弓矢をこしらえて、大切にしまい込んで、鴉の訪ねてkルうのを待っていた。二、三日たつと鴉が訪ねて来た。尾長狼は嬉しそうな顔をして、いろいろと話していたが、やがて、「今日訪ねてくれるとは思わなかったので、あいにく旨い食べ物がないよ。だg、暫く待っていておくれ。どうにかするから」と言って、しまって置いた弓矢を取り出して、空に向けて射放った。暫くすると、矢が落ちてきて、尾長狼の腿に突き刺さった。尾長狼は、あまりの痛さに泣き叫んで、鴉を置き去りにして、どこともなく駆け出した。鴉は、いつまでたっても尾長狼がやって来ないので、そのまま家に帰ってしまった。尾長狼は腿から矢を抜き取って、微塵に叩き折ってしまった。そしてまた狩に出掛けたが、やはり獲物が少しも手に入らないので、がっかりして、友達の山熊の家に訪ねて行った。山熊は、「せっかく来てくれたが、あいにく食べ物がないよ。暫く待っていておくれ」と言いながら、家の外に生えていた柿の樹に、自分の体を激しくぶちつけると、熟しきった実がばらばらと落ちて来た。山熊はにこり笑って、「さあ、いくらでも食べておくれ」と言った。尾長狼は腹いっぱいに柿の実を詰め込んだ後で「いや、どうも有難う。ぜひ私の家にも訪ねて来ておくれ」と言って帰って行った。尾長狼は山熊が訪ねて来た時の用意にと思って、あちらこちらと柿の樹を探し回ったが、実の成っているのは一本も見つからなかった。仕方がないので、実の成っていない柿の樹を伐り倒して、それを自分の家の側に立てて、それから山熊の家に忍び込んで、いくつかの柿の実を盗んで、それを枝に突き刺して置いた。ある日、山熊が狩に出掛けた。そして、尾長狼の住んでいる家の側を通ると、いつぞやの約束を思い出して、立ち寄ることにした。尾長狼は大喜びで山熊を招じ入れたが、暫くすると、「折角訪ねてくれたのに、食べ物がなくてお気の毒だ。待っていておくれ、何かご馳走を探してくるから」と言って、家の外に飛び出した。そして幾度となく柿の樹に体を打ち付けたが、柿の実は落ちてこなかった。尾長狼は気をいらだてて、両手で樹を摑んで、一生懸命に揺り動かしていた。すると出し抜けに樹が倒れて、頭の上に落ちかかった。尾長狼は、頭がぐらぐらして、ほとんど目も見えなくなったのを我慢して、あちらこちらと、食べ物を探し回った。そして、やっと少しばかりの果物を手に入れて、家の中に入って来た。山熊は腫れあがっている尾長狼の頭を見ると、可笑しくて堪らなかったが、吹き出したいのをやっと我慢して、大急ぎで果物を食べてしまって、自分の家に帰って行った。

解説:この神話で、動物たちの中で尾長狼が嫌われていた理由がその悪戯好きという性格ではないことが、垣間見える気がする。それは、トマスの言う封印にあるかもしれない。尾長狼が物真似をするということが、魂の原初的性格を表しているように思う。それは心に写ったものをそのまま繰り返すと言うことだ。そして、おそらくは尾長狼にはその魂の性格が封印されているのではないだろうか。この性格は雪や雨の天使の性格にも関係がある気がする。

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物真似の失敗(その二)

ある朝、尾長狼が食べ物を探し回っていると、一軒の草家の側に出た。「この家には、きっと食べ物があるに違いない。中に入って主人に挨拶挨拶をしたら、少しくらいは食うものを分けてくれるだろう。主人が留守だったら、勝手に取って食うまでだ」尾長狼はこう思って、のこのこと家の中に入って行った。と、一人の男が頭の上に燈(あかり)をつけて、歩き回っていた。尾長狼は驚き怪しんで、「やあ、お前さんの頭には火がついているよ。気をつけないと、火事になるよ」と言った。それを聞くと、男はにこりと笑って、静かな口調で「いや、私は、いつもこうして頭の上に燈をつけているんですよ。世界が始まったときから、こうしているんですが、一度だって火事になったことはありませんよ」と答えた。男は啄木鳥だったのである。男は、尾長狼に食べ物を与えた。尾長狼はそれを食べてしまうと、「どうもご馳走様。暇があったら、是非私の家に訪ねて来てください」と言って、帰って行った。それから暫くたつと、啄木鳥は、いつぞやの約束を思い出して、尾長狼の家を訪ねた。尾長狼は喜んで啄木鳥を家の中に招じ入れた。啄木鳥は、尾長狼の頭の上に大きな藁束が燃えているのを見ると、目を丸くして、「早く藁束を捨てなさい。今に火傷をしますよ」と言った。しかし尾長狼はにこにこ笑って、「なに、火傷なんかしませんよ。いつでもこうしているんです。世界が始まった頃、神様が、夜になったら頭の上に火を燃やすがいい。そうするとみんなが暗闇で困っていても、お前だけには物が見えるからと言ってくださったのです」と言った。しかし、その言葉が終わるか終わらないうちに頭髪に火が付いた。尾長狼は驚き慌てて、泣き声を立てながら、火をもみ消そうとしたが、どうしても消えなかった。尾長狼は死物狂いになって家を飛び出した。そして啄木鳥がいくら待っていても、とうとう帰って来なかった。

解説:啄木鳥には「世界が始まった時から頭の上に燈をつける」という性質があると書いている。啄木鳥についてはオーストラリアの神話では虹を啄木鳥が作ったとあり(37)、また、暁の明星となった鷲鷹を火で焼いたのは啄木鳥であると言う(30)。そして、この章では尾長狼が啄木鳥の真似をして頭に燈をのせると言う。尾長狼の言葉に注目したい。「火傷なんかしません、いつもこうしているんです。世界の始まりに神が夜になったら頭の上に火を燃やすように、そうするとみんなが暗闇で困っていても、お前だけには物が見えるからと言った」とある。啄木鳥は罰にせよ役割にせよ世界の初めから頭に火を燃やしていたと言うのだから、なんらかの神の与件によってそうしているのだろう。しかし、尾長狼はそれを真似したのだと。ここには尾長狼の虚偽が神に罰せられたという事実がありそうだ。しかし、通常尾長狼も神から何か役割を担っているように思う。尾長狼に封印されているのはオーストラリアの神話に現れる人真似鳥のようにも思える。

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盗みの罰

あるとき、尾長狼が食べ物を探し回っていると、鹿に出会った。「どこへ行っているのです」と鹿が尋ねると尾長狼は「狩に出掛けているところだよ」と答えた。鹿は「弓も矢も持たないで、どうして獲物を殺すんです」と尋ねた。尾長狼は「弓矢なんかいらないよ。私の手が掛かりさえすれば、なんでも一ひねりに殺してしまうからね」と尾長狼が答えた。鹿は「でも、手が掛かるほど近くまで、どうして獲物の側に行けるのですか」と尋ねた。尾長狼は「そんなことは何でもない。私は獲物を追い詰めるか、さもなければ、眠らしてしまうことが出来るからね」と尾長狼が言った。鹿は、その言葉を信じないように頭を振って、「じゃあ、私を追っかけてごらんなさい。もしお前さんが私を捕らえることができたら、遠慮なく殺してお食べなさい。私は素敵な食べ物ですよ。人間たちでさえ、私の肉を大変好んでいますからね」と言ったかと思うと、一散に駆けだした。尾長狼は、いい事を聞いたと思って、すぐにその後を追っかけたが、相手の方が足が早くて、間もなく見えなくなってしまった。尾長狼は家に帰ってからも、鹿の言ったことを忘れることが出来なかった。そこで、鹿が眠っているとところを捕らえてやろうと思って、あちらこちらと探し回ったが、どうしても見つからなかった。あまり永い間探し回っていたので、すっかりくたびれて、ぐっすり寝込んでしまった。暫くして目を覚ますと、すぐそばで誰かが歌を歌っていた。尾長狼はびっくりして起き上がったが、あたらいにはそれと思う者も見えなかった。しかし、歌はやはり続いて、はては尾長狼の名まで唱えられていた。尾長狼は、怖くて堪らないので、一散に逃げ出したが、歌声はいつまでも耳の側に聞こえてくるのだった。尾長狼は疲れ切って、立ち止まった。そして苦しそうに喘いでいると、「私は風だ。私は鹿を捕らえる力を尾長狼に授けようと思っている。」という声が聞こえた。尾長狼はやっと安心して、お礼心に、吹く風に向かって、声高く吠えた。そして根気良く鹿を探し回ると、夜になって、とある小屋の側に来た。尾長狼は小屋の中にあった水牛の衣を盗んで、それを身にまとって、河の端に降りてきた。すると、鹿らしいものが寝転んでいたので、忍び寄ってその体を摑んだ。そして、「どうだ、うまく捕らえたぞ」と言ったが、よく見ると、鹿ではなくて、一人の男でした。男は尾長狼に向かって、「おや、お前は私の着物を盗んだな。よし、その罰にひどく使いまわしてやる。私についてこい」と言った。尾長狼は仕方がなく、その男の後について行った。家に着くと、男はその妹と一緒に、尾長狼にいろんな用事を言いつけて、ひどく使い回した。ある日、男が狩に出掛けた。すると、尾長狼は男の妹に向かって怒ったような口調で、「さあ早くお前の着物を着るがいい。私は捕虜としてお前を家に連れ帰るんんだ。そして、私がここで使いまわされたように、お前を使い回すのだ」と言った。乙女はその勢いに恐れて、尾長狼の言う通りにした。尾長狼は乙女を先に歩かせて、自分はその後からついて行った。そして、乙女が途中でぐずぐずしていたり立ち止まったりすると、手にしている長い棒で、容赦なく殴りつけるのであった。狩から帰った男は、妹と尾長狼がいなくなっているのを見ると、すぐにどんなことが留守に起こったかを悟った。「不届きな奴だ。今に見ろ」と言うなり、男は尾長狼のあとを追って駆け出した。彼は、尾長狼に力を授けてやると言った風でした。だからどんなに速い矢よりも一層速く走ることができた。やがて男は、尾長狼と妹との姿を認めた。彼は矢をつがえて、わざと妹の前に落ちるように射放った。妹はそれを見て、「兄さんが助けにいらした。これでやっと助かった」と思って、心の中で大変喜んでいた。尾長狼はそれには気が付かないで、乙女を殴りながら、「もっと早く歩かないか」と叱りつけた。男は尾長狼が妹を殴りつけたのを見ると、ますます腹を立てて、丘の上からまた矢を射放った。尾長狼は矢が飛んで来たのに驚いて、後ろを振り向くと、男の姿が目に付いた。すると、急に棒を取り出して、乙女の側に歩み寄って、優しい声で、「着物の包みを私にお渡しなさい。重いでしょう」と言った。男は、丘の上から駆け降りて来て、尾長狼に向かって、「おい、お前は妹をどこへ連れて行くつもりかね」と詰った。「近所の人たちが、妹さんや私につらく当たるので、もっと親切な人の住んでいる村に引っ越そうと思ったんです」と尾長狼が答えた。男は「嘘をつけ。お前は私の妹を棒で殴りつけていたではないか」と言った。尾長狼は、悪いところを見られたと思って、うつむいたまま黙ってしまった。男は、着物の包みを尾長狼に背負わせて、その上に妹を座らせた。そして弓の弦を尾長狼の口にはめて、その両端を妹の手に握らせながら、「それが手綱だよ。遠慮なくこいつを乗り回すがいい」と言った。尾長狼が、包みと乙女とを背負って、すごすごともと来た道を男の家の方に歩き出すと、男はその傍についていて、絶えず棒で殴りつけた。そして、「私はお前に鹿を捕らえる力を授けてやるつもりだったが、もう取り止めだ。着物を盗んだり、他人の妹を連れ出したりするような悪い奴には、そんな力を授けては、大変だからね」と言った。

解説:キーポイントは「風」と「風の妹」であるが、鹿を狩りそこなったことは果たしてどのような影響を及ぼしたのだろうか。また小屋にたどり着いた尾長狼は風に会いたかったのかもしれない。28章では旋風の神が現れたが、この風は旋風の神から生まれたのだろうか。はたまた、旋風の神自身だろうか。

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水中の影

あるとき、尾長狼が狩に出て、一匹の大きな鹿を殺した。尾長狼はその場でそれを切り分けたが、とても一人では運びきれないと思ったので、とある樹の中に隠して置いて、子供たちを呼びに行った。山猫が、物陰からそれを見ていた。そして、尾長狼の姿が見えなくなると、すぐに鹿の肉を盗み出して、河端の樹に登ってしまった。しばらくすると、尾長狼がはしゃぎ切った子供たちを連れて、引き返して来た。しかし、樹の中の肉はすっかりなくなってしまった。子供たちは怒りだして、「ひどいわ、お母さんは私たちを欺して、こんなところに引っ張ってきたんだもの」と恨み事を言った。「そんなことはないよ。追い母さんは確かにこの樹の中に肉をしまって置いたんだもの」尾長狼はこう言って、死キリン日あたりを見回していたが、やがて河の水に映っている肉の影に気が付いて、「あれをご覧。肉は河の中に落ち込んだんですよ。お母さんが見ずに潜って拾い上げて来るから、静かにして待っていらっしゃい」と言った。そして、いきなり水の中に飛び込んで、肉を拾い上げようと努めたが、どうしてもつかみ取ることが出来なかった。仕方がないので、河から這い上がって、岸に腰を下ろしながら、「どうしたんだろう。あんなに深い所まで潜って行ったのに」としきりに不審がっていたが、やがて子供たちに向かって、「みんな石を拾っておいで」と言った。子供たちが石を拾ってくると、尾長狼は、それを自分の首にくくりつけて、また水の中に潜り込んだ。子供たちは河岸に並んで、尾長狼が水から出て来るのを、今か今かと待ち受けていた。しかし、いつまでたっても、尾長狼の姿は現れなかった。やがて糞が水の面に浮かんで来た。子供たちはそれを肉だと思い込んで、「やあ、お母さんが肉を投げ上げたよ」と大喜びをしていた。樹の上に登っていた山猫は、可笑しくて堪らないので、大きな声で笑い出した。尾長狼の子供たちがびっくりして、上を向くと、一匹の山猫がたくさんの肉を抱えて、木の上に蹲(うずくま)っていた。子供たちは目を丸くして、「おや、どうしたんだろう。水の中に入っていると思った肉が、あそこにあるわ」と言った。山猫は「お前たちは、ほんとに馬鹿だね。水の中のは肉の影だよ。お前たちのお母さんは、肉の影を拾いに行って、溺れ死んでしまったよ」と言った。これを聞くと、子供たちは皆わっと泣き出した。山猫は樹から降りて来て、「泣かなくてもいいよ。私はお母さんに代って、お前たちの世話をしてあげるから」と慰めた。そして、尾長狼の子供たちを自分の家に連れて帰って、親切に世話をしてやった。

解説:山猫が鹿の肉を盗んでしまった理由が単に食糧のためかどうかが気になる。しかし悪事を反省して山猫は尾長狼の子供を世話することにしている。その後もこの関係は継続されたのだろうか。

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尾長狼と鵞鳥

ある日、尾長狼が空手で猟から帰っていた。尾長狼は少しも獲物がなかったので、悲しい気持になって、すごすごと道を歩いていた。と、出し抜けに笑ったりふざけたりする声が聞こえて来た。尾長狼は立ち止まって、「面白そうに遊んでいる奴があるな。よし、俺も仲間に入ることにしよう。そしたら、少しは気が晴れるだろうからな」と独り言を言った。そして小高い丘を乗り越えると、その麓に大きな湖があって、白い鵞鳥どもが水の上で遊び戯れていた。尾長狼は藪の後ろに隠れて、じっとその様子をみていたが、やがて、「結構な食べ物が見つかったぞ。仲間に入って遊ぶなんて勿体ない。ひっ捕らえることだ」とつぶやいた。「だが、あいつらだって命は惜しいからな。めったなことをすると、しくじるぞ。ここで一思案しなくてはなるまい」尾長狼はこう思って、なおも藪の中にうずくまりながら、一生懸命に頭をひねっていたが、やがてにやりと気味の悪い笑みをもらした。素晴らしい手段を思いついたのであった。尾長狼はいきなり泣き声を立てて藪の中から飛び出した。そして息も絶え絶えになった様子をして、跛を比氣ながら、湖の側に近寄って行った。鵞鳥どもは、尾長狼の姿を見ると、大急ぎで遠くの方に游ぎだした。そして、ここなら大丈夫と思うところまで泳いで行くと、後ろを振り向いて、「尾長狼さん、どうしたんです。泣き声など立てて」と尋ねた。尾長狼は「いや、たいへんなことになったよ。私はこの湖を渡らないと、殺されてしまうよ。いや、私だけならいいが、みんなの命まで危なくなるから大変だ。だって私が殺されると、川という川、湖という湖の水がすっかり干上がってしまうんだもの」と答えた。これwお聞くと、鵞鳥どもは、みんな一緒に集まって、小さい声で、「あんなことを言っているが、みんな嘘だよ」「嘘だとも。尾長狼が殺されたからって、川や湖の水が干上がって堪るもろか。あんなことを言って、私たちをひっ捕らえようとしているんだよ。ほんとに憎らしい奴だ」「じゃあ、騙された風をして、あいつをひどい目に遭わせてやろう」などと話し合った。やがて一羽の年を取った鵞鳥、水端に泳いできて、尾長狼に「湖が渡りたいなら、私の背にお乗りなさい」と言った。尾長狼は「駄目だ。私の体は大変重いから、お前さん一人では安心できない」と言った。年を取った鵞鳥は「じゃあ湖を渡らなくてもいいのですか。渡りたいなら、ぐずぐず言わないで、早く私の背にお乗りなさい。私たちは、いつまでものんきに待っているわけに行かないよ」と決めつけた。仕方がないので、尾長狼はしぶしぶ鵞鳥の背に乗った。と思うと、鵞鳥はさっと飛び立って、瞬く間に空高く舞い上がってしまった。案に相違した尾長狼は、鵞鳥をひっ捕らえるどころではなかった。振り落とされては大変だと思って、一生懸命にその背にかじりついているだけであった。それを見ると、他の鵞鳥どもも一斉に飛び立った。そして代わる代わる尾長狼を自分たちの背に乗せて、湖をあとに大きな森の上にやって来た。「幹が空ろになっている樹が見えるよ。あの中に放り込むことにしようじゃないか」と一羽の鵞鳥が言うと、他の一羽が、「よかろう。それ落とすぞ」と言うなり、尾長狼を自分の背から振り落とした。尾長狼は、あっという間もなく、大きな樹の空洞に落ち込んで、堅くその間に挟まった。尾長狼は、やたらに体をもがいたが、どうしても空洞から抜け出すかことが出来なかった。「たいへんなことになってしまった。うっかいるすと飢え死をしなくてはならない」尾長狼はこう思うと、怖くて堪らなくなった。で、一匹の蠅を見つけて、「蠅さん、後生だから助けておくれ」と頼んだ。「いや、私は弱虫で、とてもお前さんを引っ張り出すなんて力業はできないよ。友達を引っ張ってきますから、待っていらっしゃい」と蠅が答えた。そしてどこともなく飛び去ったが、間もなく一羽の鳥を連れて来た。尾長狼が、空洞から首だけ差し出してみると、それは啄木鳥だった。啄木鳥は尾長狼に向かって、「お前さんは、本当空洞から抜け出したいんですか」と尋ねた。「本当だとも、早く助けだしておくれ」と尾長狼が弱り切った声で答えた。啄木鳥は「私一人ではだめですよ。暫く待っていておくれ」と言って、仲間の啄木鳥を大勢連れて来た。そして嘴をそろえて空洞を突き広げた。そのうちに尾長狼の体が自由に動くようになったが、彼はわざと身動きをしないで、「おい、啄木鳥さん、首を差し込んで空洞の大きさを見ておくれ」と言った。啄木鳥どもは、何気なく一斉に空洞の中に首を差し込んだ。途端に尾長狼が飛び上がって、彼らの首を咬み切ってしまった。そしてゆっくりと啄木鳥の肉を食べてしまった後で、どこともなく立ち去った。

解説:鵞鳥に樹の空洞へ投げ入れられた尾長狼は本当は鵞鳥を食べなければいけなかったようにも思う。そして、鵞鳥を殺しそこなったところ、現れた蠅は神の慈悲ではないだろうか。そして、啄木鳥によって助け出された尾長狼は命の恩人である啄木鳥を食べてしまった。これが尾長狼の罪ではないだろうか。啄木鳥は一度本当に空洞から抜け出したいんですか、と聞いている。あくまでここに書いてある話が原文に忠実であったならばの話ではあるが、これは尾長狼の願いを聞くと言う意味だったのではないだろうか。

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兎と尾長狼

あるところに、一匹の兎がお祖母さんと一緒に住んでいた。兎はよく狩に出掛けた。そんな時には、お祖母さんがいつも、「あまり遠く迄行ってはいけませんよ。悪い獣に殺されるから」と言って聞かせるのだった。しかし兎は、お祖母さんの言うことを平気で聞き流していた。「世の中に自分くらい早く走れるものはない。悪い獣なんかちっとも怖くないや」兎はこう思って、ときどき遠くまで狩に出掛けていた。ある日兎は、いつものように遠くまで狩に出掛けた。しかし、少しも獲物がなかったので、気持ちを紛らわすために、歌を歌いながら帰っていた。丁度その時、尾長狼が食べ物を探し回っていた。尾長狼は、歌声を聞きつけて、あたりを見回すと、一匹の兎が目についた。「占めた、結構な食べ物が見つかったぞ」尾長狼はにやりと笑いながら、足音を忍ばせて、兎の後をつけた。そして兎が逃げ切れないほど近くなると、出し抜けに大きな声で唸るなり、兎にとびかかって行った。兎は魂が抜けだすほど驚いたが、わざと平気な顔をして、「尾長狼さん、今私を殺しては駄目ですよ。私はいい獲物を見つけて、お前さんに加勢をしてもらおうと思っていたところでした」と言った。尾長狼は「いい獲物ってなんだね」と嬉しそうに尋ねた。「大きな水牛ですよ。お前さんが加勢をしてくれるなら、すぐに案内しましょう」と兎が答えた。「よし、それじゃあ一緒に行ってやろう。嘘をつくと承知しないぞ」と尾長狼は言って、兎と一緒に歩き出した。兎は年を取った水牛のいるところに尾長狼を連れて行って、「さあ、あいつのお尻から腹の中におはいりなさい」と言った。尾長狼はすぐに水牛のお尻の穴から、腹の中に入り込んだ。兎もその後に続いて潜り込んだ。「さあ、水牛の脇腹にかみつくんですよ」と兎は言って、尾長狼と一緒になって、一生懸命に内側から水牛の脇腹をかみ始めた。水牛は苦しさに体をもがいていたが、やがて大地に倒れて、死んでしまった。と、丁度その時一人の老人が通りかかって、「おや変だぞ。水牛が出し抜けに倒れて死んでしまった。思わぬ獲物だ」と言いながら、すぐにその体を裂き始めた。兎はびっくりして、「たいへんなことになった。早く腸の中にお隠れなさい。私は膀胱の中に潜り込みますから」と言った。尾長狼はすぐに水牛の腸の中に姿を隠した。兎も膀胱の中に潜り込んで、じっと様子を伺った。老人は、水牛の体を切り開くと、腸をわきに押しやって、膀胱を藪の中に投げ捨てた。兎はしめたと思って、膀胱の中から抜け出すなり、一散に逃げだした。老人はそれに気が付くと、「おかしいな、水牛の膀胱の中に兎が入っているなんて。もしかすると、腸の中にも何か隠れているかもしれないぞ」と言って、腸をかき回した。そしてその中に縮こまっている尾長狼を見つけると、「なんだ、こんなやつが隠れていたのか」と言うなり殺してしまった。

解説:兎がお尻からお腹の中に入るように言って、尾長狼がその通りにした理由がわからない。

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山猫の仇討ち

あるとき、尾長狼が食べ物をあさりまわっていると、向こうの岩の間から、子供のような鳴き声が聞こえて来た。急いで声のした方に駆けて行くと、岩の間に山猫の住居があって、小さい山猫どもがしきりに泣いていた。尾長狼はお腹が空いていたので、山猫の仕返しが恐ろしいとは思いながら、とうとう山猫の子供をすっかり食べていた。暫くすると、山猫の親が帰って来た。山猫は、子供たちがいなくなったのに気が付くと、気違いのようになって、あたりを見回した。と尾長狼の足跡がはっきりと大地の上についているのを見つけた。「さては、尾長狼の奴の仕業だな。憎い奴だ。どうしても仕返しをしなくてはならない」山猫はこういって、それからというものは、毎日のように尾長狼のあとをつけ狙っていたが、尾長狼はうまく山猫の目を逃れて、あちらに隠れ、こちらに隠れしていた。ある日、山猫は狼探しに疲れて、とある川の岸に休んでいた。するとそこへ一匹の兎が通りかかった。山猫は兎を怖がらせないように、出来るだけ優しい声をして、「兎さん、ちょっとここに来ておくれ。少し話したいことがあるから」と言った。兎はびくびくしながら、山猫の側にやって来た。山猫はなおも優しい声を出して、「実はね、尾長狼の奴が、私の子供を殺してしまったんで、どうにかして仇を討とうと思っている所だよ。頼むから、お前も一つ加勢をしておくれ」と言った。それを聞くと、兎はやっと安心して、「そんなことなら、なんでもありませんよ。一緒に尾長狼の奴を探すことにしましょう」と答えた。山猫と兎とは、一緒になって川の縁を歩き出した。暫く行くと、一匹の鹿を見つけた。山猫は兎に向かって、「ちょっと待っておくれ。あの鹿を殺すから」と言って、いきなり鹿に躍りかかった。鹿が手に入ると、山猫は兎に手伝わせて、それを料理した。そして、「兎さん、鹿の脂肪をこってりと私の顔に塗っておくれ。尾長狼の奴に顔を見つけられない用心だよ。それから背に鹿の皮をかぶせておくれ」と言った。兎はすぐに山猫の顔に鹿の脂肪を塗って、その背に鹿の皮をかぶせてやった。すると山猫がまた兎に向かって、「今度は、お前さんが私の背に乗って、尾長狼が見つかるまで、あちらこちらを乗り回すんだよ」と言った。兎はすぐに山猫の背に飛び乗って、あちらこちらを引っ張り回し始めた。そしてとある広野を通っていると、どこからともなく、「兎公、お前はどこでその見事な馬を手に入れたのかね」という声がした。しかし兎は返答をしないで、なおも山猫を乗り回していた。暫くすると、また、「おい、兎公、俺の言うことが聞こえないかね。ちょっと待っておくれ、お前の馬が見たいんだよ」という声がした。そして草原の中から尾長狼が飛び出してきて、兎に向かって、「早く降りろ。これは俺の馬だよ。いつぞや失くしたのを、お前が見つけたんだ。早く降りろ」と言った。兎は驚き恐れたような風をして、いきなり山猫の背から飛び降りた。尾長狼は大威張りで馬と思った生き物のそばに歩み寄るなり、顔を目掛けてかみついた。と、脂肪の下から山猫の顔がぬっと現れたので、あっと叫んで逃げ出そうとしたが、すぐに捕まって、かみ殺された。

解説:兎は山猫に弱みがあるようだが、兎とはおとなしいが食人種であった過去を持っているように思う。そして、山猫には強い母性を見ることができる。また、尾長狼は嘘つきであることは理解できるところであろう。尾長狼、魂の本性、兎、食人種の悔悟、山猫、男女の逆転。

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水牛になった尾長狼

尾長狼が食べ物を探しに出掛けると、一匹の年をとった水牛に出会った。水牛は一心に草を食べていた。尾長狼は、水牛が脂ぎって、丸々と 肥っているのをみて、羨ましくて堪らなかった。そこで、水牛の側で「お願いだから、私が水牛に変わって、草が食べられるようになる力を授けておくれ」と頼んだ。すると水牛は、「よろしい。そんな力を授けてあげよう。だが無暗にその力を使ってはいけない。さあ向こうを向いておくれ。どんなことがあっても体を動かしてはいけないよ」と言った。尾長狼は言われた通りに向こうを向いて、じっとしていた。水牛は四つの蹄で地面を蹴立てて、砂煙を建てながら、尾長狼に向かって、「目をつぶってくれ。いいかね、どんなことがあっても動いてはいけないよ」と言った。尾長狼は、すぐに目をつぶったが、心の中では、「水牛の奴、いったい何をするつもりだろう」と思って、びくびくしていた。暫くすると、水牛は大きな角を振り立てて、凄まじい勢いで尾長狼に突きかかって来た。その足音にびっくりして、尾長狼は覚えず身をかわした。と、水牛は腹立たしそうな声で、「駄目だ、そんなに体をかわすようでは、とても水牛にはなれないよ。さあ、もう一度やり直しだ」と言った。尾長狼はまた目をつぶって、じっと立っていた。しかし、激しい勢いで突きかかって来る水牛の足音を聞くと、再び身をかわした。こうして幾度もやり直しているうちに、だんだんと大胆になって、七度目には、水牛が突きかかって来ても、じっと立ち続けていた。すると水牛は大きな角に尾長狼の体をひっかけて、空高く放り上げた。尾長狼は覚えずあっと叫んだが、大きな音を立てて地面に落ちて来ると、いつの間にか若い水牛に変わっていた。若い水牛は、「いや、どうもありがとう」と言ってすぐに草を食べ始めた。年を取った水牛は彼に向って、「元の尾長狼になりたいと思ったら、二、三度大地の上にころがればいいんだよ。だが、さっき言った通り、授かった力を無暗に使わないようにしておくれ。また仲間の尾長狼に力を分けてやることも禁物だよ。不思議な力を七度使ったら、失ってしまうからね」と言って、立ち去ってしまった。しかし、尾長狼は不思議な力を授かった嬉しさに、幾度も水牛になったり、尾長狼に返ったりしているうちに、とうとう七度になってしまった。が、尾長狼自身はそれに気が付かないので、水牛の姿をしたまま、仲間の尾長狼の所にやってきた。そして、「どうだね、私のように水牛に変わって、草が食えるようになる力を授けてやろうか。なんだか食べ物がなくて困るようじゃないか」と言うと、仲間の尾長狼は大変喜んで、「そんなことが出来るなら、早く授けておくれ」と頼んだ。「よし、じゃあ向こうを向いて、じっとしていておくれ。どんなことがあっても体を動かしてはいけないよ。目をつぶって、目を」と水牛になっている尾長狼が言った。仲間の尾長狼は向こうを向いて目をつぶって、じっと突っ立っていた。水牛になっている尾長狼は、激しい勢いで相手に着きかかって行った。そして大きな角に相手の体をひっかけて、力一杯に空中に投げ上げた。仲間の尾長狼は、大きな音を立てて地面に落ちて来た。しかし水牛にはならないで、元の尾長狼の姿をしていた。水牛になっていた尾長狼は、驚き慌てて辺りを見回したが、ふと気が付くと、自分までがいつの間にか元の尾長狼に返っていた。二匹の尾長狼は、あきれたような様子をして、暫く顔を見合わせていたが、やがてお互いに、「なんだ、ばかばかしい」「なんだ、面白くもない」と言って、左右に別れた。

解説:水牛に殺されると、水牛となるのだろうか。ここでは水牛が尾長狼に力を授けている。肉食の尾長狼は草食になっている。ここに人間と動物の境界があるようにも思える。しかし、ここでも尾長狼の失敗が動物と人間の秩序を守っているように思う。そして、最後に、水牛になれなかった尾長狼と水牛から戻った尾長狼が左右に別れている。これは二匹の鷹の生まれた理由かもしれない。そして、尾長狼は教わったことを他の者と確かめようとするが、そこで失敗すると反発しあうという習性があるのかもしれない。一番初め尾長狼は神の技を知ってそれを確かめたのではないだろうか。それが失敗に終わり一つであった魂が二つに反発したと言うことかもしれない。

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袋遊び

尾長狼が空腹を抱えて、あちらこちらと食べ物を探し回っていると、騒がしい物音が聞こえてきた。「誰か面白いことして遊んでいるに違いない。俺も仲間に入ることにしよう」尾長狼はこう思って、物音のする方に出掛けて行った。すると、沢山の七面鳥が集まって、大きな袋の中に入っては、険しい坂道を転げ落ちていた。七面鳥どもは尾長狼の近づくのを見ると、「どうです、お前さんも袋の中に入れてあげようか」と声をかけた。尾長狼は、心の中で、「しめた。七面鳥を殺すのに、もって来いの機会だ」と考えて、「頼むよ、私も仲間に入れておくれ」と答えた。そして仲間に入って、袋の中に入れてもらって、二、三度坂道を転がしてもらった。それから今度は七面鳥どもに向かって、「さあ、今度はお前たちの番だ。みんな早く袋の中に入っておくれ」と言った。七面鳥どもがすっかり袋の中に入ってしまうと、尾長狼は、いきなり袋の口を堅く結んで、肩にかつぎ上げて、どんどん歩き出した。家に帰りつくと、四人の息子を呼んで、「これをご覧、たくさんの七面鳥を袋の中に生け捕りにしてきたよ。早く火を起こしておくれ。素晴らしいご馳走をしてあげるから」と言った。息子たちは、すぐに火を焚き始めた。しかし、大きな火をこしらえるには、薪が足らなかったので、尾長狼が、「みんなで森の中に出掛けて、木の枝を拾って来る事にしよう」と言い出した。そして一番年下の息子に袋の番をさせて、「よく気を付けて番をしていなくてはいけないよ。どんなことがあっても、袋の口を開けてはいけないよ」と言って、みんなで森の中に入って行った。一番年下の息子は、黙って袋の側に座り込んでいたが、「七面鳥の奴ら、袋の中でどうしているんだろう」と思うと、袋の口を開けてみたくて堪らなくなった。息子はとうとう袋の紐を解いて、その中を覗き込もうとした。途端に七面鳥どもが袋の中から飛び出して、いっせいに空中に舞い上がってしまった。息子は困ってしまって、暫くの間ぼんやりと空袋を見つめてしまったが、やがて、「何とかしてごまかさなくちゃ、みんなから小言を食うにきまっている」と独り言を言って、大急ぎで袋の中に砂埃を詰め込んだ。暫くすると、尾長狼が三人の息子たちと一緒に、たくさんの薪を拾って帰って来た。そしてどんどん火を燃やしながら、「さあ、いよいよ素晴らしいご馳走にありつけるぞ」と言って、袋の口を開いた。しかし中には、七面鳥は一羽も入っていないで、砂埃がぎっしりと詰まっているだけだった。尾長狼は非常に怒って、一番年下の息子を睨みつけて、「どうしたのだ。七面鳥を逃がしてしまったのはお前だろう」と問い詰めた。息子は仕方がないので、いままでのことをすっかり話した。尾長狼はますます腹を立てて、「仕様もない馬鹿者だ。折角ご馳走が不意になった腹いせに、お前を食べることにするぞ」と言って、その息子を叩き殺して、みんなで食べてしまった。

解説:

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盲目狼

あるとき、尾長狼が食べ物を探しに出かけると、途中で騒がしい物音を聞きつけた。「あれはこの間、俺の手からうまく逃げ出した七面鳥に違いない。今度こそどうあっても逃がしはしないぞ」尾長狼は高独り言をいって、足音を忍ばせながら、物音のする方に歩み寄って行った。すると、七面鳥ではなくて、たくさんの鴨が水の中で騒ぎまわっていた。鴨どもは、尾長狼の姿を見つけると、水から上がって、土手の上にずらちと並んだ。それを見ると、尾長狼は、「何という馬鹿者だろう。わざわざ水から離れて、俺の餌食になりたがっている」と思って、笑いながら、鴨の側に近づいて行った。鴨どもは、平気な顔をして、「尾長狼のおじさん、私たちと一緒になって遊びませんか」と声を掛けた。尾長狼はいよいよ思う壺にはまったと、心の中で大喜びをしながら、「承知した。私も丁度そう思っていたところだよ。お前たちがまう何か面白いことをして見せたら、おじさんも素敵な悪戯をしてみせるよ」と答えた。それを聞くと、鴨どもは一緒に集まって、どんなことをして尾長狼を面白がらせようかと相談し始めた。暫くすると一羽の鴨が、「こういう遊びはどうだろう。いいかね、私たちの中で、誰か一人の目の玉をくり抜いて、水の中に放り込むのだよ。すると盲目になった者が水の中に潜り込んで、目の玉を元の通りにはめて、陸に上がってくることにしたら、面白いだろう」と言った。鴨どもは、尾長狼に向かって、「おじさん、いまいったような遊びはどうでしょう」と尋ねた。「うん、なかなか面白そうだ。早速その遊びをして見せてくれ」と尾長狼は答えた。鴨どもは、すぐに仲間の一人の目の玉をくり抜いて、水の中に投げ込んだ。すると、盲目になった鴨が、すぐにそのあとを追って、水の中に飛び込んだが、暫くすると、ちゃんと目の玉を元の通りにはめ込んで、浮かび出してきた。一羽また一羽、みんなが同じことをしてみせると、尾長狼はすっかり嬉しがって、「さあ、今度は私の番だ。早く目の玉をくり抜いておくれ」と言った。鴨どもはよってたかって、尾長狼の目の玉をくりぬいて、ぽんと水の中に投げ込んだ。尾長狼は痛いのを我慢して、水の中に潜り込んだ。そしてあちらこちらと探し回ったが、どうしても見つからなかった。仕方がないので、鴨に探してもらおうと思って、陸に這いあがったが、いつの間にか鴨どもは飛び去ってしまっていた。尾長狼は、痛くて口惜しくて堪らないので、大きな声で泣きながら、とぼとぼと歩いていた。すると、一人の男が通りかかって、「おい、どうしたんだね。尾長狼ともあろうものが、めそめそ泣きじゃくるなんて」と声をかけた。尾長狼は鴨どもの真似をして、目の玉を失くしたことを話した。すると、男は、「よし、それでは、私が代わりの目の玉を探して来てやろう。帰ってくるまで、ここに待っているがいい」と言って、どこともなく立ち去った。暫くすると、男は、合萠(くさねむ)の球を二つ持って引き返して来た。そして尾長狼に向かって、「さあ、新しい目玉を入れてやるよ。少し痛いだろうが、我慢するんだね。」といいながら、合萠の球を眼窩(がんか)に押し込んでやった。こうして尾長狼は、やっと目が見えるようになった。

解説:鴨には目をくりぬいてもまた元通り戻すことができる能力があるのだろうか。そして、尾長狼は合萠の球を入れられて眼が見えるようになったとある。合萠にはどんな意味があるのだろうか。天まで伸びる蔓という意味だろうか。第三の眼という考えと通じるところがあるだろうか。尾長狼だけが体得した再生能力があるような気がする。

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尾長狼と亀との競争

あるとき尾長狼が、長い不猟続きの帰り道に、昔馴染みの亀の棲家の前を、通りかかった。お腹が空いて疲れ切って、急ぎの旅でもないと言うので、足をとめて、亀を訪ねてみようと思った。亀は快く尾長狼を迎え入れて、待ち侘びていたご馳走で歓待した。尾長狼は我を忘れてご馳走に舌鼓を打っていると、亀は、「ああ、すっかり疲れてしまった。いま、競争から戻ってきたばかりだよ、尾長狼さん」と言いながら、長々と足を延ばしながら、横になった。これを聞くと尾長狼は、「競争だって、どんなだったかい」と尋ねた。「川緑を走りごっこしていたよ。お前さんは、そんなこと聞かなかったのかい」尾長狼は亀が競走している様を思い浮かべて、にこりと微笑みながら、「聞くもんか、私は競走が好きだから聞いたら飛んで行くに決まっている。それで、誰の勝ちだったのだ」と尋ねた。「ほかでもない私だ。これでも、仲間たちの競走で負けたことはいちどもないんだ」と亀は言った。尾長狼は負けていられず「それは私も同じだ。一つ、二人で競走したら面白いだろうな」と答えた。亀も、黙っていられず「論より証拠、走ってみるに越したことはない」と言った。すると尾長狼も、「もちろんそれは、こちらからも望むところだ。じゃあ、いつにしようか」と答えた。そして相談の末、競争は二日後に行うことにした。こうして話に興じているうちに接待の御馳走にお腹の膨れた尾長狼は、二日の後を約して、出て行った。家に着いた尾長狼は、すぐに子供をやって仲間を呼び集めた。そして、「諸君、私は亀と競走をやるんだ。競争当日は皆見に来て、勝負に大賭けをしてはどうだ」と言った。尾長狼の胸には、勝利の誇りが燃えていたのだ。一方亀は、尾長狼が帰ると、すぐに子供を仲間中に走らせて、尾長狼との競争の話を告げて、みんなに集まってくれるように頼んだ。これを聞いた亀の仲間は、亀の考えを聞くために、続々とその棲家に集まってきた。亀は静かに立ち上がって、大勢の仲間を見回しながら、「さて、諸君。ご承知のように、尾長狼は非常な走り手だが、彼はまた有名な嘘つき者であることは、もちろんご存じだろう。私たちはどのくらい奴の罠にかかったか知れない。今度は、俺たちの番だ。今度の競争には、一つ見事出し抜いてやろうではないか。どうだね。諸君。この俺に諸君方のお力をお貸しくださらないか」と水を流すように述べ立てた。じっと聞いていた一同は、手を叩いて賛成した。亀は意気揚々と、再び話続けて行った。「これは私の考えだ。諸君方は皆俺がしているように、一本の白羽を頭髪に挿し、俺と同じ色に体を塗ってもらいたいんだ。そして競争道に沿って、所々にいてもらいたいんだ。尾長狼めは、競争と言ったら、いつでも頭を下げて見向きもしないで走る。諸君の一人が、始め奴と一緒にスタートを切って、奴がずっと先になったら、すぐに草の中へ転びこむ。すると次の番にあるものがすぐに飛び上って、代わって走るんだ。こうして最後まで繰り返して行く。俺はその最後の番として、見事奴を出し抜いて、決勝点を突破しようというのだ。」大勢の仲間はこの名案についていろいろ協議した末、いよいよ競争の用意に取り掛かることとなった。第一日は過ぎ去った。待ちに待った競争の日は来た。夜もほのぼのと明けようとする頃、亀の仲間は、あらかじめ定めておいたように、各々茂った高い草の中へ身を潜めて、自分の持ち場についた。程なく尾長狼は、いそいそとしてやって来た。二人は競争の距離について、色々話し合った。亀は、なるだけ長距離を走ろうと言った。尾長狼は、あまり長い距離は好まなかった。彼は、心の中で亀くらい、長距離は言うまでもなく短距離でも、雑作なく打ち負かしてくれると考えた。そしてなるべく、骨を折らずにしようと思った。亀は、飽くまで自分の考えを言い張るので、尾長狼は、「では、お望みに任せよう。さあ、どこまででも来い」と言った。大勢の尾長狼の仲間たちは、わいわい言いながらやって来て、自分たちのお頭に賭始めた。二人はスタート線に立った。そしていよいよ合図は鳴った。尾長狼は亀を悠々と抜いて風のように早く駆けて行った。するといつの間にか亀は尾長狼をしり目にかけて抜いていた。尾長狼はまた、亀を追い抜いた。決勝点は、一歩ずつ近づいて来る。観衆は、もう躍起になって踊り狂っている。決勝点間近になった尾長狼は、風を切って驀進している。突然尾長狼は、亀をひゅうとばかり追い越した。決勝点は、今一息というところです。途端に猛然奮い立った亀は、すわとばかり尾長狼を抜くが早いか、決勝点へと踊り込んだ。一時に気が緩んだ亀仲間は、うれし涙をこぼしながら、あたり構わず狂いまわった。勢い余った尾長狼は、草の中へと倒れ込んだ。競争に負けた口惜しさが手伝って、尾長狼は、無念そうに口を噛みしめながら、「うぬ。さては奴、何か企みおったな」と心の中で不思議がっていた。尾長狼の仲間たちは仲間たちで、賭金を失ったので、今までの元気はなくなり、顔を真っ赤にして起こり立てていた。

解説:この競争は亀が本当にリレーをして尾長狼より早くある場所にたどり着いたことを示しているのではないだろうか。尾長狼は金を失って顔を真っ赤にして怒ったとあるが、これは猿が生まれた理由ではないだろうか。と考えると、尾長狼は原初的には天の命を授かっていたが、亀に出し抜かれたことによってそれを失い、猿に変わったのではないだろうか。

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山猫と尾長狼

昔、ある盲目のお婆さんが、たった独りで住んでいた。人里離れた遥か奥の住居には、訪ねて来る人もなく、その傍を通り合わせる人もまた、大変稀なくらいであった。盲目で年は取っていたが、食べ物はあるし、別に不自由なこともなかった。お婆さんは、いつも壺の中にいっぱい肉を蓄えていた。たまに家の側を通り合わせた人は、この人里離れた一軒家から、香ってくるおいしそうな焼肉の香気を嗅いでは、不思議がっていた。食事時になると、お婆さんは、「食事の仕度はすっかり済んだよ」と誰かを呼んで一緒に食事でもするように、いうのが常だった。そうかと思うとまた、「孤児よ、私は、独り言ばかり言うんだよ」というのだった。ある日、食べ物を探しに出た山猫が、ふとお婆さんの家の前を通りかかった。家の中からは、なんともいえない良い焼肉の香が、ぷんと鼻をついて来ている。山猫は堪らなくなって、思わずその場に立ち止まった。そして家の中にそっと忍び込んでみると、中には盲目のお婆さんがいた。家の片隅に忍び寄った山猫は、良い香に鼻をぴくつかせながら、ひとつ肉を盗んでやろうと、眼を皿のようにして一方の眼はくらくら煮えている肉に、一方の眼は、絶えずお婆さんの上に注いでいた。暫くしてお婆さんは、鍋を火からおろして、食事するために腰を下ろすと、まず、「食事の仕度はすっかり済んだよ。孤児よ、私は独り言ばかり言っているんだよ」と言った。これを聞いた山猫は仰天して飛び上がった。というのは、お婆さんが自分の姿を見て、自分に話しかけたと思ったからだった。お婆さんはやがて黙り込んだまま、さも旨そうに煮たての肉を食べ始めた。一安心した山猫は、恐ろしさも忘れてしまって、空腹を撫でながら、鍋の所まで這い寄ると、遠慮なく肉を食べ始めた。骨をかみ砕かないように咀嚼しながら、飲み込む口つきも静かに、眼ばかりきょろつかせているのであった。泥棒の山猫のために、鍋の中には、ほんの少しの肉しか残っていなかった。山猫はこれを見て、さも名残惜しそうに舌なめずりしながら、忍び出て行った。こうして一度味を占めた山猫は、その後は毎日のように、お婆さんの家に忍び込んでは、肉の御馳走になっていた。見る見るうちに山猫は、丸々と太った。ある日尾長狼が、山猫にぱったり会った。「いよう。この頃は、馬鹿に景気がいいじゃないか。猟にも出掛けないくせに、どこでどうして、たんまりご馳走をせしめているんだ。」ヤマネコは驚く尾長狼に、お婆さんの家に忍び込んで、毎日肉の御馳走になっていることを語った。これを聞いた尾長狼は、もう喉をごろごろ鳴らしながら、「さすがは貴公。どうだい、一つ、この俺にも、そのご馳走を戴かせてもらえないか」と言った。山猫は、「うん。よかろう。だが、あそこへ忍び込んだら、音は全くの禁物、俺の教えることの他は、してはならないよ」と言って、尾長狼を連れて行くことにした。二人は、打ち揃ってお婆さんの住家指して、出発した。いましも煮ている最中の肉の香が、家の辺りに立ち込めて、気持ちよく鼻をつく。生まれてこんな佳い香を嗅いだことのない尾長狼は、もう堪らなくて、ぱっとばかり家の中目掛けて、駆け込もうとした。が危うく山猫のため引き止められた。二人はそっと忍び入って、戸の内側に潜んでいた。鍋の中の肉は、旨そうな音を立てていま煮えている。やがてお婆さんは、鍋を火から下ろして、突然、「食事の仕度は、すっかりすんだよ。孤児よ、私は、独り言ばかりいっているんだよ」と、さも人に向かってのように言った。驚いた尾長狼は、はっと躍り上がった。山猫は、慌てて力一杯それを抱き止めた。程なくお婆さんは肉を食べ始めた。しめたとばかり側に忍び寄った二人は、鍋に手を差し込んでは、矢継ぎ早に食べていた。旨さに怖さも忘れた尾長狼は慌てて肉の大片を口にくわえた。そして何もかも忘れてしまって、むしゃむしゃと音を立て始めた。突然尾長狼は有頂天になって骨をかみ砕いた。お婆さんは、思わずぱっと飛び上がった。山猫は、尾長狼が骨を噛み始めたのを知るが早いか、早くも家の外に飛び出ていたのであった。怒り立ったお婆さんは、皺だらけの口をわなわなと打ち震わせて、戸を堅く閉じてしまうと、家の隅にあった長槍を握りしめて、無暗に家の中を突き回った。真っ青になった尾長狼は、いままでの食い気は忘れてしまって、家の中を逃げ回った。突然長槍は尾長狼の体を貫いた。悲鳴をあげて打ち倒れたのを知ったお婆さんは、倒れた体を蜂の巣のように突き立てた。明くる日山猫は、再びお婆さんの家に忍び入って来た。そこには、冷たくなった尾長狼の死体が朱(あけ)に染まって倒れていた。山猫は、それを見て大変嘆いていた。それも、友達の身の上を悲しんでいるのではなくて、明日から、もう安心してあの美味しいご馳走を戴くことができないからだった。

解説:お婆さんの正体は一体誰なのだろう。ブラジルの神話8ではお婆さんが園の樹の名前をすべて知っているという。これに似たようにいくら食べてもなくならない肉を持っているのではないだろうか。ケルト神話で言われるような、「いくら食べてもなくならない豚」かもしれない。また、お婆さんは、食事の支度が済んだ孤児よ私は独り言ばかりいうのだ、と言うあたり孤児には食事を与えることを許容しているように思える。ここで山猫は音を立てずに食事するが尾長狼は骨を砕く音を立てている。これは孤児ならば、礼儀正しく食事できるということを暗示しているようにも思う。そして孤児でもないものが食べたなら、長槍で殺してしまうと言うことではないだろうか。そして山猫は尾長狼が殺されたところを知っているので、礼儀正しく食べる自信がなくなってしまったのではないだろうか。

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神話名

あるとき尾長狼が、食べ物探しに歩いているとき、ふと蛇の住家を訪ねようと思った。そこで、蛇の住家と思われる方角に足を向けて、いろいろと訪ねたが、さっぱりわからなかった。尾長狼は、なおも、「俺は、こう考えた。蛇は、人たちが考えているほど毒は持っていない。もし彼に出会ったら、私の力を見せてくれよう」と独り言を言いながら、ぐんぐん歩み続けていた。もう体も、ぐったり疲れてしまった。で、腰を下ろして、暫く休んでやろうと思っていると、どことなく自分の名を呼ぶ声が聞こえてくる。はっと思って立ち上がって、周囲を見回した。すると蛇の姿が、たちまちするすると眼前に現れた。尾長狼は、足元にいる蛇に向かって、身体の小さいのに、どうして多くの獣たちを打ち負かしているのかと、尋ねた。そしてなおも「なんと、貴公の小さい事。人は、貴公を毒蛇と言って恐れているが、私には、それが分からない。貴公の毒といって、たいしたこともなかろうと思うがね。噂によると、貴公は私より一層恐ろしいと。気持ちよくないな、だから、こうやって私は、疲れた足を引きずりながらでも、貴公の在処を探していたわけだ。さあ、こうやって、ここで出会ったが幸い、この私よりなお恐ろしいという、貴公の技量を、拝見させてもらおうか」と言った。これを聞くと蛇は、「いやあ、これは、ようこそ。なるほど私は、貴公に比べると態(なり)は小さいよ。だが、貴公もご存じのことと思うが、私には、先祖から受け継いだこの技量がある。この力があろうと言うのだ。先祖のお蔭で、私は、かなり色々のこともできるよ。山のように大きい野獣でも蟻のように小さいのでも、毒殺自在だ。まあ、せっかく貴公も、ここまで訪ねて来てくれたし、ご所望とあれば、何でも御覧に入れよう。まず一番に、何がご所望かね」と答えた。尾長狼は、「私はね、貴公と私のどちらが、技量があるか、そいつが見たいんだ」と言った。「よろしい。それでは、いいと思うところを一つ貴公が噛んでくれないか。私もまた、貴公の体に噛みつくから。どちらの毒が激しいか、これよりいい試しの方法はないだろう」と蛇は答えた。尾長狼は「だが、貴公からまず私に噛みついてくれ」と尾長狼が言うと、蛇は、「よろしい」と答えて、尾長狼に飛びつきざま、鼻の頭をぐざとばかり噛んだ。そして、「私は済んだよ」と言った。尾長狼は、平然として突っ立ったまま、「それっきりか」と言った。蛇は「そうだ、私の力を試すには充分だ」と蛇は答えた。すると尾長狼は「さあ、今度は俺の番だ」と言った。尾長狼は、蛇の側に歩み寄るが早いか、真っ二つに体が切れはせぬかと思われるほど噛んだ。蛇は、苦しさのあまり思わず悲鳴を上げて、「ああ、もうたくさんだ。どうか、そこを離れてくれ」と言った。尾長狼は、意気揚々と、蛇を放すと、「さて貴公はそこに、俺は、ここに横になろうじゃないか。そして、どちらが長生きするか、ときどきお互いに名前を呼び合うことにしよう」と言った。蛇は、痛む体を少し運ばせると、今にも、息が絶えそうな風をしながら、横になっていた。尾長狼もまた少し離れて、横たわっていた。さも苦しそうな蛇の様子を見て、今にも死にはしないかと思って、名を呼んでみた。すると最後の息の根を引き取るような、微かな声が聞こえた。しばらくすると、蛇の呼ぶ声が耳に入った。尾長狼は、大きな声で答えた。その夜は、絶えずこうして互いに名を呼び合っていた。程なく夜は明けようとしていた。蛇は薄闇を通して、尾長狼の名を呼んだ。けれどあたりは、ひっそりと静まり返っていた。蛇は、さらに三度四度と呼び返したが、やはり答えはなかった。不思議に思った蛇は、そっと体を起こして、尾長狼の側に近づいた。そこには、全身丸く膨れに腫れあがった尾長狼が、氷のように冷たくなって死んでいた。蛇は、尾長狼より猛悪なのだった。

解説:尾長狼と蛇の間にはどのような関係があるだろうか。

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臼になった尾長狼

女たちは、老木の幹で臼をこしらえる。それにはまず、直径2フィートくらい、高さ3フィートから4フィートぐらいの木を切り取って、一方の端から12インチぐらいの深さまで、木をくり抜くのだ。粉をこさえるときには、穀物をこの中に入れて、そして杵で搗く。沢山な臼の中でも女たちは、古くて中が滑らかになったのが大好きだった。ある日、一人の女が古臼を使っていた。粉を搗いていると、目に見えて粉が減って行くのに気が付いた。搗き終わったときには、粉も残りわずかだった。女は、自分の搗き終わった粉を集めて、黙ったまま、次の女が粉を搗いているさまを眺めていた。すると、その粉は、また同じようにみるみる少なくなって行った。次の女も、次の女もみんな同じだった。女たちは不思議に思って、よくよく調べてみると、それは、いつも使い慣れた古臼だった。突然一人の女は、「ちょっと斧を取ってください。どうも可笑しな話よ、あれだけの粉は、いったい何処へ行ってしまったのだろう。一つ、割ってみようじゃありませんか。」と叫んだ。一人の女はこれを聞いて、すぐさま斧を取りに走って行った。するといままできちんと立っていた臼は、ひとりでに倒れて、くるくると転がり始めたかと思うと、臼が立っていたところから尾長狼が飛び出てきて、こそこそと逃げて行った。古臼と見えたのは、実は尾長狼が、まことの古臼を隠して、穀物を食べようと、化けていたのだった。

解説:狼が臼に化けるのは北アメリカ31の話にも出てくる。そこでは、悪い人間を退治するためであった。ここでは、自分の欲望のために臼に化けている。

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水牛乙女

昔、ある村に一人の人食いが住んでいた。人々からは雪鳥と呼ばれていた。彼には、一人の凛々しい息子があった。その息子と言うのは、決して仲間の者と結婚しようと思わなかった。父は、彼が狩にかけては豪勇無双だというので、その名も『勇士』と名付けていた。狩に出掛けたときは、いつも帰りには色々な獲物を、両手に持ちきれないほど取ってくるのだった。多くの乙女たちが、この凛々しい若者に思いを懸けたのはいうまでもなかった。けれど『勇士』は、それを風のように、軽く受け流していた。ある夜、明日は狩にでも出掛けようと、しきりに考えていた。夜が明けると、彼は、昨夜考えたように、西の方に向けて勇ましく出発した。あちこちと野獣を探しながら歩いて行くうちに、ふと誰か前の方の小さい楡の木の下に座っているのに気が付いた。不審に思って近づいてみると、それは女でした。女は、若者の姿を見ると、可愛らしい口を開いて、「おいでなさいよ」と言った。若者は、つかつかと側に歩み寄った。それは、姿も美しい花恥ずかしい乙女だった。乙女は、輝かしい眼つきに、溢れるばかりの媚を湛えながら、「私ね、あなたがおいでなさるのを知ってて、ちゃんとさっきから待ってたのよ」と言った。若者は、この美しい乙女の顔を見惚れるようにして、耳を側立てて熱心にその言葉を聞いている。乙女は、晴れ晴れしい声でなおも、「あなた、私のお願い聞いてくださる?私あなたと一緒にいたいの。私、あなたと一緒に、あなたのお家へ参りたいの。そしてあなたのお嫁さんになりたいのよ」とねだるように言った。さすがの若者も、甘ったるい乙女の言葉を聞いては、つい乗り気になって、「うん。私も、お前を私の家に連れて行きたいんだ。だが、お前が私と一緒にいるには私の両親の許しを乞わなければならないよ」と言った。二人は、嬉しそうに打ち揃って、飛ぶようにして若者の家に帰って来た。二人は、やがて家に着いた。乙女は、嬉しそうに打ち揃って、飛ぶようにして若者の家に帰って来た。二人は、やがて家に着いた。乙女は、両親の姿を見て、早くも哀願するようにして、「私お願いです。私をこの方のお嫁さんにしてください」と言うと、両親も、その美しい姿を見て、許してくれた。若者には、楽しい夢のような生活が始まった。二人は、いつまでもいつまでも幸福だった。ある日二人だけで家の中にいたとき、乙女は、「私のいうこと、なんでも聞いてくださらない?」と尋ねた。若者は、うなずきながら、「いいとも」と答えた。これを聞いて乙女は、再びこう言った。「まあ、嬉しい。では、私の家に来てください。じきに帰ってきましょうからね」二、三日の後、二人は、打ち連れだって家を出た。乙女は、先立って見慣れない山道を案内した。長い旅の後、二人は、高い丘ばかり聳えているとある山地へ来た。すると先に立っていた乙女は、はたと歩みを停めて、注意深そうな眼つきで、ぐるぐると見回していたが、若者の顔を見て、「あなた嘘は言わないでしょう。いつぞや私に私の願いは何でも聞くとおっしゃったわね」と言った。若者は「そうだよ」と答えた。乙女は、「嬉しい。私の家というのは、つい目の前の丘のすぐ向こう側にあるのよ。お母さんが出てきたら、私、あなたに話してあげるわ。あなたがいらしたら、家の前は黒山のように人がたかることでしょう。そしてあなたを苛めて、怒らせようとするわ。だけどね、怒っちゃならいことよ。殊に若者たちは、どうかしてあなたを殺してしまおうとするでしょう。まあ、私のいうこと、よく聞いてちょうだいね。私初めてあなたにお目にかかったときは、あなたと同じように、私もあなたのことは存じなかった。私は、もうあなたのお家のことも、すっかり分かったの。けど、あなたには、この私の家のことなんか、ご存じないのね。あなたにお目にかかりたさの一心で、あなたをお誘い出したのは、誰でもなくこの私ですよ。私は、大勢の若者たちが、寄ってたかってあなたを怒らせにかかると申しましたね。怒らせにきっとかかるわ。あなたが、もし怒ったら、若者たちは、あなたに飛び掛かってくるのよ。その時反抗するような気配でもなさったら、それこそたいへんよ。あなたは、あの若者たちの手に殺されてしまうことでしょう。それもそのはずよ、若者たちは、あなたが嫉ましくてならないのよ。あの若者たちったら、執拗(しつこ)い人ばかり、私どのくらい後をつきまとわれたか知れないわ。私、みな聞いてやらなかったの。ね、注意はこれだけよ、お判りでしょう。さあ、あなたは、地上に横たわって、二度くるくる転がってちょうだいな」乙女が、こう注意し終えると、若者は言われた通りにした。すると立ち上がったときには、いつの間にか一匹の水牛に変わっていた。二人は、足を急がせて山の斜面を、せっせと登って行った。丁度丘の頂上に着いたとき、水牛男は、西の方を見下ろした。そこには、一面に幾千幾万と数えきれないほどの水牛が群がり合っていた。乙女は、驚いたような水牛男の目付きを見て、「あれが、さっき話した私の仲間の者よ」と囁いた。突然今までばらばらに散っていた沢山な水牛たちが、二人の姿を見ると、一所に集まって、ちょうど二人の降りてくるのを待っているように、一斉に眼を二人の上に向けた。乙女は、気おくれ勝ちな『勇士』を導くようにして先に立った。やがて乙女は、とある水牛婆さんの前へ来ると、その足を止めた。『勇士』にはそれが乙女のお母さんであることがすぐにうなずかれた。若者には、すべてが珍しくてならなかった。楽しい面白い生活は、慌ただしく過ぎて行った。ときどき訪ねて来る若者たちは、『勇士』の周囲によりたかっては、怒らせようといじめかかるのであった。そこで、二人は、一日も早く『勇士』の家に帰ることにした。やがて丘の頂を越えて降りると、乙女は水牛になっている男に向かって、「あなた、前と同じことをなさいな」と言った。若者は、言われた通りにぐるぐると転がると、また元の凛々しい人間になった。乙女もまた、同じように元の美しい姿になった。二人は嬉しそうに手に手を取って歩いて行った。乙女は、「あのね、水牛に変わることや私の仲間のことなどは、誰にも話してはならないことよ」と言った。やがて二人は家に戻って来た。二人の姿を見たお父さんの雪鳥は、訝しそうに顔を顰めながら、「お前いったいどこへ行っていたのか?」と尋ねた。若者は、何食わぬ顔をして、「はは。狩に出掛けたついでに妻の宅まで行って参りました」と答えた。お父さんは、それ以上何も尋ねはしなかった。こうしているうちに、早くも一年の歳月は流れる水のように過ぎ去った。二人は、再び懐かしい水牛村を訪ねて、乙女のお母さんと一緒に、楽しい生活を送っていた。ある日ふと乙女が、「ご用心なさい。老人たちが、あなたを殺そうと、あちこちで下相談をしているの。それがね、あなたを罠に陥れるためにわざわざ競走を開いて、あなたをぜひとも走らせようという話なの」と告げた。これを聞いて、若者の楽しい夢は、たちまち破られた。思案に余った若者は、眠ることもできないで、夜の涼風に誘われて、外に彷徨いでた。あたりは死んだように静まり返って、木の葉の音一つ聞こえなかった。地を踏む足音ばかりが、ときどきぽつぽつと気味悪い響きを立てる。その夜は墨を流したように、どす黒い闇夜だった。突然どこからともなく、怪しい呼び声が聞こえて来た。けれどその姿は、闇夜の帳(とばり)の彼方に包まれて、その影さえも見えなかった。すると見えずの人は、再び話しだした。「お前は、まだ若い。私の力がなくては、とても今度の競走には勝てない。競走が終わったら、村人たちがお前をどうしようとするか、私には、よく見え透いている。お前が負けたら、可哀想だが、若者よ、お前の首はないんだよ。私は、情けを以て、お前を勝たせてやることにしよう。私が、そうすれば、またお前を助けようとする者は出てくると言うのだ。一度この度の勝負に勝ったら、もうしめた話、乙女はお前の勝手、何人でも干渉がましいことは、もうしないのだ。その手をずっと差し出すがいい」若者は、恐る恐る手を差し伸ばすと、見えずの人は、一本の小さい薬草の根を、その上に置いて、さらに話し続けた。「よく聞け、出発したときは、多くの若者たちは、みなお前の遥か後方に後れるだろう。だが、その中には誰か一人、お前に追いつくものがあるに違いない。と言っても、それも長くお前と争うことはできないのだ。さて、ここからが肝心なところだ。追いついて来たら、この薬をお前の後ろへ落としてやるのだ。いいか、するとさすがの奴も、瞬く間にまた遥か後ろに遅らされてしまうのだ。だが、また誰かが追いついて来るに違いない。心配するな、お前には、第二の薬がある。第二の人が追い付いて来たときには、第二の薬を落としてやるのだ。第二の薬というのは、ほかでもない泥だ。皆が打ち揃って追いついて来たら、この泥を落とすのだ。泥を落とす頃になると、もう決勝点は間近、私はいずれそこでお目にかかるとしよう」競争の日は、いよいよ来た。今日は晴れの競争日というので、お天道様もまだ昇らぬという早朝から、水牛たちの群は四方から競争場さして雪崩れ込んで来た。『勇士』が、じっとこの壮観を眺めていると、年寄りの水牛たちはぽんと肩を叩いて、「若い奴たちは、お前さんと一つ競走をしてみたくてならんと言っている」と言った。『勇士』は、年寄りの水牛たちに伴われて、出発点の所へ来ると、若者の水牛たちは、どっと一斉に声を立てながら嘲罵(あざけり)を浴びせかけた。やがて歓声に送られて選手たちは、出発点に並んだ。その中に『勇士』の姿も見えていた。見る間に出発は切られた。と見ると矢のように飛んだ『勇士』の遥か後方には、若者の水牛たちが一団となって、慌てていた。『勇士』に追いつくまでには、悪戦苦闘をしなければならない。みるみる勢いを得た若者たちは、次第に近づいてもはやいま一足で、『勇士』を追い抜こうとした。観衆は声を立てて、浮き立ったように騒ぎ立てている。『勇士』はあの見えずの人から授かった薬を、後ろ目掛けて落とした。すると不思議に、もう一歩も走れないと思われた『勇士』は、みるみる数ある若者たちを追い抜くと、先頭に立った。見物の水牛たちは気が気ではなかった。暫くの苦闘の後、若者たちはまた肉迫して来た。けれどもこれまた、訳なく撃退されてしまった。決勝点は次第に近づいて来た。見物の水牛たちは、顔に皺を寄せて生きた心地もなかった。突然の喚声に続いて、雷のような拍手が起こった。見れば、一人の水牛は、いま『勇士』を追い抜こうとしていた。驚いた『勇士』は、はっと思って第二の薬の泥を投げた。水牛は、瞬く間にまた遥か後方に遅れてしまった。見えずの人から授かった霊薬は、もうすっかり無くなってしまった。この先は、どうなることだろう。『勇士』は、心に念じながらも、ただ懸命に走り続けている。決勝点はいま一息というところになった。すると、遥か後方にいた水牛たちも、死に物狂いの奮闘に、『勇士』の間近に迫った。『勇士』の頭の中は、熱くなって、早鐘のようになり始めた。すると、一人の水牛が群を抜いて『勇士』とはいま肩を並べて走っている。突然さっと吹いて来た一陣の強風のために、水牛たちは、最後の奮闘のかいもなく再び遅れていた。『勇士』は、見事決勝点に飛び込んだ。危なかった最後に助けてくれた者は誰でしょう。それは風だった。昨夜の見えずの人といい、霊薬をくれたり、危なかった命を救ってくれた人は、みな風だった。眼を真っ赤にしていた見物人は、がっかりしてしまって、蜘蛛の子を散らすように帰ってしまった。若者は、その後も永く水牛村に留まっていたが誰も邪魔しようとする者はなかった。『勇士』とその妻は、やがてこの水牛村を後にして、懐かしい家へ帰って来た。二人の間には、一人の子が生まれた。丸々と肥った可愛い孫の顔も見せようと言うので、一歳になると、二人は子供を連れて再び水牛村へ向かって出発した。楽しい生活は再び始まった。そして三年の後、また『勇士』の家に帰って来た。水牛の身の上の悲しさは、悪戯盛りになっても、人の子と一緒に遊ばせることはできなかった。お母さんは絶えず心配していた。あるときお母さんが台所で働いていると、そっと抜け出した子供は、外に飛び出して大勢の子供たちと遊んでいた。やがて子供たちは、わいわいと騒ぎながら水牛遊びを始めた。水牛の子供は、何気なく水牛の真似をしながら二度ほど転がると、真の子水牛に変わってしまった。驚いた子供たちは泣きながら逃げ帰ってしまった。ふと子供がいないのに気付いたお母さんは、顔を曇らせながら、子供たちが遊び戯れていた所を見下ろすと、逃げ帰って来る子供たちの姿が眼に止まった。お母さんの胸は、一層波立ち始めた。はっと思って眺めたときには、可愛い子供は子水牛となって、あたりを歩いていた。お母さんは気違いのようになって、それを連れて丘を駆け降りるが早いか自分も水牛になって、自分の村指して逃げ去った。狩から帰って来た夫は、ひっそりと静まり返っている家の様を見て、大変驚いた。そして駆けつけた他人から、自分の留守中の出来事を聞いた。半ば疑っていた夫も、丘を降って行って、妻が転がって水牛になった跡や足跡などを見ては、信じずにはいられなかった。それっきり妻と子供との消息はなったそうだ。

解説:尾長狼が水牛になる話や、人間が水牛になる話の延長であるように思う。勇士とは尾長狼のことではないだろうか。と言うのも仲間の者とは結婚しようとしなかったと言うからだ。さらには、ぶらんこで水牛を呼ぶ乙女が勇士の妻ではないだろうか。尾長狼と水牛は約束によって一つとなる定めなのだろうか。いずれにしてもこの神話はキャド―族の真髄的な話なのだろう。

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山猫のお嫁

ある夫婦者の間に、三人の息子と一人の娘とがあった。その娘というのは、それはそれは花のように美しい乙女であったが、生来大変傲慢で、群がり集まってくる若者たちは、鼻の先であしらっていた。ある日すっきりした若者が、夫婦者の家を訪れて、みなと一緒にご馳走になった。しかし、乙女には、いっこうも目もくれなかった。楽しい夕食の語らいに興じた若者は、やがて一同に挨拶をすまして帰って行った。たくさんな若者たちと交わっていた乙女にも、こうした美しい人はまだ見たことがなかった。それにしてもあの若者は他の男のように、なぜ自分に心を寄せないかと、大変不思議がっていた。夜は次第に更けて行った。寝床についても今日の若者の姿が、胸に焼き付いたようにして離れなかった。そのうちにうっとり眠りつくと、若者の姿が夢となって、眼の前に浮かび上がった。若者のりりしい姿はこちらへ歩いてくる。乙女は、思わず唇の辺に、軽い笑いを浮かべた。途端に夢は破れた。けれど疑って彼女は、なおも驚いた目つきで、嬉しそうに胸を躍らせながら、若者の近づいてくるのを待っていた。耳をそばだてて、じっと足音の近づくのを待ち設けていた。突然、心の悪戯か、何かことことと聞こえるようです。乙女は眸を静かに閉じて、神様に祈った。胸は、ますます躍っていた。恐る恐る眼を開くと、一人の若者が、いま丁度自分の上に体を曲げながら、「さあ、私と一緒にお出で下さい」と頼むように言った。乙女は、跳ね起きて、そのまま若者に伴われて、闇の中へ消えて行った。二人は、闇を縫って、ひた走りした。するといままで黙っていた若者は、乙女に向かって、「私は、まことの人間ではありません。獣です。山猫です。ね、あなた、帰りたくはありませんか。え、帰りたければ、お家までまたお供いたしましょう」と言った。乙女は「嬉しいですわ。私、あなたがどなたでしょうとも、一緒にいつまでもいたいの」と胸を押さえながら言った。「ではでは、こうしてはいられません。あなたの三人の兄弟は、もう間近に迫っていた。怒り狂ったあの方々に捕まったら、どうしよう」二人は、再び手に手を取って、走って行くと、程なく山地に来た。二人は、まっしぐらに高い山を駆け登った。山猫は、「あなたは、ちょっとここに待っていてくださいね」と言い残しながら、樹の岩の間に見えなくなってしまった。ほどなく出てきた山猫は、一層大きい山猫を連れていた。山猫は「この人は私のお祖父さんなのです」と乙女に向かって紹介した。三人は、腰を下ろしていろいろと話していた。すると突然、荒々しい声が聞こえてくる。乙女は思わず、「兄さんたちが」とささやいた。三人は、飛び上がるが早いか、森の木立の中へと駆け込んだ。その時粗々しい声は、もうすぐに後に追っていた。怒り立った三人兄弟は、むずとばかり三人に飛びついて、山猫たちに向かって叩きかかろうとした。山猫たちも人と同じにしているので、兄弟たちは、それが山猫とは少しも知らなかった。乙女は、驚きのあまり悲しそうな声を張り上げて、「まあ、兄さん、あんまりひどいわ。私、そうしなくとも時期に帰ります。お願いです、その方々を放してやってちょうだい」と言った。兄たちも仕方なく、しぶしぶ山猫たちを手放して、妹を後に残して帰った。そして一部始終を、両親に告げた。これを聞くと父親は、真っ赤になって怒りながら、「うむ、怪しからぬ奴だ。娘のやつ、見つかり次第、男諸共殺してしまうぞ」と言葉も荒々しく言い放つが早いか食べ物の用意もなく、そのまま一散に山地指して走って行った。食べ物もなく飲み物もなく眠りもせず、草をわけ木を攀じて、山の中を探しまわった。そしてさすがの父親も、足跡も見つけることができなくて、とうとう死んでしまった。

解説:これは、北アメリカ34にある七曜星の話に依拠すると思う。また、冒頭の二人はヨセフとアセナテの出会い方に似ている。ヨセフが貞操を守り抜いた理由がこの話にあるのかもしれない。

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罪の報い

この世界が出来て間もない頃は、人々も獣と一緒に話すことができ、またお互いにその住家を訪ねていた。丁度こうしたときに、ある夫婦者の間に七歳ぐらいの子供が一人あった。夫は、朝から晩まで狩りをしていなければ気持ちが悪いと言うので、人々からは猟師と言われていた。また意地の悪いお嫁さんはお嫁さんで、そうした夫の留守中が一人舞台で、子供をいじめてばかりいた。ある時お嫁さんは、「お前、よく家の留守番をしているんだよ、このぐずめ。私はちょっと用を足してくるから」と言い残し出て行った。暫くの後ひょっこり帰って来たお嫁さんは、相変わらず不機嫌な顔つきで、「一緒に来ないか、この餓鬼め」と言った。お嫁さんが初め一人で出て行ったときは、実は大きな穴を掘っていたのだった。子供を連れ出したお嫁さんは、子供の後からついて行きながら、この穴の端まで来ると、いきなりその子供を突き落とした。穴深く落ち込んだ子供は、到底上がることが出来なかった。お嫁さんは、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべながら、その穴の口に草木を被せておいた。やがて猟から帰ってきた夫は、子供のいないのを不審に思って、「おい、坊やは」と尋ねると、お嫁さんは、素知らぬ顔をして「まあ、あの子ったら仕様がありませんね。今日だって、一日中それはそれは、探し歩いたんですよ。ほんとに、どこにどうしてるんでしょうね」と答えた。急ぐ夫に急き立てられて、お嫁さんも一緒に探しに出掛けた。けれどお嫁さんは、穴の側には決して連れて行かなかったので、その足跡さえわからなかった。いよいよ不安になった夫は、妻と一緒にその夜も、その明くる日も、また、その次の日も探しあぐんだ。そのうちにお腹が空いた子供は、穴の中でわっとばかり泣き始めた。突然穴の外にあたって、怪しい物音がした。子供は怖さのあまり、はたと泣き止んで、じっと息を殺していた。すると人の話し声らしい響きがして来た。「おお、泣くな。お前さん。さぞ寂しかろう。お腹もすいたろう。よし、このおじさんがすぐ降りて行って助けてやるよ」子供は、程なく穴の外へ出ることができた。声の主は、まさしく尾長狼だった。尾長狼は驚く子供に向かって、「うん、おじさんと一緒に来ないか」と優しく尋ねた。子供は、「おじさん、有難う」とうなずきながら、その後について、尾長狼の家へ行った。三、四日は、親切な尾長狼の介抱で、楽しく過ぎてしまった。ある日子供は、急に家に帰りたくなって、「おじさん。私家へ帰っちゃいけない。私はお母さんには会いたくないが、お父さんには会いたくてたまらない。あの悪いお母さんのこと早くお父さんに話したい。お父さんは、きっと仇を討って下さる。私が家に帰ることが出来れば、お父さんとお母さんとを誘って、水牛狩りにでます。そして夕方には、水牛を一頭射倒します。そのときあなたは、お子さんを連れて来て、一緒に近くで吼えてやってください。私はお母さんを誘って、肉を狼たちにやってくださいと言います。そして私は、お母さんがあなた方の中へ入って行ったとき、後から押し倒します。そこをあなた方に殺していただきたいのです。」と言った。親切な尾長狼はすぐに承知して、子供を家へ帰してやった。ある夕暮れ、薄暗くなりかけた門口に、ひょっこり現れた子供の姿を見た父親は小躍りして喜んだ。子供は、喜ぶ父親の顔を見て、「ね、お父さん。明日は、水牛狩りに連れてってちょうだいな」と言いながら、お母さんにも一緒に行くように勧めた。その明くる日、早速親子三人打ち揃って、水牛狩りに出掛けた。一群の水牛を見つけた親子は、夕方には見事な水牛を一頭射止めた。もう日も暮れようというので、一夜はその場で過ごすことにした。野宿の準備をしている間に、お嫁さんは、夕食の支度を始めた。すると、突然悲しそうな狼の鳴声がすぐ間近で聞こえて来た。食事が終わると子供は、「ああ、可哀想に狼たちがお腹を空かせて泣いている。お母さん、一緒にお出でなさらない。肉でも食べさせてやろうではありませんか。お母さん、肉は背に担ってください」と言った。母親は何も知らないで、肉を背負うと、二人は狼の方へ歩いて行った。母親の油断を見すました子供は、いつの間にかその後ろに回っていた。あたりは、一面薄墨を流したような暗さです。母親は、それと気づくと、ぎくりと驚いた。子供は、平気な顔を見せながら、「なに、お母さん。ご心配は要りません。後ろには私が、ちゃんとついているんですからね。と言って、別に危ないものが、先に待ち伏せしているでもないじゃありませんか」二人は、そのまま進んで行くと、程なく狼の所へ来た。母親が、急にぐずぐずするさまを見て、「お母さん。大丈夫、あれは狼たちですよ。あの狼たちの中へ入り込んで、その肉をやってごらんなさい。どのくらい喜ぶことでしょう」と言った。母親は何気なく一足進んだ。その途端、後ろから突き倒したから堪らなかった。待ち構えていた狼たちは、すわとばかり四方からとびかかった。子供は、それには見向きもしないで、お父さんの側に走って来た。さおしていままでのことをすっかり話した。父親と子供との間には、それから水入らずの平和な生活が始まったのだった。

解説:お母さんは子供を穴の中に置いていく。母は狼に肉を与えるが、母の子に対する意地悪は母の浮気心からだろうか。マルコ7:24、マタイ15:26では子供のパンを子犬にあげてはいけないとある。子供から言われて狼に肉を与えるということが何を意味するか、それは子のためという言い訳があるのかもしれない。

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妬み深い夫

あるとき人々は、戦争に行こうというので、出陣の間際に、隊長を選んだ。やがて村人の歓声に送られて、戦の旅は始まった。数日間の進軍の後、隊長は八人ないし十二人の強者を選んだ。これらの人々は、本隊を離れて遥か前方に忍び出し、偵察を続けていくのだった。もし敵の姿でも見つけたら、早速馳せ帰って、このことを本隊に知らせなければならない。それから総勢打ち揃って、敵の攻撃に乗り出すことになっている。まず斥候として最初に選ばれたのは、夫婦者と言われるぐらいに親しい間柄の、二人の男だった。一人の方は、もう結婚していたが、もう一人の方は、まだほんの独り身だった。二人は、打ち揃って偵察に出掛けた。野山を越えて二マイルほど進んでいく中に、山と思われるほどの丘に出くわした。この丘の上に登れば、あたり一面は、真下に見下ろすことができる。二人は、頂上に着くと、ふと頂上の岩に大穴が開いているのに気付いた。古井戸のように見えたので、二人は、恐る恐る覗き込んだ。なるほど遥か底の方には、水が光っている。結婚した男がこれを見ると、喉元を押さえながら、さも堪らないような風をして、「溜らん。ありゃ水だ。一つ、降りて行って、水を汲もうじゃないか」と言った。彼は、冷たい水に焼けつくような喉元を潤したい一心で、長い水牛の皮で作った繩を伝って、下って行った。水を汲み取った彼は、上に向かって、引き上げる合図を出した。けれど上に行った友達はふと悪心を起こして、かえってその繩を井の中へ投げ捨てて、逃げ去った。そして陣地に帰って来て、隊長に向かって、「隊長、不幸にも私たちは、敵から発見されて、そのためにもう一人は、遂に殺されてしまった」と真しやかに述べ立てた。その頃の出陣の習慣として、正々堂々と野戦で敵と出会うまでは、どこまでも進軍を続けることになっていた。けれども、出征軍のうち、誰か一人でも病死したり或いは殺されたりするような事故が起こったときは、敵と戦うことを止めて、みんな家を指して引き揚げるのだった。いま隊長が、斥候の一人の話を聞くと、今までの陣地は、見る間に壊してしまって、早速家を指して引き揚げることにした。やがて出陣軍は、しずしずと帰って来た。部落の入口にかかった隊長は、使者を四方に飛ばせて、全部落の人たちに集まるように命じた。そして大勢の人々を前にして、出陣後の出来事を話した。一方、穴に落とされた男は、数日の間食べ物もなく、苦しみ悶えていた。時々鳥の姿が空に見えると、ありったけの声を張り上げて、救いを求めた。けれども鳥たちはそれには気も付かずに、悠々と空をかすめて飛ぶばかりだった。穴の中に閉じ込められて、今日はもう九日という日だった。ふと鳥の姿を見つけた男は、悲しそうな細い声で救いを求めた。鳥は穴の上目掛けて舞い降りて来た。けれどもまたすぐに舞い上がった。男は泣きそうな顔をして、懸命に救いを呼んだ。その鳥は、一度二度と穴の上を空しく飛び去っては、また飛んで来るのだった。丁度四度目に地上に舞い下ったその鳥は、穴の縁の所に歩んで来て、覗き込んだ。中には、男が苦しそうにして、助けを呼んでいた。その鳥は黒鳶(くろとび)だった。黒鳶は、「さあ、私が来たからには、もう心配なさるな。だが、ちょっとお待ち。いや、なに、家へ帰って薬を持ってじきに帰ってくるから」と親切な言葉を残しながら、舞い上がって行った。程なく急いで帰って来た黒鳶は、一息に穴の底まで舞い下って、「遠慮はいらない。お前さん家へ歩いて帰れるようになるまでは、まあ、ゆっくり私の家で、養生しなさるがいい。何はともあれ、両眼をつぶって、一歩踏み出しなさい。」と言った。男が、言われた通りに一歩踏み出すと、丁度黒鳶の背に乗った。やがて黒鳶はさっと、穴から舞い上がった。「さ、もう目を開けていいですよ」こう言われて、いままでつぶっていた両目を、ぱっと開いた。そのときは、もう再び地上に着いていた。悩み疲れた男は、足を運ぶ元気もなかった。見かねた黒鳶は、再び男に両目をつぶらせて、空高く舞い上がった。男が、しきりに目を開こうとしているのを早くも見つけた鳥は、「そいつはいけない」と言っている最中に、黒鳶の住家に着いた。親切な介抱に、数日は過ぎてしまった。あるひ黒鳶が、男に向かって、「どうだい、私の仲間に会いたいかな」と尋ねた。男は、願うように、「会いたいです」と答えた。黒鳶に呼ばれて、そこに行ってみると、黒鳶は、すぐそばの小さい部屋を開いて、これ見ろと言わぬばかりに指した。そこには沢山な黒鳶の人たちがいた。それから二日たつうちに、男も少しは歩き廻ったり、何か仕事でもできるようになった。すると黒鳶は、「少しは、達者になったようだな。じゃあ一つこれからお前の家まで連れてってあげよう。実は、あのお前さんの友達と言うのが、大変お前さんを妬んでいるんだよ。お前さんをひどい目に遭わせたのも、つまりお前さんの美しいお嫁さんを手に入れたいがためばかりさ。じきこれかr、すぐに出発とするかな。日暮頃には、お前さんの家に着くことができる。家の近くのあるところまで行ったら、お前さんを自由にしてあげるよ。そうすれば、すぐ近くのあの友達の家からは、友達の歌声が聞こえて来るに違いない。お前さんが、ひょっこり家に帰って来れば、いっぱい集まっている村人たちは、どのくらい驚き騒ぐことだろう。そこで、お前さんは、すぐにみんなが声一つ立てないように、注意してやらねばならない。お前さんの妹も、そこにはいられるはず、早速あの友達のお嫁さんを連れて来てくれと、頼むのだよ。妹さんは嫌がるどころかすぐに連れて帰ってくるからな」と懇ろにいって聞かせた。二人は、いよいよ出発した。男は、言い遣った通りに両目を閉じた。暫くたつと、黒鳶は、「よろしい。両目を開きなさい」と言った。両目を見開くと、すぐ近くから歌声が聞こえて来た。それは、紛れもなく自分を苦しめたあの憎い友達の声に相違なかった。それから程なく家も間近になったのでしょう。黒鳶は「私の背から降りた」と言った。男は、嬉しさに胸を轟かせながら、久しぶりに我が家の門を潜って、中に入って行くと、早くも見つけた妹は、懐かしさのあまり駆け寄るが早いか、大声で泣き始めた。男は「妹、静かに。声を立ててはならない。達者でよかった」と泣き崩れようとする妹を手で押さえながら、悪い友達のために苦しめられたこと、親切な黒鳶に助けられたことなど、そっと囁きながら物語った。「妹、それからおまえにもお願いがあるのだ。これからすぐ行って、それ奴の妻になっている、あの女を連れてきてはくれないか」と言った。兄の言葉に妹は走るように出て行って、お嫁さんを誘い出した。程なくお嫁さんは妹に連れられて、家に入って来た。そこには、死んだとばかり思っていた今の夫の友達が、大勢の人達の間に混ざって、座っていた。これを見たお嫁さんは、もうすっかり悪い今の夫が嫌になって、いつまでもいつまでもこの家に住むことになった。男は涙ながらに、いままでの出来事を隊長と酋長とに打ち明けた。こういうことがあってから、村人が打ち揃って水牛狩に出掛けると、男の身辺には、いつも二、三人の村人たちが、付きまとっていた。それは、男が、誰か他の人を殺しはしないかという心配があったからです。そのうちには人々にも、水牛狩に出ると、男はまず最初の一頭を倒して、ちょうど自分で食べでもするように、肉を裂いたり調理したりすることに気づいた。けれども彼は、決して食べるのでもなく、裂いた肉片を人々に振舞うように、ばら撒くのだった。なんのためにするのか、人々には不思議でならなかった。こうして最初倒した一頭の肉を裂いて撒いてしまうと、続いてなお他の一頭を見つけては倒す。そしてこの肉を、彼は家に持ち帰るのだった。度重なるうちには、人々も不思議のあまりいろいろと尋ねていた。けれども彼は、口を閉じたまま一言も答えなかった。ある日叔父さんが来ていろいろと尋ねた。今まで黙っていた彼も、「妻は長い間の道連れです。どこまでも一緒に暮らして来た。もし私が死ぬようなことがあったら、その時は、妻の最期のときでもありましょうからね」と寂しく口を開いて言った。

解説:黒鳶は何者なのだろうか。14の話では乙女を天界から下ろす役を買っている。男は妻を取られ、その後再び妻が戻ってきたが、男は情緒不安定だったのだろうか、村人たちは常に男について回ったとある。そして最初に料理した水牛は誰へのものか、それは妻がまだその思いを持っていた頃の霊だろうか、その霊は友人と床を共にする内に妻の内を離れたのかもしれない。そして妻は別人になり、霊は今だに昔のまま男の隣に現れているのではないだろうか。

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大亀の背

あるとき人々が、部落を畳んで、よい住家を見つけようと、旅を続けていた。長い旅の後、とある海辺に出た。そこには、誠に平たい大岩があった。そこで、人々は附近を住家として、この岩を踊り場と定めた。御飯より踊り好きな人々が、その後この岩の上で、毎夜踊り狂ったことは、言うまでもなかった。けれども、村の人たちが、みな出そろうことはまだなかった。ある時使者が、村中を駆け回って、大舞踏会を開くことを、告げて歩いた。人々は、我勝ちに海辺の岩指して集まって来た。涼しいそよ風は、遥か沖合の彼方から、吹いてきて、人の心を浮き立たせるように誘う。男も女も年寄りも若者も、互いにもつれ合いながら、足触りも滑らかな平たい大岩の上で踊り始めた。突然下の大岩は徐に動き始めた。驚いた人々は、今までの踊りの楽しみはどこへやら、下の岩をじろじろと見つめていた。すると程なく、大きな石のような頭が岩の下からのそりと出て来た。やがて四本の足が、ぬっと現れて来た。人々は、真っ青になって、がたがた震え出した。今まで大岩と思っていたのは、実は、大亀の甲羅だったのです。慌てた人々はあらん限りの声を張り上げて、助けを呼んだ。亀は人を載せたまま、ざぶざぶと海の中指して入り込んで行った。救いを求める声が聞こえなくなった頃には、もう亀の姿は、物凄いほど青い水の中に消えてしまって、泡立つ海の中からは、ときどき溺死した人々の死体が、浮き上がってくるのだった。

解説:この神話は竜宮城、又はベトナムの神話に見える海の底の王国を思わせる。浦島太郎はこの亀に乗って竜宮城まで行ったのだろうか。

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ヒアワサ物語

ヒアワサの生立ち

北アメリカインディアンの間に生まれた英雄児ヒアワサの物語は、その父ムジェキーウィスから始めなくてはならない。オジブウェー族のムジェキーウィスは、非常に勇敢な男だった。その頃大きな熊がいて、あらゆる部族の人たちを悩ましていた。ムジェキーウィスは、この大熊を退治しようと思って、山の中に分け入った。そして苔むした岩のように大きな体をして眠っていた熊のそばに忍び寄って、棍棒を振るって叩き殺したのだった。ムジェキーウィスは、大熊を倒して人々の苦しみを救った報いとして、東西南北の四つの風を支配するようになった。しかし、彼は西風だけを自分のものにして、他の風は、三人の息子に分かち与えることにした。東風を与えられたのは、若くて美しくて、曙のような頬をしたワブンであり、南風を与えられたのは、太って怠けて、南国の果実と日光との中に、始終夢見るようにのらりくらりしている、シャウォンダシーであり、北風を与えられたのは、気が荒く猛々しくて、いつも氷山の間に住んでいるカビボノッカであった。あるとき、ムジェキーウィスが、広い野原を歩き廻っていると、一人の美しい乙女を見つけた。乙女の名はウェノナーといって、月の娘ノコミスの子だった。ムジェキーウィスはこの乙女を娶って、暫くその家に留まっていたが、やがてまたどこともなく立ち去ってしまった。その後で美しい乙女ウェノナーは、一人の男の子を産んだ。それが、この物語の主人公となるヒアワサだった。ウェノナーの家は、シューペリオル湖の端に立っていた。ウェノナーは、菩提樹の枝を馴鹿(となかい)の腱で結び合わせて、可愛い揺り籠をこしらえた。そしてその中に燈心草や苔を敷いて、その中に赤ん坊のヒアワサを寝かした。すると、お祖母さんのノコミスが、静かにそれを揺り動かしては、お守りをしたり、眠らせたりするのだった。ヒアワサはすくすくと生い立って、立派な少年となった。彼は、あらゆる鳥や獣を友達にして、その名を覚えたり、その鳴き声を真似したり、その寝所を見つけたりして楽しい日を送っていた。そうしているうちに、狩をしたいという望みが、少年の胸に湧いて来た。ある日ヒアワサは、ノコミスの友達の旅人イアグーがこしらえてくれた小さい弓矢を手にして、森の中に分け入った。そして美しい角を生やした小鹿を見つけて、矢を射放つと、狙いたがわずその心臓を貫いて、その場に倒した。ヒアワサは誇らしげにそれを担いで帰って来ると、お祖母さんのノコミスがたいへん喜んで、鹿の皮を剥いで、ヒアワサのために立派な着物をこしらえてくれたり、村中の人たちを呼び集めて、盛んな饗宴を催してくれたりした。

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父子の猛闘

だんだんと年月が過ぎて、ヒアワサは一人前の男となった。足が速くて、力が強くて、あらゆる技に長けているばかりでなく、優れた知恵の持主となった。ヒアワサは、お祖母さんから、お母さんを見捨てて立ち去ったムジェキーウィスの話を聞くと、「では、私は西風の国に訪ねて行って、まだ見ぬお父さんに会うことにしましょう」と言い出した。お祖母さんは驚いて、「およしなさい。父子の間に諍いでも起こると、たいへんだから」と言って、しきりに引き止めた。しかし、ヒアワサはその言葉を耳に入れないで、美しい装いをして、狩の道具を手にして、湖の端の家を出た。彼の足に穿いている鹿革の靴には、魔力がこもっていて、一跨ぎに半里も歩けるし、手にはめている手袋にも、不思議な徳が備わっていて、大きな岩でも微塵に打ち砕くことができるのだった。ヒアワサは、どんどん道を急いで、ロッキー山脈にさしかかった。するとお父さんのムジェキーウィスが空に漂う白雲のように頭髪を吹き流させながら、高い岩の上に腰掛けていた。ムジェキーウィスは、自分が若いときのような、気高くて丈夫な体と、美しい乙女ウェノナーそっくりの顔立ちをした若者を見ると、すぐに自分の息子であることを悟った。で、懐かし気な声をして、「さあ、私の側に腰を下ろすがいい。私はそなたの父のムジェキーウィスだよ」と言った。ヒアワサは、お父さんの側に腰を下ろして、様々のことを話し合っていたが、やがて、「お父さん、この世の中には、あなたが怖いと思うものは何もありませんか」と尋ねた。ムジェキーウィスは「そうだね、ウォービークという、向こうにある黒い岩の他には、怖いと思うものはないよ。そしてお前はどうだね、何も怖いものはないのかね」と言った。ヒアワサは「そうですね、私にも、向こうにあるアプクワとい蒲草のほかには、怖いと思うものもありませんね」と答えた。それを聞くと、ムジェキーウィスは、すぐに手を伸ばして、向こうに生えていた蒲草を折り取ろうとした。とヒアワサは、わざと非常に驚き恐れたような顔をして、「どうか、そんなことをしないでください」と言った。ムジェキーウィスは蒲草から手を放して、ヒアワサの三人の兄ワブン、シャウォンダシー、カビボノッカのことや、美しい乙女ウェノナーのことなどを話し出した。ヒアワサは、お母さんの名を耳にすると、その昔、ムジェキーウィスがすげなく彼女を見棄てたことを思い出して、怒った言葉つきでお父さんを責めた。ムジェキーウィスは、我が子の言うことが正しいので、白髪の頭を垂れたまま黙り込んでしまった。ヒアワサは腹立ちまぎれに、手袋をはめた手で黒い岩を殴ると、たちまち粉々に砕けた。それを摑んで、お父さん目掛けて投げつけたが、ムジェキーウィスは鼻から吹き出す息で、それを八方に吹き飛ばしてしまった。そして蒲草を摑んで根こじにしたが、ヒアワサはただ笑っているだけだった。こうして父子の間に、激しい闘いが始まった。山という山は、二人が踏みしめる力足に鳴りどよめき、鷲という鷲は驚き恐れて、二人の頭の上でけたたましく啼き叫んだ。闘いは三日三晩続いた。そしてとうとうヒアワサは、お父さんを西風の国の入口に追い詰めた。ムジェキーウィスは、大きな声を出して、「もう手を引くがいい。そなたは私を殺すことはできない。私は不滅の命を持っているのだ。私は、そなたの力量を試そうと思って、こんな争いをしただけだよ。早く国に帰って、私が若い時に大熊を倒したように、人々の苦しみの種となるものを退治しておくれ」と言った。ヒアワサの心は初めて柔らいだ。そしてお父さんの言葉に従って、自分の国に帰ることにした。ヒアワサは、途中でミネハハ滝(笑う水)のそばに住んでいる年を取った矢づくりの家に立ち寄って、たくさんの鏃を買い込んだ。矢づくりには、一人の乙女があった。滝の名を取って、ミネハハと呼ばれていた。ミネハハは、輝く涼しい黒目がちの眼をした麗しい乙女だった。だから、ヒアワサが矢づくりの家に立ち寄ったのは、あながち鏃を買い込むためばかりではなかったかもしれない。それはともかくとして、ヒアワサは、火打石や碧玉(ジャスパー)でこしらえた沢山の鏃を携えて、シューペリオル湖の端にある自分の家に帰りついた。

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玉蜀黍の起源

ヒアワサは熟練な狩人でもあり、大胆な戦士でもあったが、彼が心に掛けたのは、狩猟や戦争よりも、むしろ、どうして人々の生活を安らかに楽しくしてやろうかということだった。で、お父さんに会って帰った後で、シューペリオル湖のはたに一軒の小屋をこしらえて、その中に閉じ籠った。そして幾日も断食を続けて、『生命の主』のマニトーに、「どうか人々を安らかに楽しく暮らさせる手段をお教えください」と熱心に祈った。最初の日には、ヒアワサは、森の中をあちらこちらと歩き回った。鹿や兎や雉(きじ)や鳩などが、その足音に驚いて、ここかしこから飛び立った。ヒアワサはじっとその行方を見つめながら、「みんなが、あんな鳥や獣だけで命をつないでいるということは、ほんとに悲しい事だ。冬になって、雪が深くて、鳥類が暖かい所に逃げ出してしまったら、飢え死をしなくてはならない」と考えた。二日目は、川端の草地を歩き回った。野生の稲や葡萄などが茂っていた。ヒアワサはそれを眺めながら、「もし時候が悪くて、こんなものが生えなかったら、人々はどうするだろう」と考えて、悲しくなった。三日目には、湖のはたに座り込んで、水の中に泳ぎ回っている魚を眺めながら「漁がうまくいかなかったら、人々は飢え切ってしまうだろう」と考えた。しかし、四日目の日の入り方に、ぼんやりと断食小屋の中に座り込んでいると、黄金色の頭髪をして、緑と黄との衣をまとった一人の若者が、戸口の所に現れた。そしてヒアワサに向かって、優しい口調で、「お前の祈りは聞き届けられたよ。自分一人の利益を図るのではなくて、みんなの幸福を図ろうという祈りだからね」と言った。ヒアワサは驚き喜んで、「あなたはどなたです」と尋ねた。若者は「人間の友達で、モンダミンというものだよ。マニトー様がお前の祈り求めているものを授けるために、私をお遣わしになったのだ。でも、ただでお授けにはならない。お前は立ち上がって、私と取り組まなくてはならないよ」と言った。ヒアワサは、永い間断食をしていたので、身体が衰え切っていた。しかし、人々のためだと思って、気を励まして、若者に飛びかかって行った。そして一生懸命に組み合っていると、だんだんと強い力が湧いてきた。そのうちに太陽が沈んでしまって、あたりが真っ暗になった。すると、若者がにこりと笑って「今日はこれでたくさんだ。明日になったら、お前の力を試すためにまたやってくるよ」と言ったかと思うと、どこともなく姿を隠してしまった。次の日も、またその次の日も、若者が現れて来ては、ヒアワサと激しく揉み合ったが、どちらが勝つとも見えなかった。三日目の夕方になると、若者モンダミンは、激しい争いの後で、喘ぎ喘ぎ、「明日こそ、いよいよ最後の取り組みをするんだよ。お前が多分私を負かしてしまうんだろうと思うが、そしたら、私のために大地の中に床をこしらえてもらいたい。雨が降りかかって、日の光が当たるところにね。そして雑草や虫や鳥などによく気を付けていてくれると、私はやがて目を覚まして、日の光の中に現れるんだよ」と言って、また姿を隠してしまった。ヒアワサは、森の樹の葉のさやぎを聴きながら、安らかに眠った。明くる日になると、お祖母さんのノコミスが断食小屋に食べ物を持って来た。そして、「さあ、これをお食べ。あまり永く何も食べないでいると、体が弱って死んでしまうよ」と言ったが、ヒアワサは、食べ物には手も触れないで、「お祖母さん、日が暮れるまで待って下さい」と言っただけだった。お祖母さんは、心配そうな悲しそうな顔をして帰って行った。日が暮れかかると、若者がいつものように現れて、戸口の所に突っ立ったまま、小屋の中のヒアワサを差し招いた。ヒアワサは、痩せ衰えた体を起こして、いきなり若者に躍りかかって行った。凄まじい闘いが始まったが、暫くすると若者は頭髪を乱したまま、ヒアワサの足元に倒れて息が絶えた。ヒアワサは痛ましそうな目つきで、それを見下ろしながら息を切らせて、緑の野に突っ立っていた。しばらくすると、ヒアワサは若者に教わった通りに、緑と黄との衣を剥いで、若者モンダミンンの体を柔らかな土の床に横たえた。そしてその上に軽く土をかぶせて、シューペリオル湖のはたの我が家に帰って行った。ヒアワサは、凛々しい若者のことを忘れかねて、日ごとその墓を訪れた。墓の上には、雨が降りかかったり、日が照ったりしていた。暫く経つと、墓土の中からたくさんの小さい緑の芽が生えだしてきた。緑の芽はぐんぐん大きくなった。そして夏の末になると、モンダミンの衣のように緑と黄とに光り輝く玉蜀黍となった。ヒアワサは、あまりの嬉しさに、大きな叫び声を立てた。そしてお祖母さんのノコミスと、その友達のイアグーとを、そこに引っ張って来て、今までの出来事をすっかり話して聞かせた。秋になると、玉蜀黍の緑の葉が黄色に変わって、見事な実がなった。ヒアワサは人々を呼び集めて、「喜んでおくれ。みんなの食べ物がやっと見つかった。」と言った。そして、みんなと一緒に最初の玉蜀黍の饗宴を開いた。

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怪魚退治

気持ちのいい春が帰って来ると、ヒアワサは一隻の丸木舟を作った。杉の木をえぐって、船の形となし、白樺の皮を剥いで、それを落葉松の繊維で舟の外側に縫い付け、樅の木の樹脂(やに)を取って、合わせ目に塗り付けると、樹の洞に眠っている針鼠の所に行って、「お前の針毛をおくれ。舟の飾りにするから」と頼んだ。針鼠は快く承知して、たくさんの針毛をくれた。ヒアワサは、草の根や木の実の汁でそれを美しい色に染めて、見事に組み合わせて、船首の飾りとして、また胴の所に星の印をつけた。こうして出来上がった船は、水連のように河に浮かんだ。ヒアワサは、友達のクワシンドと一緒にそれに乗り込んで、河を上ったり下ったりしては、水の底に沈んでいる枯れ木や、生い茂っている水草や、盛り上がっている砂洲をとりのけて、人々のために、河口までたやすく往来することができるようにしてやった。ある日、ヒアワサは、丸木舟をシューペリオル湖に浮かべた。船首には、彼の愛している栗鼠が、ちょこっと座り込んでいた。ヒアワサは、ただの魚を捕らえるために、船をこぎ出したのではなかった。彼が狙っているのは、あらゆる魚族の王のミシェナーマという大きな鮫でした。ミシェナーマは、鎧のように堅くて、鮮やかな条や斑の入った甲をしている恐ろしい怪物だった。湖の真ん中に舟をこぎ出したヒアワサは、澄みきった水を通して、湖の底の白い砂の上に横たわっているミシェナーマの姿をありありと見ることができた。ヒアワサは、餌をつけた糸を水の中に落としながら、「魚族の王よ、私の餌についてくれ、私とお前との力比べだ」と独り言を言った。しかしミシェナーマは、ヒアワサの挑戦に応じなかった。怪物は、マスケノザという手下の魳(かます)を呼んで「お前行って、あの法螺吹きの釣り糸を引きちぎって来い」と言いつけた。マスケノザは激しく釣糸を引っ張って、丸木舟をほとんど逆立ちにさせた。しかし、ヒアワサは落ち着き払って、マスケノザが水面に現れるのを待って、「お前は私の相手ではない。早く帰れ」と言って、水底に追い返した。怪物は、さらにウグドワッシュという手下の翻車魚(まんぼう)を呼んで、「お前行って、あの法螺吹きの釣り糸を引きちぎって来い」と言いつけた。ウグドワッシュは、激しく釣糸を引っ張って、丸木舟を水車のようにくるくると回らせた。しかし、日淡さは、平気な顔をして、「お前は私の相手ではない。早く帰れ」と言って水底に追い返した。そして大きな声で、怪物ミシェナーマに呼び掛けて、「魚族の王よ、木っ端野郎をやらないで、自分でやって来い」と挑みかけた。それを聞くと、ミシェナーマは大変怒って、いきなり湖の面に踊り出してきた。そして大きな顎を開いたかと思うと、たちまち舟もろともにヒアワサを飲み込んでしまった。あっと言う間もなく、怪魚の腹の中に真っ逆さまに落ち込んだヒアワサは一時は驚き慌てたが、やがて気を静めて、真っ暗で、じめじめした怪物の腹の中を、手さぐりにあちらこちらと歩き廻った。そのうちにびくびくと動いている大きな心臓を見つけたので、拳を固めて、力いっぱいに殴りつけた。ミシェナーマは苦し紛れに、懸命に狂いまわり始めた。ヒアワサは、ともすれば投げ出されそうになる足を踏みしめながら、丸木舟を横にして、その両端を怪魚の腹の中に突き付けた。うっかりすると、激しい勢いで吐き出されて、微塵に体を砕かれてはならないと思ったからだった。船首にとまっていた陽気な栗鼠は、ヒアワサに力を合わせて、精一杯に舟を引っ張ったり、面白いことをしゃべって元気をつけてくれたりした。ヒアワサは、栗鼠の心づくしを大変嬉しがった。そうしているうちに、さしもの怪魚も力が尽きて、のたうち回ることを止めた。息の絶えたミシェナーマの大きな体は、波に揺られて、次第に岸の方に漂って行った。しばらくすると、ヒアワサは、怪物の腹の中で、どしんという大きな振動と、小石の上に物の擦れ合う高い音とを感じた。「ミシェナーマの体が岸に流れ着いたな」ヒアワサがこう呟いたかと思うと、やがて騒がしい鳴き声と翼の音とが響き渡り始めた。海鷗(かもめ)が大鮫の肉を貪り食おうと思って、彼方此方から群がって来たのだった。幾千と集まった海鷗どもは、ミシェナーマの屍にとまって、我勝ちに嘴と爪とでその肉をつついたり、引き裂いたりしたので、間もなくかいびょの胴に大きな孔が開いた。途端に明るい日の光が流れ込んだ。そしてヒアワサは、海鷗が、輝く眼で自分を見つめて、お互いに、「やあ、中にいるのは、兄弟のヒアワサではないか」と話し合っている声を聞いた。ヒアワサは嬉しそうに海鷗どもに声をかけて、「おお兄弟たち、私は魚族の王をやっつけたよ。胴の穴をもう少し大きくしておくれ。早くこんな嫌な所から飛び出したいんだから。お前たちは、私を助けるために働いてくれたんだから、お礼に、お前たちにカヨシュク『気高い㧓手(かきて)』という名をつけてやるよ」と言った。海鷗たちは、喜んで怪魚の胴に開いている穴を大きくしてくれた。穴から飛び出したヒアワサは、お祖母さんのノコミスがすぐそばに立っているのを見つけた。ヒアワサはお祖母さんを招き寄せて、誇らしげに怪魚の屍を指しながら、いままでの出来事を詳しく話して聞かせた。お祖母さんは、ヒアワサの勇ましい働きにすっかり感心したが、海鷗の鳴き声があまり喧しいので、彼らを追い退けようとした。すると、ヒアワサはそれを押し止めて、「私の友達は、久しぶりでご馳走にありついているのです。腹一杯に食べさせておやりなさい。日がくれて、海鷗どもが帰って行ったら、鍋や壺を持って来て、ミシェナーマの肉から脂を取ってください。冬の間に使いたいんですから」と言った。日が沈んで月が昇って来ると、ヒアワサは自分の家に帰って、ぐっすり寝込んだ。お祖母さんのノコミスは、家の中にあるだけの鍋や壺を怪魚の側に運んだ。そして明るい月の光に照らされながら、夜が明けるまで、一生懸命になって、大鮫の肉から油を取った。こうして昼間は、数千の海鷗が肉をつつき、夜は、ノコミスが懸命になって油を取ったので、三日三晩たつと、さしもに大きな魚族の王も、すっかり骨ばかりになって、打ち寄せる波に洗われながら、空しく砂の上に横たわるようになった。

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ヒアワサと魔法使い

若い英雄のヒアワサは、お父さんのムジェキーウィスがいった「人々の苦しみの種になるものを退治しろ」という言葉を、片時も忘れることが出来なかった。その頃シューペリオル湖の周りにはたくさんの巨人や魔法使いが住んでいて、絶えず人々を悩ませていた。その中でも、メギソグオンという魔法使いは、西の方一帯の沼地を我物にして、宏大な御殿に住み、悪気を送り出しては、人々の間に熱病やその他の悪い病気を流行らせていた。そればかりではなく、メギソグオンは、ヒアワサのお祖母さんにとって、忘れがたい仇敵であった。お祖母さんのノコミスは、乙女の頃、天上界に住んでいたが、ある日、葡萄の蔓でこしらえたぶらんこに乗って遊んでいるうちに、ふと足を踏み外して、遥か下なる人間界に落ちて来たのだった。それ以来ノコミスは、大地の上に住むことになったので、月世界にいるお父さんが、ある時ははるばると会いに来ると、魔法使いのメギソグオンが、それを欺いて殺してしまったのだった。ノコミスは、心からメギソグオンを恨んで、永い間どうにかして仕返しをしたいと思っていたが、悪賢い魔法使いなので、手の付けようがなかったのである。しかし、今や自分の孫に偉い英雄が現れたので、その手を借りて、つもる恨みを晴らそうと決心した。ある日、太陽が沈みかけた頃、ノコミスはヒアワサを湖の端に連れ出した。そして遥か彼方の空に聳え立っているメギソグオンの宮殿を指して、「あの家に住んでいる魔法使いこそ、人々の敵であり、私のお父さんの仇です。お前が男なら、どうしてもあの悪者を殺さなくてはなりません」と励ました。ヒアワサはすぐに武装して、樺の丸木舟に乗り込んだ。そして慈しむようにその胴を叩きながら、「わが舟よ、向うの真っ黒い水に、水のような蛇が遊び戯れているだろう。さあ、あそこまで一飛びに飛んで行っておくれ」と叫んだ。丸木舟は、主人の言葉が分かったように、すさまじい勢いで滑り出した。舟の中のヒアワサが、嬉しそうな顔をして、戦いの歌を歌い出すと、空を飛んでいた鷲どもがそれに応じて、声高に叫んだ。間もなく舟は、真っ黒い水の淀んでいる所に来た。そこには夥しい大蛇どもが、うねったり、もつれたり、輝く頭を持ち上げたりして、炎と毒気とを吐いていた。ヒアワサは蛇どもに声をかけて、「どうかここを通しておくれ」と言った。しかし毒蛇どもは、凄まじい音を立てて、「駄目だ、引き返せ。臆病者の、老いぼれのノコミスの所に引き返せ」と答えただけだった。それを聞くと、ヒアワサは火のように怒りだして、弓を取り上げるなり、雨のように矢を放ったので、しばらくすると、毒蛇どもは一匹も残らず射殺されて、いままで黒ずんでいた水が、その血潮で真っ赤になった。「進め、舟よ」ヒアワサはこう叫んで、蛇の屍をかき分けて舟を進めた。船は波をきり波に乗って、夜もすがら西へ西へと進んで行った。とろとろと燃えている鬼火が、舟のあおりを受けて、物凄く揺らめいた。ヒアワサの背の方から、太陽がぬっと現れたと思うと、向う岸にメギソグオンの宮殿がはっきりと見えて来た。宮殿は、日の光を受けて、眩しいほど煌めき渡っていた。ヒアワサはささやくように、「進め、もう一息だよ」と言った。と丸木舟は、たちまち空に躍り上がって、生い茂る葦を飛び越えて浜辺に乗り上げた。ヒアワサは、光り輝く宮殿を目掛けて、一本の矢を射放った。「早く出てきて、私に会うがいい」という心を表したのである。魔法使いのメギソグオンはすぐに出てきた。彼は、背が高く、色が黒くて、すごい顔をして、頭から足まで貝殻玉をつけて、鷲の羽根でこしらえた大きな頭飾りを纏っていた。メギソグオンは、嘲るような声音で、「お前は、ヒアワサだね。私はちゃんと知っているよ。臆病者め、早く引き返せ。そんなところにぐずぐずしていると、命がなくなるよ。ノコミスの父親も私の手にかかって、死んでしまったんだぞ。今のうちに早くノコミスの側に引き返せ」と叫んだ。しかしヒアワサはびくともしないで、「大きな口をきいたって、棍棒ほどの痛みもないよ。自慢は止しておくれ。大切なのは働きだよ」と言い返した。こうして、二人の間に激しい闘いが始まった。ヒアワサは、しきりに矢を射かけた。大きな棍棒で打ってかかった。あらゆるものを微塵に砕く手袋で殴りつけた。しかし、メギソグオンは平然としていた。彼の体にまとっている貝殻玉の肌着には、不思議な魔力がこもっていて、どんな武器をも役に立てなかったのだった。闘いは、永い夏の日の朝から晩まで続いた。日が暮れかかる頃になると、ヒアワサは苦しさに喘ぎながら、「どうしたらいいだろう。いよいよ俺の最期が来たのかな」と考えていた。すると、松の木に止まっていた一羽の啄木鳥が、出し抜けに、「メギソグオンの頭を狙って、矢をお放ちなさい。その魔法使いの体のうちで、傷つけることができるところは、長い黒髪の根元だけですよ。そこをお狙いなさい。そうすればそいつに打ち勝つことができますよ」と叫んだ。途端に、メギソグオンは、ヒアワサに投げつけようと思って、身をかがめて、大きな石を抱え上げ始めた。啄木鳥の教えを聞いたヒアワサは、魔法使いの頭髪の根元を狙って、一本の矢を射放った。矢はあやまたずメギソグオンの額に深く突き刺さった。メギソグオンは、けたたましい叫び声をあげて、よろよろと倒れ掛かった。しすましたりと、ヒアワサは、矢継ぎ早に他の二本を飛ばした。二本ともメギソグオンの額をぐさと貫いた。さすがの魔法使いも今は堪り兼ねて、大地に倒れるなり、息が絶えてしまった。ヒアワサは、啄木鳥の親切な教えによって、危ない命を助かったのであった。そして、魔法使いの息が切れたのを見届けると、すぐに啄木鳥を自分のそばに呼んで、その頭に生えている毛を血潮で美しく染めてやった。こうして啄木鳥は、今日でも頭の上に真っ赤な毛を生やしている。ヒアワサは、メギソグオンの体から、貝殻玉の肌着を剥ぎ取って、その大きな屍を水と陸との境に放り出したまま、また舟に乗り込んで、自分の家に帰って来た。人々は、恐ろしい魔法使いが滅びたのを大変喜んで、ヒアワサのために盛んな饗宴を催した。

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美しい乙女との結婚

ヒアワサは、人々の幸福を図るために、絶えず命がけの働きをしていたが、その間にも、ミネハハ滝の側に住んでいる、ダコタ族の乙女を忘れることが出来なかった。お祖母さんのノコミスは、りりしい姿をしたヒアワサに早くお嫁を取らせようと焦っていた。ノコミスは、「自分の大事な孫には、他の部族の女をお嫁に取らせたくない。ぜひ同じ部族の女でなくてはならない」と考えた。だから、ある日ヒアワサに結婚を勧めながら、「隣近所の娘は、炉石の上の火のように温かいが、見知らぬ娘はどんなにきれいでも、月や星の光のように、冷たいものですよ」と言った。しかし、ヒアワサの胸に宿っていたのは、ミネハハ滝の側に住んでいる乙女でしたので、お祖母さんの言葉に反対して「お祖母さん、炉の火は気持ちのいいものです。でも私は、星の光や月の光がもっと好きですよ」と言った。お祖母さんは「私は、怠け者を嫁に持ちたくない。嫁を連れてくるなら、しっかりした働き者を連れておいで」と言った。ヒアワサは、美しい乙女ミネハハの話をして、「私は、ミネハハを連れてくるつもりです。あの乙女はかいがいしく働いてくれるに違いありません。そして私たちにとって、星の光、月の光となるばかりでなく、また炉の火ともなってくれますよ。いや人々のためにも、太陽の光となってくれると思います。」と言った。お祖母さんは「でも、ダコタ人は、なかなか気が荒いんだよ。今までだって、私たちはたびたびダコタ人と戦争をしたことがあるからね」とまだ気が進まないような顔をしていた。ヒアワサは笑い出して、「それじゃあ、なおさらダコタの乙女と結婚した方がいいと言うことになるじゃありませんか。私たちの結婚が基になり、私たちの部族とダコタ人とが、古い恨みを忘れてしまうように努めるのが、大事だと思いますね。」と言った。こうしてヒアワサは、ダコタの美しい女を迎えに出かけることになった。彼は、一跨ぎに半里も歩ける魔法の靴を履いていたが、それでもミネハハ滝までの道のりがたいへん遠いように思えた。それ程ヒアワサの心は、美しい乙女にあこがれていたのだった。ヒアワサは、意中の乙女ミネハハへの贈物にするために、途中の森で、美しい鹿を射止めた。そしてそれを肩にかけて、どんどん道を急いでいると、やがて乙女の家に着いた。矢つくりの老人は、戸口のところに座り込んで、熱心に鏃をこしらえていた。そしてその傍に、ミネハハが、綺麗な手で葦を編んで、敷物をこしらえていた。矢つくりの老人は、黙りこくって、過ぎ去った昔のこと(若い時に、狩の場で現した素晴らしい自分の手柄や、遠近(おちこち)の戦士が、自分のこしらえた名だたる弓の矢を買いに来たにぎやかさなどを、それからそれへと考えていた。その傍に座り込んでいる乙女も、春の明日弓の矢を買い入れに来て、我が家の中に腰を下ろしながら、気持ちのいい話をした、りりしい若者のことを熱心に思い続けていた。「お父さんは、その後よくあの若い方の噂をして、あの方の勇気や知恵を褒めて下さる。でもあの方に二度とお目にかかることができるかしら」ミネハハがこんなことを考えていると、出し抜けに近くの藪の中で、ざわざわという音がした。美しい乙女は、何気なく目を上げて、音のする方を眺めた。すると、たちまち今が今まで思い詰めていた若者が、見事な鹿を肩にして、現れて来た。ミネハハは、頬の熱くなるのを隠して、お父さんと一緒に、いそいそとヒアワサを家の中に迎え入れた。そしてかいがいしくご馳走の仕度を整えて、客人とお父さんとの前に並べ立てた。食事の間、二人は様々の世間話をしていたが、やがてヒアワサは言葉を改めて、「あなた方ダコタ人と、私たちオジブウェー人との間には、たびたび争いが起こったそうですが、今は幸いに仲が良くなっています。私たちは、今後ますます仲良く平和にしていくことにしようではありませんか。ついては、その手立ての一つとして、あなたの娘を私の妻にいただきたいと思うのです」と語った。矢つくりの老人は、りりしい若者と麗しいわが娘とを代わる代わる眺めながら、暫くの間黙り込んでいたが、やがて、「娘が承知でしたら、あなたのお話に応ずることにしましょう」と答えた。そして乙女の方を向いて、「ミネハハ、そなたはどうだ。遠慮なく思っていることを話すがいい」と言った。ミネハハは静かに立ち上がって、ヒアワサの側に座り込んだ。そして面はゆそうな嬌態(しな)をしながら、「我が夫よ、私はどこまでもあなたのお供をしたいと思いますわ」と言った。ヒアワサはミネハハを連れて、シューペリオル湖の端の我が家へと道を急いだ。二人の若人は、顔を輝かして、丘を越え、谷を渡った。大きな川が現れると、ヒアワサは、頑丈な腕でミネハハを抱き上げた。森の中に道が尽きると、樹の枝を伐り落としたり、草を踏み分けたりして、乙女のしなやかな足をいたわってやった。そして日が暮れると、いつもさっぱりした小屋をこしらえて、夜の床としてやった。とうとう二人は、シューペリオル湖の端に出た。ノコミスは二人を迎えて、饗宴を開いてくれた。ノコミスが送り出した大勢の使者どもは、手に柳の枝(招待のしるし)を携えて、村中の人たちを招待して回った。人々は、自分たちの持っている着物のうちで、一番美しいのを身に纏って、饗宴の席に集まった。食事が済むと、ノコミスは、お客たちの煙管(きせる)に香の高いタバコを詰めてやった。そしてパウ・パク・キーウィスという若者を呼び掛けて、「さあ、皆さんを楽しませるために、お前さんの名高い踊りを踊っておくれ」と言った。パウ・パク・キーウィスは、陽気な若者で、遊戯やふざけ事が大好きだった。戦士たちは、日頃彼を怠け者だ、臆病者だ、賭け事師だと呼んでいたが、彼はそうした悪口を少しも気に掛けませんでした。「なに、戦士たちがなんと言っても、女や娘っこには、大した人気があるからな」彼はいつもから思って、心の中で自慢をしているのであった。パウ・パク・キーウィスは、ノコミスに声をかけられて、すぐに一座の真ん中に現れた。彼は、数珠玉や鳥の羽根で緑をとった、柔らかな白い毛皮を纏って、さまざまの色に顔を彩って、長い頭髪に油を塗り、香りの高い草でそれを編んでいた。太鼓の音が響き、笛の音が鳴り始めると、パウ・パク・キーウィスは、その調子に合わせて、不思議な「物乞い踊り」を踊り出した。静かに厳かに始まった踊りは、次第に舞の手を速めて、パウ・パク・キーウィスの体は、独楽(こま)のように、くるくると回って来た。そして一座の人々を踊り越え、塵ほこりを蹴り立てて、さながら旋風のように狂いだした。と思うと、彼は湖の端に駆けて行って浜の真砂(まさご)を吹雪のように、右に左にまき散らしていたが、やがて、饗宴の席に帰って来て、座り込んで、七面鳥の羽根でこしらえた扇で、汗みどろの体を煽ぎながら、にこにこと笑っていた。その次には、ヒアワサの親しい友達のチビアボスという巧みな歌い手に、「歌え、歌え。美しい歌を」という所望の声が湧きたった。誰一人として、チビアボスの歌を聴きたがらない者はなかった。村の男たちや女たちばかりではなく、森の中に住む鳥や獣までも、その美しい歌声にうっとりとなるのであった。チビアボスは、みんなに勧められて、静かに歌い出した。歌の進むにつれて、眼が輝き、頬が紅くなった。歌の調べは、高くなり低くなり、岩にむせぶせせらぎのように幽かになったかと思うと、晴れ渡った日の波の音のように朗らかになるのであった。チビアボスの歌が終わると、一座の人たちは、年を取ったイアグーに向かって、「今度は、お前さんの番だ。一つ珍しい話をしておくれ」と言い出した。イアグーは、偉い旅行家であって、また偉い話し手であった。彼のいうことをことごとく信ずるならば、広い世の中にも、彼くらい驚くべき働きをした者はなかった。しかし人々は、彼のいうことを一から十まで真実だとは思わなかった。「イアグーは少し法螺吹きだ」人々はこう言って、影では嘲笑っていた。それでも彼らは、イアグーの不思議な物語を聞くことを喜んでいた。イアグーは、その日の饗宴では、宵の明星の息子オッセオの話をした。お客たちは、みんな熱心にその話に聞きほれていた。やがて夜が更けたので、人々は、ヒアワサと花嫁とを残して、それぞれ自分の家に帰って行った。ヒアワサはミネハハとは、仲良く幸福に暮らした。そして二人の力で、今まで争い合っていた多くの部族も、すっかり親しくなった。そして男たちは、敵に襲われる心配をしないで、魚を捕らえたり、獣を狩り立てたり、舟をこしらえたりすることができるようになり、女たちも安心して、楓から砂糖を作ったり、野生の米を集めたり、玉蜀黍を植え付けたり、鹿の皮で着物をこしらえたりすることができるようになった。

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絵文字の発明

ヒアワサは、人々が平和に幸福に暮らして行けるようになったのを見て、大変嬉しく思った。しかし、彼が心を配ったのは、人々の体の上の幸福だけではなかった。彼は、人々の心の進み方も気を使っていた。ところで、人々の知識は、まだいっこう進んでいなかった。書くことも読むことも、まだ知られてなかった。だから、いろんなことを知っている賢い人が死ぬと、その後に書き物が残らないので、みんなが大変に困るのであった。仕方がないので、人々は、古くからの出来事を口から口へと言い伝えることにしていたが、記憶というのは、なかなか当てにならないので、永い間には言い伝えが少しずつ違ってくるのだった。ヒアワサは、こうしたことが気にかかってならなかった。彼はどうにかして、思っていることや言葉にすることを、目に見える形に表したいと考えた。そこで彼は、静かな森の奥に分け入っては、いろいろと思い巡らせていたが、とうとう絵文字の技を工夫しだした。彼は樺の滑らかな皮を剥ぎ取って、いろんな色を使って、沢山の絵を描いた。絵は日ごとの生活に起こる様々の出来事を表すのであった。それから昼と夜との時間を表すしるしや、招待や戦争などを示すしるしなども考え出した。ヒアワサは、人々を呼び集めて、そうした絵やしるしを見せて、親切にその意味を話して聞かせた。そして、「みんな早くこうした絵文字を覚えてもらいたい。そうすれば、思ったことや口にすることを、いつまでも残しておくことができるから」と勧めた。人々は絵文字を見ると、「なる程、これは便利なものだ。早く覚え込むことにしよう」とすっかり感心して、一生懸命になって絵文字を覚えた。こうして人々は何でも書き物にして残しておくことができるようになった。

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医術の稽古

冬の最中のある日、歌のうまいチビアボスが、ただ一人で狩に出掛けた。チビアボスは、一匹の鹿を見つけたが、鹿は彼の姿を見ると、凍り詰めた湖の上に逃げ出した。「逃がすものか。どこまでも追っかけるぞ」とチビアボスが叫びながら、自分も湖の上を一散に駆けていたが、出し抜けに氷が割れて、彼の体は、シューペリオル湖の中に沈んでしまった。そのとき、ヒアワサは、湖の端の小高い丘に立っていた。しかし、あっという叫び声に驚いて、湖の方を見やったときには、もうチビアボスの姿は水の中に沈みかけていた。ヒアワサは急いで駆けつけたが、どうにも手の付けようがなかった。親しい友達を失くしたヒアワサは、心も張り裂けるような気がした。彼は、悲しさの余り、頭から着物をひっかぶったまま、七週間というもの、身動きもしないで、家の中に座り込んでいた。彼の顔は、悲しみの意を表すために、いろんな色に塗られていた。冬が過ぎて春になった。森の中には鳥が楽しそうに鳴き始め、小川には雪解けの水が快く響きを立て始めた。それを聞くと、ヒアワサは、「チビアボスは、鳥の音よりも、水の音よりも、もっともっとうまく歌うことができたのに」と思って、いよいよ悲しくなった。そうしているうちに、医巫たちが遠くからやって来て、ヒアワサの住んでいる家の側に神聖な小屋をこしらえた。それを見るとヒアワサは黙々として立ち上がった。そして悲しみの意を表す色どりを顔から洗い落として、神聖な小屋を訪れた。彼は、冥府に旅だってしまった親しい友達に対する悲しみを忘れたのではなかった。「死んでしまった者は仕方がない。生きている人々が、傷や病のために死んで行くことを防がなくてはならない。それがチビアボスの死を慰めるせめてもの心やりだ」と思いついたからだった。ヒアワサは、神聖な小屋の中に入ると、医巫たちに頼んで、あらゆる医術を教わった。痛みを止め病を治す草のかずかず、傷を癒し毒を消す薬の草々をすっかり覚え込んだ。それから国中を歩き廻って、人々に医術を教え込むことに努めた。

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悪戯者の最期

陽気で怠け者で、悪戯好きのパウ・パク・キーウィスが、ある日、自分の家を飛び出して、旋風のように村にやって来た。村の若者たちは、そのとき、年を取ったイアグーの家に集まって、その口からもれる不思議な物語に聞きとれていた。パウ・パク・キーウィスは、荒々しくイアグーの家に踏み込んだ。そして若者たちに向かって、「おい、お前さんたちは何をぐずぐずしているのかね。私なんか、もうイアグーさんの法螺話や、ヒアワサさんのもったいぶった知恵には飽き飽きしている。私は、そんなものよりも、遥かに面白い者をもって来たよ。これを見ておくれ」と言いながら、狼の皮でこしらえた袋の中から、何やらばらばらと降りだした。それは、十三個の賽子だった。四つは真鍮で出来ており、残りの九つは骨でこしらえてあった。そして一方の側は赤く、他の側は白く塗ってあった。形もいろいろであった。パウ・パク・キーウィスは、十三個の賽子を木の鉢に入れて、がらがらと振っていたが、やがて床の上にそれを振り出した。若者たちは眼を輝かして、「なんだかおもしろそうだな。やり方はどんなにするのかい」と尋ねた。パウ・パク・キーウィスは詳しくこの新しい遊びの仕方を教えた。すると、老人のイアグーが心得顔に、「私は、これまで方々の国を歩き廻って、いろんな賭け事をやったが、一度だって負けたことはないよ。パウ・パク・キーウィスよ、さあその遊びをやってみよう。お前は、自分ではうまいと思っていても、到底私の相手ではないと言うことを教えてやろう」と言った。パウ・パク・キーウィスは代わる代わるイアグーや若者たちを相手にして、新しい賭け事を始めた。見事な着物や装飾品や煙管や武器などが、惜しげもなく賭けられた。人々は面白さに夢中になって、夜中遊び続けた。そして、夜がほのぼのと明けかかった頃には、一座の者がみんなその持ち物をパウ・パク・キーウィスに巻き上げられてしまっていた。人々は口惜しくて堪らないので、狼のような目をして、パウ・パク・キーウィスを睨みつけた。パウ・パク・キーウィスは、一座の者を見回しながら、「私はたった一人で、家にいても、旅をしても、寂しくて仕方がない。お供が一人あればいいと思っている。どうだね、も一度賭けをやろうじゃないか。私が負けたら、ここにある品をすっかり渡す。勝ったら、向こうにいる若者を私のお供に貰い受ける。それでいいだろう」と言い出した。パウ・パク・キーウィスが名指した若者は、イアグーの甥で、背が高くて、優しい顔をした十六歳の少年だった。イアグーは、パウ・パク・キーウィスに勝負を挑まれると、たちまちかっとなって、「生意気な若者じゃ。よし、やろう」と言いながら、激しく賽を転がした。パウ・パク・キーウィスはにこにこ笑いながら、落ち着き払って賽を振った。賭けはパウ・パク・キーウィスの勝ちとなった。「じゃあ、約束だから、この男の子を貰ったよ」と彼は得意そうにこう言った。そして一夜の賭けで巻き上げられた数々の品物を少年に背負わせて、イアグーの家を出た。暫く行くと、彼は、七面鳥の羽根でこしらえた扇で、遥か向こうの砂丘の間に立っている我が家を指して、「あれが私の家だよ。お前はあそこに品物を持って行っておくれ」と、少年に言いつけた。そして自分は、賭けに勝った嬉しさに、大威張りで村の中を歩き回っていた。やがて村はずれに立っているヒアワサの家にやって来た。家の中には、人気もなく静まり返っていた。パウ・パク・キーウィスは「おや、みんな出払っているな」とつぶやいて、家の中に入った。そして鍋や鉢や着物や毛皮などを、手あたり次第摑み上げては、あたりに投げ散らして出て行った。家に帰って来たヒアワサは、村の者が、パウ・パク・キーウィスのために、悪い遊びでいろんな品物を巻き上げられたと聞くと、火のように怒りだした。「不届きな奴だ。村の若者に悪いことを教え込んだりして。私の家を荒らしまわった奴も、パウ・パク・キーウィスに違いない。日頃憎い奴だと思っていたが、いまこそあいつを取り除く時が来た。世界がどんなに広くても、私の復讐を逃げおおせるほど広くはないぞ」ヒアワサはこう言って、すぐにパウ・パク・キーウィスを探しに出掛けた。村の狩人たちも、彼の悪戯を憎んでいたので、ヒアワサの後から、ぞろぞろとついて来た。彼らは、パウ・パク・キーウィスの足跡をつけて、森の中をあちらこちらと歩き廻っていると、小高い丘に出た。彼らは、いままでここに寝ていたらしいぞ」と言って、ひたすら道を急いだ。すると、やがて、遥か彼方の草原を駆けているパウ・パク・キーウィスの姿が目に入った。パウ・パク・キーウィスは、後ろを振り向いて、ヒアワサに舌を出して見せた。ヒアワサは、丘の上から、大きな声で、「今に見ろ、とっ捕まえてやるから」と叫んだ。パウ・パク・キーウィスは、鹿のように身軽に足早に飛んで行った。そのうちに森の真ん中を流れている静かな川の端に来た。そこには海狸(かいり[ビーバーのこと])の群が巣を構えていた。パウ・パク・キーウィスが、踝の上まで水に渡り込むと、一匹の海狸が水の底から頭を出して、不思議そうな目付きで彼を見上げた。パウ・パク・キーウィスは、海狸に笑いかけて、「ここは、涼しくて気持ちのいい所だね。私は、水の底のお前の家に休んで行きたいよ。頼むから、私を海狸の姿に変えておくれ」と言った。しかし海狸は用心深く、「いや、そうしてあげる前に、みんなに相談をしなくてはならない」と答えた。そして水の中に沈んで行ったが、暫くすると海狸の群を連れて現れて来た。パウ・パク・キーウィスは彼らに向かって、「お前たちの棲み処は、どうも素晴らしく気持ちのいいところだね。お前たちは、利口で賢いから、私を海狸の姿に変えることができるだろう」と言った。海狸の王は「それはできますよ。まず水の中に滑り込んだらいいでしょう」と答えた。パウ・パク・キーウィスは、海狸の群に混じって水の中に沈んだ。と思うと、鹿の革でこしらえた肌着や脛当が、たちまち真っ黒い色に変わり、着物の裾に付けた狐の尻尾も、海狸の尻尾そのままの色や形になった。こうしてパウ・パク・キーウィスは、海狸になってしまったが、もともと威張りたがりなたちだったので、ただの海狸で満足が出来なかった。そこで、海狸の王に向かって、「折角こんな姿になるからは、みんなよりも大きくて、気高い海狸になりたいね」と言うと、海狸の王はうなずいて、「よろしい、承知した」と答えた。弓形の門をくぐって、海狸の家に入ると、広々とした気持ちのいい住居で、床には鳶色の草の葉や樹の枝を敷き詰め、いろんな食べ物がたくさん並べ立ててあった。海狸どもは、パウ・パク・キーウィスを自分たちよりも十倍も大きな体にして、彼らの王と仰ぐことにした。しかし、パウ・パク・キーウィスが、ほっと安心の息をつく間もなく、番兵の海狸が菖蒲の間にある見張場から慌ただしく駆け込んで来て、「ヒアワサが、大勢の狩人を連れてやって来ました。」と知らせた。と思うと、頭の上にけたたましい叫び声や足音がして、あたりの水が渦をなして退いてしまった。「堰が壊れた。住居の天井が破れた」海狸どもはこう叫んで、もっと深いところに身を隠すために、八方に逃げ去った。しかし、パウ・パク・キーウィスだけは、あまり体が大きいので、どうしても戸口から抜け出すことが出来なかった。ヒアワサは、屋根の裂け目から、パウ・パク・キーウィスを見下ろしながら、「いくら悪知恵が自慢でも、私にかかっては駄目だぞ。海狸なんかに化け込んでいても、パウ・パク・キーウィスだということは、一目で分かる」と叫んだ。そのうちに狩人たちが、どやどやと家の中に駆け込んで来て、棍棒でパウ・パク・キーウィスを殴って、とうとう殴り殺してしまった。彼らは、海狸の姿をした悪戯者の屍を駕籠(かご)に乗せて、六人がかりで担ぎ出した。しかし、パウ・パク・キーウィスの本当の最期はまだ来なかった。彼は人間の姿で殺されなかったので、その霊魂は、やはり海狸の屍の中に生き続けているのであった。だから、狩人たちが海狸の屍を担ぎ帰っているうちに、悪戯者の霊魂はこっそり抜け出して、人間の姿に返るや否や、知覚の松の森に逃げ込んでしまった。しかし、目ざとくそれを見つけたヒアワサは、すかさずその後を追っかけた。追いつ追われつしているうちに、パウ・パク・キーウィスは、とある湖の端に出た。彼は、葦の間に泳いでいた黒雁(くろがん)の群に向かって、「私をお前たちのような姿に変えておくれ。みんなよりも十倍も大きくしておくれ。早く早く」と叫んだ。彼の体は、たちまち大きな黒雁に変わった。彼は大急ぎで黒雁の群に紛れ込んだが、その時遅く、ヒアワサが湖の岸に現れて来た。黒雁の群は、けたたましい声を立てて飛び立った。パウ・パク・キーウィスもその中に混じって舞い上がった。彼らは北へと飛んで行きながら、パウ・パク・キーウィスに向かって、「どんなことがあっても、飛んでいるうちに下を向いてはいけませんよ」と固く戒めた。二日目になると、遥か下の方にある村から、大きな人声が聞こえてきた。 「あや、あの中には、ヒアワサとイアグーの叫び声も混じっているな」こう思うと、パウ・パク・キーウィスは黒雁どもの戒めを忘れて、首を縮めて下を見た。途端に激しい風が吹いて来て、七面鳥の羽根でこしらえた扇をあおったので、パウ・パク・キーウィスは、身体のつり合いを失って、くるくる回りながら、下へ下へと落ち始めた。彼の目には、黒雁の群がだんだんと遠ざかって、森や川がだんだんと近くなって来るのがおぼろに見えた。そのうちに、叫び声や笑い声がはっきりと聞こえて、黒雁の影がすっかり見えなくなったかと思うと、大きな音を立てて、大地に落ちた。体が砕け、翼が折れて、黒雁になっていたパウ・パク・キーウィスはもろくも死んでしまった。しかし彼の霊魂は、再び抜け出して人間の姿となって、一散に駆けだした。ヒアワサはすかさずその後を追っかけて、猿臂(えんび)をのばして襟がみを摑もうとしたが、パウ・パク・キーウィスは激しく足を蹴り立てて、雲のように砂埃を上げた。そして、相手がためらっている隙に、身を躍らせて、樹の空洞に飛び込むなり、蛇に姿を変えた。ヒアワサは手早くその樹を微塵に打ち砕いたが、パウ・パク・キーウィスの姿はどこにも見えなかった。彼は人間の姿に返ってパウ・パク・キーウィスを中に入れてくれた。そして急いで駆けつけたヒアワサの鼻の先で、ぴしゃりと戸を閉めてしまった。ヒアワサは大変腹を立てて、魔法の手袋で、岩を叩きながら、「開けておくれ。私はヒアワサだ」と叫んだが、岩山の精は、黙りこくって返答をしなかった。ヒアワサはますます怒りだして、彼方の山々を仰ぎながら、「暴風雨よ、雷よ、電光(いなずま)よ、私に加勢をしておくれ」と叫ぶと、暴風雨と雷と電光が、彼方の山々からさっと湖の上を渡って、岩山に襲い掛かって来た。パウ・パク・キーウィスは岩の隙間から覗きだしながら、轟く雷の足音と、閃く電光の眼とに、ぶるぶる体を震わせていた。そうしているうちに、電光が大きな棍棒を振るって、岩山を打ち砕いた。雷は、岩の間から、「パウ・パク・キーウィスはどこにいる」と叫んだが、さらに返答がなかった。それもそのはずで、パウ・パク・キーウィスは、今度こそ人間の姿をしたままで、崩れ落ちた岩の間に息が絶えていた。こうしてパウ・パク・キーウィスの悪戯も乱暴もすっかりおしまいになった。ヒアワサは、可哀想だと思って、パウ・パク・キーウィスの霊魂を大きな鷲にして、あらゆる鳥の王にしてやった。鷲となったパウ・パク・キーウィスは、今もなお空中に輪を描いて飛びまわっている。

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クワシンドの秘密

ヒアワサが、いろんな偉い働きをするときに、いつも力を与えていたのは、クワシンドという怪力の霊だった。クワシンドは、杉の大木を投槍のように軽々と振り回すことができる。大きな岩を根扱ぎにして、気の向いた方に投げ飛ばすことができる。自由に深い水の中に潜っていくことができる。クワシンドがあまり地化rが強いので、妖精どもがそれを嫉んで、ひそかに彼を殺そうと思い立った。クワシンドは、不死身だった。いや、体中どこにも傷がつかないのであった。しかし、たった一か所弱いところがあった。それは頭の頂だったが、それもただの武器では駄目です。松毬果(まつかさ)で頭の頂を殴りつけるのでなくては、決して傷を受けないのであった。これは、クワシンドにとって大切な秘密だった。ところが、妖精どもがこの秘密を探りだした。「しめた、こうなれば、あの大力者も自分たちの手のうちだ」妖精どもはこういって、たくさんの松毬果を拾い集めて、とある河に差し掛かっている岩の上にそれを運んでクワシンドが通りかかるのを待ち受けていた。夏の暑い午後のことだった。クワシンドは樺の木でこしらえた舟に乗り込んで、静かに河を下って来たが、あたりがあまり暑くて静かなので、つい眠気がさして、手に持っていた橈(かい)を取り落としたかと思うと、ぐっすり眠ってしまった。それが妖精どもの狙っているところだった。彼らは、「クワシンドの奴、死んでしまえ」と叫びながら、岩の上から、クワシンドの頭の頂を目掛けて、雨のように松毬果を投げつけた。たちまちクワシンドの体が揺らめいたかと思うと、真っ逆さまに河の中に落ち込んでしまった。そして二度と再び彼の姿は現れなかった。

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ミネハハの死

永い間安らかな楽しい年月が続いた後で、恐ろしい冬がやって来た。湖や河の水が、すっかり石のように堅く凍ってしまった。深い雪が家々を埋め尽くして、人々は狩に出かけることが出来なくなった。どうにかして森の中に入って行っても、鳥や獣の足跡をつけて行くことができなかった。それでも家の中に引っ込んでいては、飢え死にをしなくてはならないので、弓矢を手にして、無理やりに出掛けたが、雪に蔽われた野や森を歩き廻っているうちに、ひどい寒さのために、手足が利かなくなって、雪の中に倒れたまま、いつの間にか凍え死んでしまうのであった。飢えにせまった子供たちは、力のない声で泣き叫んだ。それを見る母親の胸は、いまにも張り裂けそうだった。こうしたときには、つきもののようになっている熱病が流行り出して、どの家にも、病人の唸く声が物悲しく響き渡るようになった。空に輝く星までが、飢えた狼のような目付きをして、下界の人々を睨みつめているように思われて来た。ヒアワサの家にも、飢えと熱病とが襲って来た。その犠牲になったのは、麗しく優しいミネハハであった。心からミネハハを愛していたヒアワサは、一生懸命になって介抱をしたが、美しい妻の病は日ごとに重くなって行くだけだった。薬ともなるべき草は、深い雪に埋もれて、どこに生えているかさっぱり分からなかった。命の糧となるべき鳥獣の肉を手に入れる望みも絶え果てていた。悲しさと失望とに気が狂ったようになったヒアワサは、厚い毛皮に体を包んで、大きな弓を手にして、あてもなく森の中に駆け込んだ。苦しみ悶えているヒアワサの額には、大粒の汗が滲み出たが、あまりの寒さに流れ落ちもしないで、そのまま凍りついてしまうのだった。ヒアワサは、悩みにゆがんだ顔を空に向けて、「マニトー様、大いなる神様、あなたの子供たちに食べ物をお授け下さい。私たちは死にかけています。」と熱心に祈った。しかし、ヒアワサの痛ましい叫び声が、寒空にこだまを返すだけだった。ヒアワサはどうにかして獲物を手に入れようと思って、一日中森の中を駆け巡った。彼は雪の上に重い足を引きずりながら、「この森こそ、あの美しい乙女をダコタ人の国から連れて通ったところだ。そのときには、森の中に、さまざまな鳥が鳴きかわして、自分たち二人の幸福を祝ってくれたんだが、いまは・・・」と思って、涙に頬を濡らした。重い病に倒れているミネハハの側には、年を取った、ノコミスが付ききって、心を込めて看護をしていた。出し抜けに、ミネハハが、「お聞きなさい。向こうの方でミネハハの滝が私を呼んでいます。」と言い出した。ノコミスは「いいえ、そうではありません。あれは松の樹にうなる夜風の声ですよ」と答えた。暫くすると、ミネハハが、「御覧なさい、お父さんがたった一人で、戸口の所に立っています。ダコタ人の国の家から、お父さんが、私を手招きしている」と言い出した。ノコミスは「いいえ、そうではありません。あれは風になびく煙ですよ」と答えた。また、暫くすると、ミネハハが、「おお、私は、闇の中に氷のような死の手を感じます。ヒアワサ、ヒアワサ」と叫び出した。森の中に彷徨っていたヒアワサは、不意にミネハハの叫び声を聞きつけて、足を空にして家へ駆け戻って来た。家の中には、年を取ったノコミスが、床の中に転がるようにして泣き悲しんでいた。愛するミネハハは、もう息が絶えて、冷たくなりかけていた。ヒアワサは、ミネハハの足下に座り込んでいた。人々は、森の中の雪を掻き分けて、ミネハハの墓をこしらえた。それが出来上がると、麗しい死体をその中に埋めて、静かに土をかけた。降る雪が見る間に黒い土を隠してしまった。それから四日の間、ミネハハの墓の上に、火が燃やし続けられた。この世から冥府に行きつくには四日かかるのである。ヒアワサは、いとしい妻の霊魂がとぼとぼと辿って行く道を明るくしてやるために、四日の間火を燃やし続けたのであった。彼は家の戸口の所に立ち尽くして、火の消えないように心を配っていた。そして悲しげに、「さらば、我がミネハハよ。そなたがどこへ行くにしろ、私の心はすっかりそなたと一緒にいるんだよ。この世の仕事が終わったら、私もそなたの後を追って行くよ。骨折と悩みとのない国へ、祝福された者の行く国へ、あの世の世界へ」と言った。

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ヒアワサの行方

苦しく悩ましい冬が過ぎて、やっと暖かな春が帰ってきた。春と一緒にあらゆる鳥や花が帰って来た。そして鳥や花と一緒に、年を取ったイアグーが遠い東の旅から帰って来た。イアグーは、東の旅で見た不思議なことを話し出した。「私は、シューペリオル湖より、もっと大きな湖を見たよ。その水は辛くて苦くて、とても飲めないのだ。しかし、それよりももっと驚いたことには、そこには、翼の生えた大きな舟が浮かんでいたんだよ。ここいらにあるどんな背の高い杉の樹よりも一層背が高くて、おまけに口から雷や電光が出てくるんだ。そして舟の中には、顔を真っ白く塗りたくられた戦士がどっさり乗り込んでいるじゃないか」村の人たちは、こうした話を聞くと、男も女も老人も子供も、一斉に笑い出して、「そんな馬鹿なことがあるものかな。法螺もいい加減にしてくれ」「ほんとにそうだわ。口から雷や電光を吐く舟なんか、ありはしないわ」と嘲った。しかし、さっきから黙々として耳を傾けていたヒアワサだけは、笑いもしなければ嘲りもしなかった。彼は人々に向かって、「いや、イアグーのいったことは、全く本当だ。私は、その翼の生えた舟が、真っ白い顔をした人たちを乗せて、東の方からやってくるのをはっきりと幻に見たよ。偉大なマニトー様が、ご自分の使者としてそうした人たちをお遣しになったのだ。私たちは友達として、兄弟としてその人たちと仲良くしなくてはならない。マニトー様のお告げによると、見知らぬ人たちが、今後どんどん西の方に進んで来て、ゆくゆくは私たちの国いっぱいになるのだ。そして森の中を伐り倒しては、大きな街をこしらえるのだ」と言った。人々はこれを聞くと、驚き呆れて、まじまじとヒアワサの顔を見つめた。ヒアワサは悲しそうな様子をして、「それから、私はもっと悲しい幻を見たんだ。ここいらに住んでいる人々は、私の教えを忘れて、お互いに喧嘩をしたり殺し合ったりする。それがために白い顔をした人たちに追いまくられて、秋の木の葉のように、西へ西へと引き込んで行くのだ」と言った。人々はお互いに顔を見合わせて、黙りこくっていた。春が過ぎて夏になった。美しく晴れ渡ったある朝、ヒアワサは、自分の家の戸口に立って、双の手を空高く挙げた。一隻の樺の丸木舟に乗って、シューペリオル湖を渡ってきた顔の白い人たちを迎えたのだった。舟から上がってきたのは、一人のお坊さんと、その供回りと案内人だった。お坊さんの胸には十字架のしるしがついていた。ヒアワサは、お坊さんたちを迎えて、「私たちの国は、穏やかにあなた方を待っています。どこへいらしても、快く戸を開いて、親切にあなた方をお迎えするでしょう」と挨拶した。お坊さんは、やっと習い覚えたインディアンの言葉で、どもるように、「そなたに平和あれ、ヒアワサ。そなたとそなたの人々にキリストの平和あれ」と言った。ヒアワサはお坊さんたちを、自分の家に招じ入れた。年を取ったノコミスがすぐに食べ物を出して、彼らをもてなした。食事が済むと、村中の老人や医巫や戦士たちが、お坊さんたちを歓迎して、その言葉を聞くために、ヒアワサの家の戸口に群がってきた。お坊さんは、彼らに向かって、救世主キリストの一生の物語を手短に話して聞かせた。「皆さん、キリスト様は、世界中の人々をその大きな罪悪kから救いだしてくださるためにお生まれになったのであります。キリスト様は、私たちのために、喜んで十字架におかかりになりました。そしてやがて生き返って、天国にお昇りになりました。私たちは、キリスト様を信じて、悔い改めなくてはなりません」老人や医巫や戦士たちはお坊さんの話を熱心に聞いていたが、話が済むと、静かに立ち上がって、めいめい自分の家に帰って行って、若い者や女たちに、お坊さんの話をして聞かせた。お坊さんたちは、夏の日の暑さに疲れ切って、ヒアワサの家で、夕影が濃くなるまで眠った。ヒアワサは考え深い目つきをして彼らの寝姿を眺めていたが、やがて立ち上がって、ノコミスの側に行った。そして客人たちの眠りを覚まさないように、小さい声をして、私は、これから長い旅に出掛けます。行く先は、入り日の門の彼方にある西北風の国です。客人たちの世話は、あなたにお頼みします。どうか食べ物に不足のないように、また客人たちの身に災いの起らぬように、気を付けてください」と言った。それから村中を歩き廻って、人々に、「私は、遠い旅路に出るつもりだ。永い間会うことができないだろう。客人たちのことは、一切お前さんたちに頼んでおくよ。どうかあの人たちの教えを良く守っておくれ。『生命の主』が、あの人たちを『朝の国』からお遣わしになったのだから」と言って聞かせた。ヒアワサは、日頃愛していた樺の丸木舟に乗り込んだ。そして、「西へ、西へ」と囁くと、舟はすぐに入り日に輝く湖の上を飛ぶように滑り出した。人々は皆湖の端に集まって、遠ざかって行くヒアワサの舟を見送っていた。舟は、夕日を浴びながら、だんだんと小さくなって、やがて紫だった淡靄(うすもや)の中に消えてしまった。「さよなら、ヒアワサ」と人々が叫んだ。「さよなら、ヒアワサ」と薄暗くなった森が叫んだ。「さよなら、ヒアワサ」と湖の波が小石に砕けながら、すすり泣きをした。「さよなら、ヒアワサ」と青鷺(あおさぎ)が遠くの沼地で、甲高い声で叫んだ。こうして、みんなから愛され、親しまれ、敬われていた英雄児ヒアワサは、数々の偉い仕事をしてしまった後で、入り日に照り映える美しい景色の中を、祝福された者の国へ、ポネマーの王国へ、あの世の世界へと行ってしまった。

解説:ヒアワサの父がペルシャのシャーメーナに出てくるザールではないだろうか。そして、ヨセフとアセナテの話から、派生してミネハハとヒアワサの結婚があるようにも思う。しかし、ヒアワサはナフタリなのではないかとも思う。ナフタリ遺訓ではヨセフはあらゆる点でナフタリに似ていたとあるが、それは、ヨセフとアセナテにあるように、「至高者は天に婚礼の部屋を備えられた」ということに起因しているように思われる。何らかの魂の重複によって引き起こされた問題がこの神話には見受けられる。 また、マニトーは「生命の主」と呼ばれ、モンダミンはケルトのミャハに似ている点も重要だ。この話の付近には多くの矛盾が同一に見える何かが存在していると思う。それが太平洋の歴史の最深部の問題なのだろう。これを紐解く術がどこにあるだろうか。検討してみる価値はありそうだ。

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